ヴィクトリアン・ホテル

著者 :
  • 実業之日本社
3.51
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感想 : 122
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408537764

作品紹介・あらすじ

『同姓同名』で話題沸騰の著者が放つ、一気読み必至の傑作ホテルミステリー! 名門ホテルの最後の一夜に何が起きる――!?

感想・レビュー・書評

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  • 創業100年の歴史に幕を下ろす「ヴィクトリアンホテル」を舞台にした人々の繋がりのお話。キムタクの方のホテルに釣られてミステリーを意識していたが、ヒューマンストーリー感が強い。不謹慎だが、誰も亡くなることの無い物語を読んだのはいつぶりだろうか...新鮮だった。

    最初は素性が丸裸となる人物紹介から。
    ゆっくりとした時間を経て、主要人物が定着してきた頃やっと物語に集中する事が出来たのだが波が無い。不謹慎だが、何も事件が起こらない物語を読んだのはいつぶりだろうか...新鮮だった。
    ーーーーーーーーーーーーー
    コロナウイルスや東京オリンピックの延期等、どうやら今に密接した世界観らしい。その中、女優 佐倉優美 、窃盗犯 未木本貴志、作家 高見光彦、やり手 森沢祐一郎、老夫婦妻 林志津子.....彼 彼女達の視点で物語は進む。

    主に「善意と悪意の持論」が様々な視点から語られるのだが恐らくこれがテーマなのだろう。
    文学賞授与式にて、受賞者である高見光彦と対話する前年度受賞者の鴨井室房の饒舌多弁さは痛快で尚且つ興味深かった。以下、彼の発言を一部抜粋する。
    【抜粋】
    「フィクションの"表現"が人を傷付けることには敏感なくせに、自分が実在の人間に吐いた言葉の"表現"が人を傷つけることに鈍感なのは〜(中略)〜問題を本気で考えてないと思うね。(中略)
    作品の否定をする事はその作品に勇気づけられた人たちの否定にもなる。批判した人間が何か責任を取ると思う?フィクションより生身の言葉の方が何倍も切れ味が鋭い刃物なんだよ。」

    うーん、確かにその通りだなぁ。私個人は仮に、自分が絶賛した作品を他の人が批判してたとしても内容が内容なものが多いし、自身の人間性の疑いが深まるだけで不快感は芽生えない。むしろ違う感情が知れて嬉しく思う。しかし、「否定」の矛先を個人的に向けられたらきっと悲しくなるのだろう。想像でしかないが、これが相手の感情の否定か。恐ろしい離れ業だ。でもやっぱり、受け取る側の問題もある気がする。意見が対立したら【朝まで生テレビ】したくなる私には無縁の問題な気もするが、無視できない矛盾にとても興味を覚えた。
    一人一人の正義や価値観を全て反映させた物語なんてきっと面白くない。どんな物語も誰かを傷付け、誰かを救っているのだと思う。
    ーーーーーーーーーーーーーーー

    登場人物達の「善意と悪意の持論」はすべて似通っているものの、見たい触れたい感じたい気持ちは溢れてくる。しかし、ここぞとばかりに早口でまくしたてている感は否めず、テーマだとしてもくどい。思う所があるのだろうか、物凄く「コレ」を発信したいという著者の強い意志を感じた。
    あまりの主張の多さに昂りは沈静化してしまったが、この頃には著者がミステリー作家だった事を思い出させてくれる「真相」が全力待機しているので飽きが来ない。仕掛けの名称を書くだけでネタバレとなりそうだ。

    創業100年の歴史を迎え大勢の人に愛好されたヴィクトリアンホテル。その歴史の中で流れた人々の人生模様が交差する世界は不思議で魅力的な空間だった。
    ......言わなくて済む事なのだが、いうてもやっぱりこの綺麗な世界は落ち着かないので、今後反動で何を手に取るのか、暗黒書物大好きマンの次の行動が楽しみだ。(他人事)

    • akodamさん
      NORAxxさん、こんにちは。
      NORAxxさんのレビューには必ず刺さる言葉や語りが存在するのだけれども。

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      一人一人の正義や価値...
      NORAxxさん、こんにちは。
      NORAxxさんのレビューには必ず刺さる言葉や語りが存在するのだけれども。

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      一人一人の正義や価値観を全て反映させた物語なんてきっと面白くない。どんな物語も誰かを傷付け、誰かを救っているのだと思う。
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      強烈に同意が過ぎる。
      好きと嫌い、面白いとつまらないが競い合うくらいが面白い。これは人生も同じだと私は思っている。

      ありがとう、相棒( ´∀`)
      2022/03/27
    • NORAxxさん
      akodamさん、こんばんは^ ^
      好きと嫌い、面白いとつまらないの基準が人それぞれなのもまた興味深く面白い所ですよね。勿論、仰る通り人生も...
      akodamさん、こんばんは^ ^
      好きと嫌い、面白いとつまらないの基準が人それぞれなのもまた興味深く面白い所ですよね。勿論、仰る通り人生もしかりです。
      そう考えるとこの作品はある意味片側の理念を押し付けたような作品やもしれないですが、その定義がある事、それを見直す機会をいただけたのは貴重であり有意義でした!!

      いつも褒めてくれてありがとう相棒(´;ω;`)
      2022/03/27
  • ホテル・ミステリーを読みたくなった。

    舞台は都内の一等地に存在する超高級の「ヴィクトリアン・ホテル」。創業100年、明日を持ってその歴史にいったん幕を下ろすんだと。
    その最後の一夜に何かが起こる…
    このホテルに縁ある者たちが居合わせ、あの時の答え合わせ的な事が起こる、といった感じかな。
    読んだことのない心温まる!?不思議なミステリーであった。

    「優しさとは何ぞや?」という軸も組み込まれ、特に小説家たちの作品におけるテーマや表現、価値観などその思いを知ることができた。
    作者が登場人物たちを通して伝えたかったことなのだろうか。

    作者は登場人物たちのエピソードを順に丁寧に書いている。
    しかしこの手のトリックには騙されないぞと、こちらも丁寧に読み進める。しかし途中で何かおかしいと気づいた時にはもう遅い。ずるいよ…。

    登場人物たちが、高級ホテル内を行ったり来たりするのが気になった。泥棒は犯行後逃げずホテルに留まるし。
    「そんなにウロウロできるか!?高級ホテルなんだから落ち着け~」と言いたくなった^^;
    これも混乱させるためのトリックの一つなのだろう。

    表紙の絵はエントランスホール先の中央階段で、逆のY字の形なんだと。素敵~。

  • 改築のため一時休業する有名ホテルのヴィクトリアン・ホテルに、最後の記念と泊まりに来た人々の群像劇だ。彼らは、それぞれ人生の転換期を迎え、何らかの再生をしていく。記述の仕方に仕掛けがあり、最後にははあと思わされるが、その仕掛けもその再生に寄与しているというか、はっきり言ってそれが肝なんだろう。なんだろうなあ、現代の人情物って感じだなあ。作家や俳優のように表現活動をしている者には、表現法について正義感ぶった批判があることがあるが、それにひるんでいてはだめだということが、やたらと強調されているが、作者にもそういう経験があるのかもしれない。

  • ミステリーカテゴリーにしたが、途中までこれがミステリーだとは思わず読んでいた。段々違和感が重なり合ってもしかしてこれは…と思っていたら、やはりだった。
    しかし思っていたよりも階層が多かったのだが。
    でもこれは私含め皆さんのレビューを読まず、先入観なしに読んだほうが楽しめるかも。ブクログサイトでこんなことを書くと身も蓋もないが。

    百年の歴史に一旦幕を下ろし、改装のために休業する<ヴィクトリアン・ホテル>に集う様々な人々。
    女優・佐倉優美
    窃盗犯・三木本貴志
    作家・高見光彦
    大手企業宣伝部・森沢祐一郎
    弁当屋経営・林志津子
    五人の物語が巧みに交差していく。

    仕掛けの部分は置いておいて、全体的なテーマとして描かれているのはここ最近クローズアップされている不寛容社会。
    何を伝えても叩かれる。どう表現しても叩かれる。素直な善意ですら叩く人間がいて悪意を持って利用する人間がいる。
    特に有名人と言われる人々…芸能人や作家など表舞台に出る人たちの苦悩は真逆の世界にいる私でも想像出来る。
    一部の悪意を持った人たちの声や態度に対して、表現においても善意を表すことに対しても萎縮してしまう傾向にある今の社会に対して、私も色々思うことがあったので作家さんの主張には共感出来た。

    どんな表現をしてもどんな主張をしても全ての人が満足することは無いし全ての人が傷付かないということもない。
    明らかな悪意や憎悪を持って誰かを傷付けたというのならまだしも、人の善意ですら悪意に取ったり、それを悪用することに対して発信した本人が責任を感じたり萎縮する必要はないと思う。

    先日閉幕したオリンピックでも様々なことが浮き彫りになった。開幕するまではまるで日本中どころか世界中がオリンピック開催に反対しているかのような風潮だったが、実際に開幕してみれば全く違っていた。
    アスリートの一挙手一投足に目を光らせ、何かと持ち上げてみたり逆に大叩きに変じたり。
    振り回され傷つくアスリートたちに対してはメンタルが弱いのだとまた叩く。
    閉幕すればメダリストたちをあちこちのテレビ番組に連れ回し、熱が冷めれば見向きもしない。
    毎度お馴染みの光景に加えて今のご時世に乗っかって言いたい放題な風潮にはほとほと疲れてしまう。

    『思いやりでさえ人を傷つけるんだよ』
    『誰かを勇気づけ、楽しませても、別の誰かは傷つける』

    だからと言って誰もが善意や優しさを引っ込めてしまえばもっと殺伐とした世の中になってしまう。
    何を言っても何をやっても批判する人間は一定数いるしそれを気にするなというのは難しいとは思う。だがそれ以上に肯定してくれたり後押ししてくれる人がいるということ、サイレント・マジョリティがいるということを改めて提示してくれたことは良かった。

  • 長い歴史に幕を下ろす超高級ホテル
    閉館前のホテルに様々な人々と様々な歴史が行き交い、「優しさとは何か」を問いかける

    序盤から淡々とした流れで、ふむふむと読み進めていましたが、終盤脳内で時系列がバグを起こす感覚、シビレました!
    作りが素晴らしい作品だと思います
    ただ、ちょっとキレイにまとまり過ぎかな…という事で、星3つです
    図書館本

  • かなり早い段階で違和感に気付き、その違和感の正体は何なのかまでも気付いていた。
    しかし著者によって巧妙に散らばらせてある数々のキーワードのせいで、ある意味ある時点に自分の思考が引き戻されるので、自分の推理は間違っているのかなぁ?と思った。

    結果、私の最初の直感は間違ってはいなかったのだが、著者によって仕掛けられた罠はかなり複雑であり本当に巧妙であった。
    読了してから、書き出してまとめてみたら、整然としていた。
    あっぱれ。

    そしてトリックとは別に、本書の至る所に張りめぐらされていた下村氏が書きたかったテーマもしっかり伝わってきた。

  • 改装の為に一旦百年の歴史に幕を下ろす超高級ホテル。その最終日から始まる群像劇。仕事に悩む女優や賞を取った新人作家。最期の贅沢で宿泊した夫婦や女遊びで宿泊する会社員。そして犯罪目的で潜り込んだ窃盗犯。それぞれの視点で話が進んでいき、少しずつ交錯していく。途中で多分こうじゃないかな?と予想していた違和感が予想以上に綺麗に纏まったのには唸った。そして一貫して語られる「優しさの呪い」 善意が人を傷付ける事もあるが救われた人は声を挙げず批判の声ばかりが届きがちなのはそうだよなぁとしみじみ。幸せそうだからという理由で被害に遭うケース、枚挙に暇がない。表現者に限らず肝に命じておきたい。

  • 丁寧に創られたミステリの一冊。

    舞台は明日その歴史に幕を下ろす伝統ある超高級ホテル。
    一歩足を踏み入れた瞬間に伝わってくる絨毯の柔らかさを思い浮かべながら、訪れた宿泊客の人生物語を味わう。

    なるほど…ね!まるで宿泊客それぞれの人生のエレベーターに乗り込んでいた気分。

    途中の階での一期一会。見ず知らずの人だからこそ人は語れる、黙って聞き役に徹せられる。そして最後に心を込めた言葉を贈れる。

    わずかな時間は未来へ繋がる貴重な時間。

    すごい驚きはないけれど人生、世の中への散りばめられた言葉が心に響く、丁寧に創られたミステリ。

  • いやー、面白かった。読み終わった後の爽快感。どれだけ真剣に読んでもこのカラクリに始めから気づける人はいないと思う。

    でも、このカラクリよりも一貫して伝わってくる、思いやりでも人を傷つけることがある。それを恐れて何もしないより、自分に出来ることで人を助けられることがあるなら、やった方がいいっていうメッセージに心打たれた。

    これは名作です。なのに何で星が少ないのかなぁと思うが、これも私だけの価値観なのだと納得する。

  • ❇︎
    100年の長い歴史に幕を下ろす豪奢な作りの
    ヴィクトリアン・ホテル。

    その閉館セレモニーに訪れた、
    宿泊客たちの心の葛藤と人生を描いた物語。

    帯の『二度読み必須』に納得。
    深読みせず、物語をそのままストレートに
    読むタイプなので「えっ」「そう来たか」と
    気づいた時に鳥肌がたってぞわぞわしました。


    女優、作家、一組の夫婦、宣伝マン、スリ、
    それぞれの人生や葛藤が複雑に絡み合い
    交錯する物語。





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著者プロフィール

1981年、京都府生まれ。2014年に『闇に香る噓』で第60回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。同作は「週刊文春ミステリーベスト10 2014年」国内部門2位、「このミステリーがすごい! 2015年版」国内編3位と高い評価を受ける。著書に『生還者』『難民調査官』『真実の檻』『失踪者』『告白の余白』『緑の窓口 樹木トラブル解決します』『サハラの薔薇』『法の雨』『黙過』『同姓同名』『ヴィクトリアン・ホテル』『悲願花』『白医』『刑事の慟哭』『アルテミスの涙』『絶声』『情熱の砂を踏む女』『コープス・ハント』『ロスト・スピーシーズ』などがある。

「2023年 『ガウディの遺言』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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