新宿花園裏交番 ナイトシフト

著者 :
  • 祥伝社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (369ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396636265

作品紹介・あらすじ

コロナに震える歌舞伎町――パンドラの箱が開いた街を若き二人の巡査が駆け抜ける!
屋上の白骨死体、老朽ビル再開発騒動と暴力団の抗争、置き配窃盗、賭博に集う政財界の大物……。
一夜のうちに無数の事件が連鎖する長編警察サスペンス!

 歌舞伎町ゴールデン街に接するジャンボ交番の若手、坂下浩介と内藤章助は、コロナで静まり返った街でカラスが我が物顔にふるまう苦情を受けた。だが、巣のあるビル屋上には、何者かの白骨死体が……。
 現場の老朽ビル群は、反社不動産屋同士が再開発を巡って暗闘。折しも日本初の官公庁クラスターが所轄署で発生して、周囲の署が連携する不規則な体制で捜査は進められることになった。さらに、白骨死体に関わるとみられた組事務所はコロナウイルスと思しきものが持ち込まれ、組員一同が発症していた! 事件の続発に、眠らない街を疾駆する坂下と内藤! 緊急事態宣言下の新宿、混沌とする夜は明けるのか!?

感想・レビュー・書評

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  •  新型コロナ禍に寝静まる都市・新宿のある一夜に勃発するいくつもの事件を描いたモジュラー型小説である。複数の登場人物たちの個性や人間もしっかりと描かれており、無味乾燥な各事件の解決を目指すばかりではなく、それぞれの出来事の裏に人間ドラマをしっかりと忍ばせて、読みごたえがしっかりと感じられる素敵なエンターテインメント作品である。

     『新宿花園裏交番 坂下浩介』に継ぐシリーズ第二作は、『新宿花園裏交番 ナイトシフト』。前作ではタイトルにも掲げられていた坂下浩介は、本作では主役というより配役の一人でしかなく、さらに多くの警察関係者や、反社組織側に関係する独特のキャラクターたちが、多くのスリリングなシーンを作り出す。それぞれの存在や行動が真夜中の新宿を舞台に化学反応を惹き起こす。あたかも夜の新宿という大都会が一つの人格を備えてでもいるかの如く。

     頭をよぎるのは、懐かしきエド・マクベインの『87分署シリーズ』だ。あのシリーズではアイソラという架空の大都会が人格を持っていた。あの都会に生きる多くの人々が無数の物語を紡いで、作家の長大なシリーズとその人生をもたらした超の付く大傑作シリーズ。その香りが本書にはふわりと立ち昇ってくる。懐かしく、温かく、それでいて人間の愚かさも弱さも強かさも炙り出してゆく都市と、その真夜中。

     しかしこの作品は、そこに現代を写し取ってゆく。そう、新型コロナによる外出禁止令。戒厳令を偲ばせる有事により、異常な状況に置かれた街。この夜ですら発生するクラスターとそれが事件に及ぼすという、あまりに身近なスリル。ただでさえ地理感覚を作風に活かす香納ミステリーなのに、そこに今、読者が直近の問題として対峙している新型コロナウィルスの感染拡大状況を上乗せしてゆく。

     予期せぬクラスターと必要な人員が自宅待機させられることで臨時の場所に置かれるキャラクターたちの異常な状況もあれば、コロナ禍だからこそ寝静まる街に連発する通常ならあり得ない犯罪も、本作では描かれる。想像外のそうした犯罪と、キャラクターたちの個人史がぶつかり、混ざり合い、巨大な混沌を作り出す。

     今、この時期に、ほかほかの湯気を立てている新作と言ってよいだろう。今、あるいは昨日のような、とても近い過去、そこにしか起き得ないミステリを味わって頂きたい。しかも一夜に閉じ込められた秒刻みに進む多くの事件の起承転結は、相当に見ものである。

     作者のアイディアと出版に至るこのスピードに、何よりも乾杯!

  • <庸>
    キチンとコロナバイラス禍津による世間の状況を描き表した警察小説。初めてこういう小説に出会った。作者香納諒一作品は何冊か読んだ事があるのだが まさか今作ががここまでコロナバイラス禍津の実情=何がどう変わってしまって人々はどうそれにタイオウせざるを得なかったのか,に迫っているとは。ビックリした。
    実はコロナバイラス禍津を無かった事にしている作家は結構いる。特に警察物を描いている人に多い。

    ズバリ言うと大沢の兄貴や今敏先生だ。鮫の対戦相手がマスクしてたり,神奈川県警本部の刑事部長がマスク姿では物語が締まらなくてとても成り立てる自身が無いのだろう。まあ本を読む事自体は感染には直接関係ないからなぁ。知らんぷりしてればそれでOKだと踏んだのでしょうw。
    しかしこの事は小説史に残る事になるだろう。コロナバイラス禍津を無かった事にしててしまった作家達! ああやれやれ。
    おっと,またこの本とは全然違う話でどんどんページが埋まっていってしまう。いつもの事ながらすまぬ。

    ただこの作者 決定的に推敲力が足りないと思う所が沢山ある。有体に言うと「そりゃないだろう。そんな不自然な展開があるものか。小説だからこそ そこが大事なのになぁ。あんた何も深く考えてないだろう」と云う事。こりゃあもうどうしようもない実力(筆力)の世界で この作者はその部分が決定的に足りていない。もしも,こうやって僕の様な素人に指摘行為の悦楽をあえて与える為にわざと書いているのなら それはそれで見上げたものだが 恐らくそんな事は無いだろう。以後その抜粋指摘なり。沢山ある。些末ですまぬ。

    そしてその沢山あるのを指摘していくのにはどうしても話の中身に触れて行くことになる。いわゆる「ネタバレ」である。めったにそういう事を僕はしないのに今回はあまりにも作者の筆が未熟なので どうしても 実例=本文からの抜粋 を入れて書き残したい。著者ファンの読者諸兄姉の皆様,居たらお許しください。 ごめんなさい。

    とある登場人物が事件に巻き込まれて入院後死亡してしまった原因について 唐突に「(頭部への)外傷を受けた時の血栓が心臓に廻ってしまったらしい」とある。 そんな馬鹿なと思って調べた。そうしたら案の定だった。心臓へと至る血管は静脈。静脈は基本人体の下から上へ向かって流れている。従って脳に出来た血栓が心臓に至る事はまづ無いらしい。どうしてこんな蓋然性に乏しいストーリーにするのだろうか。やはり僕のような知識薄弱な読者をわざと試しているとしか思えない。こりゃとんでもない悪行だ!

    物語中盤。定年まであと2年となった内勤の警察官が,とある事件に関連のあるタクシーを遠くから一瞬チラッと見ただけで,同署の私服警察官に訊かれて すぐにそのタクシー会社名を答える場面がある。なんでも作者 香納の説明によると「警察官をしている人間は,タクシーを遠目にするだけでも,行灯(社シンボル表示灯)のデザインから会社を言い当てられる」のだそうだ。これまたそんなばかな・・・。である。失笑に値する。こんな事不要なのだから書かなきゃいいのに。指摘しない担当編集者も冷めたもんだなぁー。

    物語も後半に差し掛かる所。若手の警察官が「いやあ,そんな,たまたまっすよ・・・」という具合に「『で(す)』抜き言葉」を使う事に対して ベテランの警察官の丸山が,とある捜査行動を褒めたうえで,これで「で」抜き言葉さえ出なければもっといいんだが,と思う。思っただけだが。するとその若手警察官はなぜか「どうも変ですよ,丸山さん。(あと中略)きっと何かありますよ」と 急に『で』あり言葉に変わっている。これは作者の思い込み勘違いの結果だと思う。誠に浅はかなり。

    普通はこういう事を思ったすぐ次にまた『で』抜き言葉を使わせて読者を笑わせるものではないのか。僕はそう思ったので何回か読み直してしまった。そしてこれが作者の勘違いだ,という結論に至ったのであった。ここでも担当編集者の いけづ を感じる。まあ仲が悪いか,あきらめているか 面白がっているのだろうな。でも祥伝社という会社の格が下がる事はまあ間違いないのになぁ。残念。

    メル友「マキ」との街中での偶然の出会いも絶対に不自然。ありえない。作家業と読者をなめている。書いてるその場その場で ふと思いついた話題へとフラフラ流れて書いているのだ。そして全部の話は尻切れトンボ。無節操に沢山広げたふろしきは どれもたいして大きくも無いのにキチンとたたむ甲斐性が作者には無い。もう最低!よくもまあこんな本出版したものだ!!!恥を知れ。(とここまで書いて,作者や祥伝社の方にはこの感想が読まれない事を密かに願うのであった。この小心者め!w)

    それと最後でまとめて辻褄は合う様に展開するのではあろうが,途中を読んでいるとあまりにも多くの話や場面が次から次へと新たに出て来て僕の様なもう記憶力に自信のない高齢者にとってはとても不安で不満である。そりゃ作者は良いわな メモでも見ながら間違えない様にストーリーを検証しながら書いているのだろうから。この手の三文小説を書くのなら僕ら高齢者の事情をもう少し考慮した方がいいですよぉーてんだい。

    辻褄 最後には何とか合わさったが それこそなんとも強引で辻褄合わすというより,良きに図らえ的な唐突な終わり方だった。最後に ほぼ初登場人物がバンバン出て来て,そいつが犯人です,そいつが身元不明だった被害者です・・・とかもうやりたい放題。まあこの作者ならある程度こうなるかもなと予想はたっていたが こうまで粗忽とはな。アーメン www ああ やれやれ。

    最近こうやって作品の悪口感想ばかり僕は書いている。けなすのは簡単だし面白いからなー。でもいつかはこういう悪行はやめて作品の良い所を褒めるだけの感想にしたいものなのだが,どうにもそれは簡単ではないし 何だか少しこっぱずかしいのであった。道のりは遥か遠き!すまぬ。

  • 近年の、感染症の問題で色々と在った新宿を舞台に、密度が濃い出来事が展開する物語で、色々と考えさせられながらも、頁を繰る手が停められなかった。
    作中の「新宿花園裏交番」に関しては、同じ作者の別作品に登場している。複数の警察署の管轄区域が半ば重なるように接している新宿の繁華街に、配置人員が多い“ジャンボ交番”が幾つか在って、その一つが「新宿花園裏交番」ということになっている。そこに勤務する坂下浩介巡査が主人公という別な作品も在った。それを愉しく読了していた。
    本作はその、「新宿花園裏交番」の坂下浩介巡査、彼より少し若い内藤章助巡査が主人公というようなことになっている。題名に在る「ナイトシフト」というのは、夕刻から深夜、更に翌朝までというような、交代制勤務の現場で見受けられる“シフト”の一つである。本作は坂下浩介巡査と内藤章助巡査が「ナイトシフト」ということで勤務していた或る日の出来事という物語だ。
    物語そのものは、坂下浩介巡査や内藤章助巡査が視点人物として進む部分の他、何人かの事件関係者、または事件の捜査に関与することになって行った警察関係者を視点人物とする部分が次々に折り重ねられている。何か「映像作品」のように、出来事の連鎖するかのようにも見える様、折り重なった出来事が次々に収束するような様子が、テンポ好く描かれている。
    明確に時期は示されていないが、作中世界は感染症の問題で社会が揺らいでいた2020年から2021年頃を背景としていると見受けられる。何時でも大勢の人達で溢れている筈の新宿地区も、外出の自粛やら飲食店等の営業の自粛やらで人影が疎らになってしまっていた。「“未来都市”のようだ」という、少し現実離れしたフィクションのような街並みが拡がる状況だ。こうした中でも、制服や装備を身に着けて交番に勤務する坂下浩介巡査や内藤章助巡査は外を巡回する任務に就いているのである。
    そういう任務の中、保育所が入居するビルの辺りで、異様に多いカラスに悩んでいるという話しが持ち上がった。問題のビルの屋上に上がってみた坂下浩介巡査は、半ば白骨化している遺体を発見し、その周辺にカラスが群がっていることを知る。そして遺体を巡る捜査が必要で在るため、連絡を取って、辺りを管轄する署の捜査員達を現場に迎えた。
    ところがである。迎えた捜査員達のまとめ役である刑事が署の副所長との電話連絡で声を荒げた。感染症の問題が発生し、官公署として「都内で初めて」とされる“クラスター”という話しになってしまい、捜査員達は“濃厚接触者”とやらに指定され、とりあえず引揚げなければならないということになったのだという。近隣署で人員を手配する等して、何とか警察は活動を続けるということにはなった。
    そういう具合で、感染症の問題で異様な光景を見せていた街で、何やら混乱している状況の中で色々な人達の動きが折り重なり、生じた問題が収斂して行く。「如何する?如何なる?」と夢中で読み進めた。
    或いは本作は、感染症の問題で何やら妙な様子になっていたという“時代”を、エンターテインメントたる「交番の若い警察官が奮戦する物語」という体裁で「記録…」という感じかもしれない。過剰なまでに“自粛”なるモノが要請され、「余計な事をしなければ好いのであろう…」という程度に思っている多数の人達の他方に「余計な事…」をして問題を拡げている例が在る。そして問題で混乱していても、対応を迫られる出来事は生じ、その対応で奔走する人達は在る訳だ。そして愉快なのは、そういう事態を嘲笑するかのように、何やら仕掛ける人物も現れるという辺りなのだが。
    なかなかに愉しんだのだが、一つだけ凄く感じ入った挿話が在った。作中で、混乱した状況の故に思いも掛けずに大活躍をすることになる、何年か前の経緯で閑職に左遷された、定年が近い警察官が登場する。彼の妻が、作中での色々な出来事も生じる病院に、末期癌で入院中だ。入院病棟の廊下の窓の辺りに妻が佇み、彼がそこを観られる辺りに足を運び、携帯電話で話している。そして、何もかも見舞が禁じられ、長く人生を共に歩んだ家族が普通に言葉を交わせない、場合によってはそうしている間に死んでしまう可能性さえ在るという様子に疑問を呈する。その関係の挿話が、何か凄く刺さった。
    本作は、繁華街の交番で若い巡査が奮戦して、意外な拡がりを見せる事態に向き合う様がテンポ好く描かれているエンターテインメントだが、他方に感染症の問題で揺らいだ時代を告発するような、「柔らかい布に包んだ鋭い刃」というようなモノも感じる。なかなかに面白い。

  •  大騒ぎだけど、キチンと全てが収束する。 
     それが魅力であるが、新宿らしくはないかもしれないが。

  • 23たしか前編があったような。コロナ禍の新宿の世相が読み取れて面白い。ただし伏線と登場人物が複雑になりすぎて、途中で前まで戻らないとわからない。お巡りさんがちゃんと主人公であるような配置とストーリーにして欲しかった。

  • どう纏まるんだろう…と思いながら読みました。
    お見事です。

  • コロナ禍の新宿で事件が続発。花園裏交番の警察官たちがゴールデン街を走り回る。香納諒一さんの「新宿花園裏交番 ナイトシフト」を読む。

    「新宿花園裏交番」シリーズの二作目。

    新宿ゴールデン街に隣接する交番に配属されている
    二人の若いお巡りさん、坂下浩介と内藤草助が、
    コロナ禍で増えた烏に対応するところから始まる。

    一作目は、坂下が主人公となって、
    ヤクザなどを相手に奮闘したが、
    今作は、誰が主人公でもおかしくないほど、
    登場人物や事件が入り乱れる。

    烏が巣を作った建物から白骨死体が見つかったり、
    ヤクザの組事務所で、クラスターと見られる騒ぎが発生したり、
    置き配荷物の盗難があったり、と、てんやわんや。

    クセのある刑事たちが、新宿を走り回る。

    彼らに先導され、ページの上を走り回っているうちに、
    読み終えてしまった。

  • 新宿花園裏交番シリーズ。新型コロナで震える新宿歌舞伎町でパンドラの箱を開けたような一夜が始まる。マンションの屋上で白骨死体が発見され、暴力団の抗争が起きる。緊急事態宣言下の新宿で続発する事件に、刑事たちが疾駆する。スムーズな答え合わせと展開で面白かった。刑事たちがみな良かった。

  • 広がった伏線を見事に回収したなぁ…。というのが正直な感想。
    3.5。

  • クロフト歌舞伎町版って感じ
    制服警官2人が、舞台回しかと思いきや、最後丸さんに持っていかれた感

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著者プロフィール

1963年、横浜市出身。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。91年「ハミングで二番まで」で第13回小説推理新人賞を受賞。翌年『時よ夜の海に瞑れ』(祥伝社)で長篇デビュー。99年『幻の女』(角川書店)で第52回日本推理作家協会賞を受賞。主にハードボイルド、ミステリー、警察小説のジャンルで旺盛な執筆活動をおこない、その実力を高く評価される。

「2023年 『孤独なき地 K・S・P 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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