- Amazon.co.jp ・本 (433ページ)
- / ISBN・EAN: 9784403211058
作品紹介・あらすじ
都会、田園、そして戦争、白秋が生きた明治、大正、昭和…心の襞にふれる川本三郎・文学評伝の最高峰。
感想・レビュー・書評
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<金魚を殺す子供の歌 大正時代の復権>
「母さん、母さん、どこへ行た。
紅い金魚と遊びませう。
母さん帰らぬ さびしいな。
金魚を一匹突き殺す。
まだまだ帰らぬ、くやしいな。
金魚を二匹締め殺す。
なぜなせ帰らぬ、ひもじいな。
金魚を三匹捻じ殺す。
涙が出てこぼれる、日が暮れる。
紅い金魚も死ぬ、死ぬ。
母さん、怖いよ、眼が光る。
ピカピカ金魚の眼が光る。」
この恐ろしい童謡を作ったのが北原白秋だ。
「われは思ふ 末世の邪宗 吉利支でうすの魔法。
黒船の加比丹を、紅毛の不可思議国を、
色赤きびいどろを、匂鋭きあんじゃべいいる、
南蛮の桟留縞を、はた、阿刺吉、珍陀の酒を」
の「邪宗門秘曲」によつて登場したメフィストフェレスのような、妖しの詩人と如何に異なることか。
「邪宗門秘曲」との出会いは中学生の時。
内容が理解できたとは思わないが、その異様なエキゾシズムと絢爛たる言葉の構築に雁字搦めにされたものだ。
この本を読みながら、「あー、しばらく遠ざかっていたが、読みたかったのは、このような文学者の評伝だったのだ」と納得した。
現代評論の知見を活かして、歴史の中に埋もれてしまった感のある北原白秋を甦らせる試みだ。
古郷柳川の「水」を感受性の底に常に湛えながら、幻影としての西洋に憧れ、赤という色を発見し、姦通事件•投獄という辛酸の中から再生していく姿が、白秋に寄り添うように描かれてゆく。
作者の白秋に対する愛情が、この評伝を気持ちの良いものにしている。
芥川龍之介、萩原朔太郎、山田耕作らが活躍していた大正時代の輝きが、余す所なく描かれ、大正時代の復権を宣言する。
日本の文壇が輝いていた、懐かしき黄金時代に導いてくれる。
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それなりに北原白秋についての知識、イメージは持っていたが、こういろいろ知らされても興醒めの感じもする。特に暴露本というのではないが。
”見ぬもの清し”とも言うではないか。
それにしてもこの本を書くのに9年もかけるのは長すぎるのではないか。集中が欠ける。 読む方も。
白秋が小笠原に行った話、大正14年に樺太に行き、紀行「フレップ・トリップ」を書いたことを知ったのは良かった。