風を彩る怪物

著者 :
  • 祥伝社
3.98
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本棚登録 : 356
感想 : 50
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396636258

作品紹介・あらすじ

命を懸けて紡ぐ音楽は、聴くものを変える。
「この楽器が生まれたことに感謝しています」
圧巻! 『蜜蜂と遠雷』以来のスペシャルな音の洪水。
とんでもない作品に出合ってしまった……。
――ブックジャーナリスト 内田 剛さん
二人の十九歳が〈パイプオルガン〉制作で様々な人と出会い、自ら進む道を見つけていく音楽小説。

「私たち、本当は何になりたいの?」
音大受験に失敗した名波陽菜は自信を取り戻すため、姉の住む自然豊かな奥瀬見にきていた。フルートの練習中に出会ったのは、オルガン制作者の芦原幹・朋子親子。同い年の朋子と〈パイプオルガン〉の音づくりを手伝うことに。だが、次第にオルガンに惹かれた陽菜はこのままフルートを続けるべきか迷ってしまう。中途半端な姿に朋子は苛立ちを募らせ、二人は衝突を繰り返す。そんな中、朋子に思いもよらぬ困難が押し寄せる! 絶望に打ちひしがれながら、オルガン制作を続けるか葛藤し、朋子は〈怪物〉を探しに森の中に入っていくが……。果たしてオルガンを完成させることはできるのか?

感想・レビュー・書評

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  •  芸術を扱っている小説は、読者がその世界に入り込むことが特に重要になってくると思います。例えば音楽を題材にしたものなら、作中の音楽を表現する細かい描写、音の微妙な変化、質感など感覚的な描写が沢山出てきます。作者や登場人物と近い感覚で受け取れるかが、その小説の面白さに直結してきます。それは、読者側の心の有り様や好みが大きく関係すると思いますが、読者を引き込む何かを作者が持っているかにもかかってくると思います。

     さて、この小説は、そういった面では、残念ながら私の好みには合いませんでした。主人公なその周りの人が好きになれず、あまり好意的に読めなかったというのもあります。

     ですが、日本では馴染みの少ないパイプオルガンについて書かれており、そこがとても新鮮でした。森が放っている溢れる自然界の音、強風が森にもたらす神業のような音。それらが、パイプオルガンの音と結びつけられていて、今すぐ森に入って耳をすましてみたくなりました。

     パイプオルガンというと、勝手に鍵盤楽器の面が強いイメージを持っていましたが、パイプから鳴らされる音は管楽器そのものであり、新たに管楽器への好奇心を持つことができました。

     音楽は人間が奏でるものという意識を、自然が歌っている音という、壮大なものに変えてくれる一冊でした。
     
     

  • 何となく聞いていた地元のFMラジオからふと流れてきた書籍紹介で出会った作品。すぐに題名をメモして、手に取り読み始めた。題名からは想像できないパイプオルガン製作を中心とした、物語。よく下調べがされていて物語に引き込まれる。展開も小気味よく、意外性もありながら気持ちよく読み進められた。遅読の自分としては手に取ったときは、1ヶ月位かかるかと思っていたが、毎日読み進めて思いの外早く読み終えてしまった。読みたりなさも感じず、過剰さもなくちょうどよい分量で、読み終わりも充足感を感じることのできる作品でした。

  • うーん、オルガンにはとても興味が湧き、音や作成途中など面白いのだけど、物語全体としては好みではなかった。

  • 大学時代に付き合ってた彼女がピアニストでショパン弾きながらフォークの伴奏もしてくれた。繊細な感性と手先の技術が自分の心を表現する手段だとわかっている人は強いね。欲を言えば完成するまでの数ページを読みたかった、よね。

  • メインの楽器はパイプオルガン
    なので、私の大好きなバッハのことが多く出てくるし、パイプオルガンについて知らないことも多かったので学ぶこともできます

    改めて、音楽の小説って凄いです
    音楽は聴くものだし
    小説は読むものです
    それが合わさると、読んでいるのに聴こえてくるのです

    音楽の小説を読むのが止められない理由は、これです

    パイプオルガンの世界を覗くにはよい本です

  • いやー、おもしろい。
    尻上がりにおもしろかった。

    序盤は知識不足から手が止まってしまうことも。
    でも第一章の結末から第二章
    ページを捲る手が止まらなかった。

    音楽って素晴らしい!
    自分に無いものを素直に心から尊敬して
    手を取り合えることも素晴らしい!

    パイプオルガンの音を聞く機会が、今までの私の人生の中にはなかったけれど
    チャンスがあればぜひとも聞きたい。

    コンサートに行きたくなったし
    森の中も歩きたくなった。
    海沿いの防風林の中を散歩するのが大好きな私。
    風の音、波音、鳥の声、自分の足音。
    いろんな音が混ざって、でも不快ではなくて。
    寧ろすべてが溶け合って、心地よい癒される音なのだからだなと
    この本を読んで再確認した。

  • ★4.5
    道を惑うフルート奏者の少女と、オルガンビルダーの少女の求道音楽物語。
    どちらも音楽を創るという意味では同じだけれど、視点を変えた悩みや戸惑いが胸に迫る。
    森の怪物の正体へ行き着くストーリーも必見。

  • タイトルにある「怪物」という言葉からは想像もつかない世界がここにあった。
    子どもの頃から身近にあった「オルガン」という楽器。けれど、「パイプオルガン」となるとなかなかに接する機会は少ない。
    けれど、もし一度でもその姿を間近で見たら、そしてその奏でる音を直に聴いたら、きっと心のどこかに消えることのない記憶として残るだろう。パイプオルガンというのはそういう楽器だ。

    十代の二人の女性。フルート奏者になるための音大受験に失敗した陽菜と、オルガンビルダーの父と暮らす朋子。
    二人の出会いはたくさんの人の人生を大きく動かしていく。

    音楽に関わる者の成長小説でありお仕事小説であり家族小説でもあるこの物語は、そういう小さな箱を圧倒的な力で包み込み絞り込み、そして一気に解き放つような魅力に満ちていた。
    楽器を奏でる人と、楽器を作る人。二つの世界はつながっているようで離れているようで。
    そのはざまで揺れる陽菜と朋子の停滞と苦悩。実力だけが全ての世界。己の未熟さに打ちのめされながらも踏み出す一歩の、その力強さに震えるラスト。
    読みながら私も森の音を聴いた。風を雨を感じた。嵐のあとの雲間からの光。神々しいその光に包まれたとき全身が震えた。

  • 自分のフルートの才能を信じられなくなり挫折しそうな少女が訪れた町で、オルガンビルダーに出会い新しくオルガンの作製に携わることで再起していく話。

    パイプオルガンの音色にここまで個性があるんだと初めて知った。音楽の世界って奥が深い。

  • 私が本当にしたいことは何だろうと考えさせられた。
    バレエを教えたいのか、お金持ちになりたいのか、一目を置かれたいのか…
    まだまだ答えは出ない。
    ワクワクする方へ。
    心が躍る方へ。

    どっちだったっけ…

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著者プロフィール

小説家。1980年、東京都生まれ。第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、2016年に『虹を待つ彼女』(KADOKAWA)でデビュー。2022年には、のちに『五つの季節に探偵は』(KADOKAWA)に収録された「スケーターズ・ワルツ」で第75回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した。このほか著作に、『少女は夜を綴らない』(KADOKAWA)、『電気じかけのクジラは歌う』(講談社)などがある。

「2023年 『世界の終わりのためのミステリ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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