- Amazon.co.jp ・本 (146ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396328160
感想・レビュー・書評
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ホラー作家・小林泰三さんが祥伝社文庫創刊十五周年記念に著した特別書き下ろし中編小説。ああ、不覚にも私はお名前の読みを「たいぞう」さんだと思い込んでいましたが実は「やすみ」さんだと初めて知りました。日本語は本当にややこしいですね。それから著者のお写真を拝見して普通のイケメン男性である事にも(ホラー作家のイメージとの落差に)驚きましたね。この男・藤森直人(竹中じゃなく)は「男おいどん」みたいな環境で暮らす怠惰な野郎で世の若者は反面教師とすべきでしょう。彼は現世よりも2つの月がある異世界で幸せを探すべきですね。
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この人は「嫌な」ホラーを書くのが上手い、読み手に「こうなったら嫌だな」という不安を植え付けて増長させる、そういった文章を書くのだ。
本書も、己のふしだらさによって追い詰められる主人公が描かれており、読み進めていく読者の胸を不安で押しつぶしてくる。「もっとうまくやれよ」「なんでそうなるんだ」「あ~ぁ」そう心でボヤいているうちに主人公は大きな決断を迫られる、というより先送りしていた決断を下すこととなる。そうして物語の終盤で齎されるカタルシスは中々に素晴らしく、読者を圧迫していた不安感をキレイに洗い流してくれる。
同著者の作品『目を擦る女』『予め決定されている明日』『脳髄工場』なども不安感を与える「嫌な」作品ではあるが、本書を越えるかと言われれば「NO」だ。正直なところ、本書は気軽に勧められない部類の本だと思っている。精神的に弱っていたり感受性が高い人が読むとストレス負荷が増大するかもしれない。なのでもし読むならば、メンタルが良好でピーカンに晴れた午前中に読むことをお勧めする。 -
“考えられる可能性の第一は夢だ。幼児は夢を現実だと思い込む傾向があるのかもしれない。あるいは、何かの錯覚だったのかもしれない。金星のような明るい星が月のすぐそばにあったか、大気中の何かの現象が月を二つに見せたかしたのだろう。それとも、空想と現実の区別が曖昧だったのか?ひょっとしたら、自分は幼い頃から、少し狂気が帯びていたのだろうか?今のこの状況はその狂気が原因なのだろうか?
直人は背筋が寒くなるのを感じた。
どうすれば、自分の正気を確認できる?おそらく、さらに思い出を探り続ければはっきりするはずだ。あの頃、月は常に二つだったのか、それともいつもは一つだったのか。そう。月に関する思い出を探すんだ。月に関する別の思い出を……”[P.37]
この本の話「奇憶」は以後の「忌憶」に収録されているのでした知らなかった。
今更だけど、汚い部屋の描写が上手い。眉をひそめて思わずその本すら埃に塗れているんじゃないかと思うような。
よもつしこめ。ぬわいるれいとほうてぃーぷ。ショゴス2号。
“部屋の中にはもう一つ別の生き物がいた。真っ黒なそいつはゼリーのように床に広がり僕の体を嘗め回した。
「これは何!?」僕は思わず叫んだ。
「呪われたもの……這い寄る混沌」
老婆はますます意味のわからないことをぶつぶつと呟きながら、僕の周りで踊った。”[P.103] -
量子力学やらクトゥルーやらブレードランナーやらへの言及もあったりして、この作者らしい作品になってます。しかし、なんといってもすばらしいのは、足の踏み場もないアパートに住み、恋人(恋人がいたこと自体が謎だが)にも逃げられ、だらだらと生活するダメ人間のリアリティあふれる描写ですね。特に、何もしない自己を正当化するために展開する自分勝手な論理には唖然・・・
内容自体は今までの小林作品の中ではサイテーランクです。中編ではなくやはり短編の方が力を発揮できる作者なのでしょうかね。 -
現実生活はみじめなものだった。恋人も去り、大学も行かず、金はない。
だが〔夢〕だけはよく見た。そこでは鬼の顔をした老婆「よもつしこめ」が
囁くのだ。「物心がつくと世界は一つしか見えなくなる」と。そうだ、子供の
時、僕は確かに二つの月を見た。あれははたして現実だったのか? -
だめだめな主人公が、物心がつく前は二つの月や、空の半分を埋め尽くす月を見た事を思い出す。
「物心がつくと世界は一つしか見えなくなる」という鬼の顔をした老婆「よもつしこめ」は実在するのか、本当に平行世界は実在するのか、、
主人公のだめだめさが酷過ぎて共感できるところが少なく、残念だった。
平行世界(パラレルワールド)の表現はさすが小林泰三というところが見られたのが救いだった。
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小林泰三にしては、パワー不足が否めない
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まあ、あんまり面白くはなかったかな。何かしら実体験っぽさがあるけど、小林泰三は電器メーカー勤務だから当てはまらんね。今から読むのなら、これと書きおろしの収録されてる忌憶を買った方が良いかと