こころ (一語の辞典)

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  • 三省堂
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  • Amazon.co.jp ・本 (115ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784385422015

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  • 日本の精神史に示されるさまざまな側面を、「こころ」という言葉の持つ意味の多様性に即して論じている。

    著者がまず議論の対象とするのは、歌を詠む「こころ」である。日本文学研究者のD・キーンは西洋と日本の詩の性格の違いを、次のように説明した。すなわち、西洋では、超自然的な存在が、その霊感に動かされた詩人を通して語ることで詩が生まれると考えられているのに対して、日本では、超自然的な存在は認められず、「詩を書くことは人間の力だけでできる」と考えられていた。だが著者は、藤原俊成や定家、西行らの歌論を検討することで、こうしたキーンの見解に反論を試みる。

    彼らの歌論から読み取ることができるのは、心に思うことを自然の情景に託すとき、そこに生まれる交感交流が歌となって現われてくるという考えだ。自己の内面に沈潜することを経て、そこから新しい詩的世界を自由に形成することによって、歌は生まれる。したがって日本の歌は「人間の力だけで」できるのではなく、人間と自然との交感交流の中から生まれてくると言わなければならない。

    また、著者は「無私」の心情の変遷をたどる試みをおこなっている。日本では、古くから心情の純粋さを「清き明き心」として尊重してきた。心情の純粋さは、人間関係においては二心のない心を意味し、そうした心が人倫の和を生むとされる。また、事態の真実を捉える「正直の心」にも、「無私」の心の発想が見られる。「正直の心」とは道理を求める心だが、客観的で普遍的なな正しさを求める心情ではない。むしろ、心を私心のない状態に持ってゆくことで、状況に即した道理があるがままに映し出されるという発想に基づいている。

    著者は最後に、こうした「無私」の心情に基づく日本的な「良心」のさまざまなありようを、和辻哲郎の倫理思想に至るまでの日本倫理思想史をたどりながら紹介している。

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