もうひとつの評決(祥伝社文庫こ17-71) (祥伝社文庫 こ 17-71)
- 祥伝社 (2023年2月9日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396348700
作品紹介・あらすじ
5対4で有罪――
この判決は、ほんとうに正しかったのか?
死刑か冤罪か。
母娘殺害事件を巡り、6人の裁判員と3人の裁判官は究極の選択を迫られる!
法廷ミステリーの傑作、初の文庫化!
被告人は三十間近の冴えない男だった。出会い系サイトで知り合った女とその母を殺したのだ。離婚協議中の会社経営者・堀川恭平は裁判員制度により選ばれ、彼の審理に参加することに。最高刑が死刑まである事件だ。ところが公判初日、男は一転無罪を主張。法律の素人である6人の裁判員の議論は紛糾、新たな仮説まで浮上する。やがて堀川らの人生は事件の真相に蝕まれ……。『裁判員――もうひとつの評議』改題作品
感想・レビュー・書評
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裁判員裁判の問題点を浮き彫りにする法廷ミステリー
こんなことが本当にあったら、辛い。
正直、裁判員にはなりたくないです....
出会い系サイトで知り合った女性とその母親を殺害したとされる裁判。被告の木原は裁判では一転無罪を主張。
その裁判の裁判員に選ばれたのは主人公堀川を含めた6人。
裁判官3人を含めて、9人は評決を迫られます。
死刑か冤罪か?
議論は紛糾、新たな仮説。
堀川は悩みながらも無罪を主張しますが..
9人の下した判決は多数決で有罪。
ほかのメンバで議論したら、ちがう評決になっていたかもしれない。
そんなことってあっていいの?
ここで交わされる議論は裁判員裁判の限界なのかもしれません。
しかし、木原は拘置所内で「むじつ」のメッセージを残して自殺。
評決に納得がいかなかった堀川は自ら事件の真相を調査し始めます。
守秘義務との葛藤。
自ら仮説に基づいたその行動は?
ある意味結果オーライなんだけど、いろいろ考えさせられる結末でした。
お勧めです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
小杉健治『もうひとつの評決』祥伝社文庫。
法廷ミステリー小説。『裁判員 ―もうひとつの評議』を改題、初文庫化。
人が人を裁く責任の重さと危うさを法廷ミステリーという形で巧く昇華させた見事な作品であった。タイトルの『もうひとつの評決』の意味は終盤に知ることになる。
少し腑に落ちない点はあるが、面白い。
29歳の木原一太郎が出会い系サイトで知り合った並河留美子と母親の富子を刺殺したとされる事件の裁判員裁判が行われる。
離婚協議中の輸入雑貨会社の経営者、堀川恭平は6人の裁判員に選ばれ、犯行を自供した木原一太郎の審理に参加する。ところが、公判初日に木原は自供を翻し、無罪を主張する。物理的な証拠が乏しく、目撃証言と状況証拠ばかりに頼る審理は紛糾し、新たな仮説までが浮上する。
6人の裁判員と3人の裁判官が下した結論は5対4の多数決で有罪、最高刑の死刑判決が下される。無罪を主張していた堀川は、死刑判決に納得出来ないままに再び日常と離婚協議の中に身を投じる。
そんな中、拘置所内で木原が自らの血で壁に『むじつ』と書きしたためて、自殺を図る。
木原は無実だったのか。無実だとしたら6人の裁判員は……
本体価格800円
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女性二人が殺され、30間近の気の弱い男が逮捕された。この殺人事件は裁判員裁判に委ねられた。容疑者は無罪を主張。無罪か死刑かの判断を迫られる裁判員たち。裁判の進行中に新たな疑問が浮上するが、追加の捜査は無い。欠陥だらけの証拠で出した評決は、、、そして真相は、、、裁判員制度の問題点がよくわかった。
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裁判員制度の問題点を取り上げた小説でした。淡々と描かれていてとても読みやすかったです。
読後の感想ですが、自分だったら裁判員はやりたくないです。そもそも法律のこともよく分からない一般市民を呼び出して、専門的なことをやらせて心理的な負担まで強いる制度ってどうなのって思いました。
判決に対して少なからず責任も感じるし、その後関係者に恨まれることもあるし、全員が守秘義務を貫くかも分からないし。結構リスクが伴います。
そもそも司法へ市民感覚の反映っているのか?と思いました。作中にもありましたが、しかるべき立場の人がきちんとあらゆる検証をして裁くことができないから、裁判員にも責任を負わせたいってことなのかと思いました。
ストーリーは面白いのですが、主人公がかなり危ない橋を渡る捜査を勝手にするのでハラハラしました。 -
裁判員裁判をテーマにした法廷ミステリー。
裁判員になった主人公は、担当した裁判で、被告は無罪だろうと思いながら、多数決で死刑の判決が下されてしまう。
冤罪を疑い、判決に疑問を感じる主人公は、独自に調査を始める。
被告の弁護人を訪ね、被害者宅の近隣の人たちにも、事件について問い合わせる。事件の真相が見えてきて、他の裁判員にも同調する者が現れる。
主人公の個人的な問題と合わせ、死刑か冤罪か、とのスリリングな内容に、一気読みとなる。
「裁判員裁判とは、市民が司法に参加するという意義の半面、被告人が運、不運を強いられる制度」であり、「欠陥だらけの証拠を提示されて、それをもとに裁判員は評決を下さねばなら」ないことを描き出す。
司法制度に拘束される弁護士や裁判官の姿も浮かび上がらせる。
裁判員の守秘義務違反の罰則が適用されかねないにもかかわらず、記者会見を開こうとする裁判員たちの勇気と志の強さに、カタルシスを覚える。 -
被告人の木原一太郎は、30歳間近の弱々しい男だ。
木原が起訴された事件とは、出会い系サイトで出逢った美人の並河留美子と、その母親の富子の二人を刺殺したことだった。
これまで女性と一度として付き合った経験がなかった木原は、優しく接してくれた留美子に好意を寄せる。
そのうちに留美子から50万円、150万円を工面してくれと頼まれ、木原はそれに応える。
そして3回目の要求額は300万円となり、木原は300万円を用意して母親と同居している留美子宅へ向かった。
そこで何らかのトラブルが起こったのか、木原は親子を刺殺した犯人として逮捕、起訴された。
警察の取り調べでは犯行を自白していたにもかかわらず、法定の証言台で「私は殺していません」と涙を浮かべながら訴え、一変して犯罪を否認した。
木原は無罪なのか有罪なのか、物語は進んで行くのだが、事件の内容は意外とシンプルで、ミステリー好きの読者には舞台裏を想像するのは容易いかも知れない。
だがそこは小杉健治氏が綴った裁判員裁判の物語だ。 主題はこの裁判員裁判の制度に焦点を当てた内容となっている。
小杉氏は、裁判員の一人である堀川恭平に、裁判員制度の矛盾と問題点を体験させている。
判決後は、疑わしい事案が明らかになっても微動だにもしない裁判所、検察の実態を描いている。
無実を主張する被告人は、控訴して新たに審議を要求する以外に道はないのだ。 堀川恭平は、自分たちが下した納得のいかない判決に対して、徹底して事件の真相を追い求める。 読者が求める事件の真相解明を、正義感溢れる堀川が読者に代わって真犯人を追い詰めるのだ。 -
面白かった。けど、淡々と進み過ぎな感じも。もう少し、ドラマ性があっても良かったかも。
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正義、正しさとはと考えさせられる
事実はひとつ
でも真実はひとつではないかもしれない。
序盤から中盤は裁判の模様をよみながら
自分も真実を考える。
後半は主人公の葛藤。
どんでん返し!納得!スッキリ!とは
いかないのが残念。 -
「裁判員もうひとつの評議」を加筆修正し文庫化された。6人の裁判員の中の1人に選ばれた堀川恭平の目線で裁判員裁判が行われる様子を彼の考え、彼の選択、行動、読みごたえがあった。
ある男の殺人罪の判決を6人の裁判員と3人の裁判官が下した結論は5:4多数決で有罪。死刑判決が下された。堀川ともう1人の女性看護士は無罪と主張したが納得出来ないまま裁判は終わった。その後の展開が私を本の中に引き込み一気に読んだ。正義とはいったい何なのか…考えさせられた。 -
そもそも有罪イコール死刑の流れがおかしいので、イマイチ説得力がないような。主人公の離婚話も全くの蛇足