シオドア=ドライサー (センチュリーブックス 人と思想 154)

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  • 清水書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784389411541

作品紹介・あらすじ

『アメリカの悲劇』の作者シオドア・ドライサーは一九世紀末から二〇世紀前半を生きたもっともアメリカ的な小説家だった。彼はドイツからの移民の子として貧困の中に育ち、自学自習で小説家としての成功を夢見て、苦労をしながら奮闘した人である。少年期から青年期まで、様々な職に就きながら、新聞記者、雑誌編集者を経て、念願の小説家となり、やがては当時の文学時流であった自然主義文学の代表的作品を世に問うまでとなった。晩年彼は必ずしも小説家として十全の時を送ることはできなかったが、ドライサーの生涯はまさに「アメリカの夢」を見、実現させようと努力した軌跡である。ここにアメリカに生きる男の典型があったと読者は感ずるはずである。

感想・レビュー・書評

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  • 映画「黄昏」や「陽のあたる場所」の原作者として興味がわき読んでみた。

    表紙の文:「アメリカの悲劇」の作者シオドア・ドライサーは19世紀末から20世紀前半を生きたもっともアメリカ的な小説家だった。彼はドイツからの移民の子として貧困の中に育ち、自学自習で小説家としての成功を夢見て、苦労をしながら奮闘した人である。少年期から青年期まで、様々な職に就きながら、新聞記者、雑誌編集者を経て、念願の小説家となり、やがては当時の文学時流であった自然主義文学の代表的作品を世に問うまでとなった。
     晩年は必ずしも小説家として十全の時を送ることはできなかったが、ドライサーの生涯はまさに「アメリカの夢」を見、実現させようと努力した軌跡である。ここにアメリカに生きる男の典型があったと読者は感ずるはずである。

    「黄昏」の原作は「シスター・キャリー」でドライサーの姉のエマがモデルになっている。8つ年上のエマはドライサーに手紙をくれるとき、「シスター・エマ」と記した。エマは早くから家を出て、シカゴで生活したが、後に年上の愛人ホプキンズという男とかかわりあい、公金拐帯の罪を犯した彼と共にシカゴから逃げ、カナダにいたり、後にニューヨークへ出てきた。しかし金の大半を返却したホプキンスは犯罪者のレッテルこそ貼られなかったが、職にもつかず、エマに寄食し、ついには行方不明になってしまった。映画でのキャリーの女優としての成功のほかは大方がエマの人生をもとに構成された。

    「シスター・キャリー」の原稿を受け取ったハーパーズ社の編集者ノリスはその夜のうちに一気に読んだといわれる。ノリスはシオドアと歓談し、「これからのアメリカ小説は、シオドアのキャリーのように、都市を背景にし、かつまた都市を主役としたものでなくてはならない」と語ったという。

    実は原作を読んでみようかとも思ったのだが文学全集に入っている「アメリカの悲劇」はものすごい分量。この研究書を書棚にみつけぱらぱらと読んでみた。

    「アメリカの悲劇」は、実際に起こった「グレイス・ブラウン、チェスター・ジレット事件」を下敷きにしているという。1906年7月12日に、グレイスの溺死体がニューヨーク州北部のアディロンダック山岳地域にあるビッグムース湖で発見された。湖畔のホテルの遺留品から犯人は行方不明の男、チェスター・ジレットを逮捕。
     チェスターは1884年にネヴァダ州の伝道師の息子に生まれたが、14歳で家出し、オレゴン、カナダ、サンフランシスコ、へと雑職につきながら放浪、船乗りとなって西インド諸島に行き、イリノイ州に戻り東部で成功している伯父を頼り伯父の会社に就職。一方殺されたグレイスはニューヨーク州の貧しい農家の娘。
     犯人とドライサーの出自の類似~厳格な宗教的環境と父に反発し、早い時期に家を出た、という事で、この事件をモチーフにしたのではとしている。実際の犯人チェスターは、本とは違い、現実にはもっと単純で女を食い物にする男だったのかもしれない、と著者は書いている。ドライサーは、自分と共通する環境と精神を彼の経歴に読み取ったため、「アメリカの悲劇」の主人公、グリフィスの中に自身の少年期から青年期に至る心情を書き込んだのだろうという。

    2002.5.10第1刷 図書館

  • アメリカの作家、シオドア・ドライサーについての概説書。シカゴ大で、シカゴ社会学(大半が男性の研究者)が女性をどのように対象としてきたのかを調べようとしていて(遠い昔のことのよう。これ、ちゃんと集めた資料をモノにできるのか全く自信なし)、社会学の先生から、「20世紀初めのアメリカで最も売れた小説を知っているか?Sister Carrieだよ」と言われて、はじめてこの作家の事を知った。この本では、貧しいドイツ系移民の家族に生まれながら、ゴシップ新聞に自ら売り込んで記者となり、色々なツテを使ってもっといい新聞社に移ったり、雑誌の編集をしたり、と転々としながら、作家になりたいという夢を叶えていったこと、その過程で一定の成功を収めながら、失敗して金を失うことへの不安や、評価されたいという強い思いで、トラブルに見舞われ続けたことなどが書かれている。

    代表作のSister Carrieは、田舎から出てきた若い女が都市に出てきて、まともに仕事をしているのではとても浮かび上がれない現実(安い賃仕事しかない)に直面するけれど、美貌で未婚のまま愛人になったりして、生活を安定させる、そしてよりよい(収入が高かったり、年齢が上だったり)男に乗り換えながら、上昇するというストーリーと、その愛人の男の転落が描かれる。1900年に出版され、当初は不道徳だと批判され、出版社との関係もうまくいかずに消えそうになるのだが、その後別の出版社から売り出されて、かなり売れた。また、20世紀後半になって、オリジナルの原稿と、編集者が手を入れた版などが比較研究されるなど(ペンシルバニア大が詳細な研究書を出している)、今も関心を集めている小説だという。

    シカゴ大の先生が言っていたとおり、確かに面白い。ドライサーの姉たちも、そこそこ収入のある年上の男性の愛人になって、その金を家族に送ったりしたらしいし、こうした行為を宗教的にも道徳的にも許せないと思っていた父は、結局娘の世話になるしかなかった。

    ドライサーは、こうした姉の姿をモデルに、当時のシカゴやニューヨークの風俗を交えながら、キャリーという女性を造形している。
    厳しい性的規範と現実とのギャップ。
    また、上昇する女と、敗北する男として書いているのも面白い。(作家自身は男なので)

    最も売れたという『アメリカの悲劇』のほうは、典型的に「妊娠小説」(斉藤美奈子のいうところの)で、貧しい男が、上流階層の女とうまくいきそうになったときに、前の恋人(妊娠している)を殺してしまう(半分意図的、半分は非意図的に)という話らしい。

    とりあえず、この概説読んで小説も「読んだつもり」になっているが、もし本当に前に集めた資料で研究を進めていくならば、Sister Carrieは読みたいなと思った(一冊古本市で買ったけど)

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著者プロフィール

いわもと・いわお
1930 年大分県生まれ。アメリカ文学者、筑波大学、
麗澤大学名誉教授。1953 年東京教育大学卒業。
中央大学、東京学芸大学を経て筑波大学教授、
1990 年退官し麗澤大学教授、2003 年退職。
主な著書には、
『現代アメリカ作家の世界』(リーベル出版、1988年)、
『変容するアメリカンフィクション』(南雲堂、1989年)、
『ミドルタウン物語』(沖積舎、1999年)、
『シオドア・ドライサーの世界』(成美堂、2007年)等が、
主な訳書には、
『結婚しよう』(ジョン・アップダイク、新潮社、1978年)、
『フローティング・オペラ』(ジョン・バース、講談社、
1980 年)、『アップダイク自選短編集』(新潮文庫、1995年)、
『ゴルフ・ドリーム』(ジョン・アップダイク、集英社、
1997年)、『レターズ』(ジョン・バース、共訳、国書刊行会、
2000年)、『カッコーの巣の上で』(ケン・キージー、白水社、
2014年)等がある。

「2016年 『現代アメリカ文学講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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