腕貫探偵 (実業之日本社文庫)

著者 :
  • 実業之日本社
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408550626

感想・レビュー・書評

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  • ベタな安楽椅子探偵ものと思いきや、市の職員が市民の声を聞きながら問題を解決していくという設定が斬新だった。

  • 〇 概要
     櫃洗市という架空の都市を舞台としたシリーズの1作目。大学や病院などに,突如現れる「市民サーヴィス課臨時出張所」の担当者,「腕抜探偵」が活躍する安楽椅子探偵シリーズ。市民達が持ち込む謎は,隣人の死体が移動した理由や,幸せ絶頂だったはずの母親がなぜ,急に鬱になってしまったのかなど。ある作品の登場人物が,ほかの作品にカメオ出演するなど,全体を通じた趣向はないが,短編どうしのつながりを楽しむことができる。

    〇 総合評価
     個々の作品はいずれも雰囲気は悪くないのだが,伏線らしい伏線もなく,腕抜探偵がとうとつに真相を語るというもので,説得力がまるでない。ミステリとしては,おせじにもいいデキとはいいがたい作品。櫃洗市という架空の都市を舞台として,描かれる群像劇として楽しむべきか。世にも奇妙な物語テイストの作品もあるが,ユーモアはあまりない。それほど面白いと感じなかった。

    〇 腕抜探偵登場
     記念すべき腕抜探偵のデビュー作。主人公の蘇川純也は,飲み会の帰り道のバス停で,隣人の死体を発見する。警察を連れてバス停に戻ると死体は消失しており,警察と家に帰ると隣人の家に消失したはずの死体が・・・。ふと,市民サーヴィス臨時出張所に目をとめ,腕抜探偵に相談をしたところ,歯医者の診察券が隣人の家にあるかどうかがポイントだという。真相は,隣人と交際していた女子高生が,健康保険がない隣人のために兄の立場を利用して歯医者の治療を受けさせていたことから,急死(病死)した隣人をいったん遺棄したバス停から隣人宅に移し,診察券を持って行ったというものだった。真相にほとんど説得力はないが,設定が面白く,それなりに楽しめる。

    〇 恋よりほかに死するものなし
     主人公は筑摩地葉子。葉子の母は,既に夫と死別しているが,かつての恋人と再会したので,再婚をするという。幸せ絶頂だったはずの母が,ある日を境に鬱状態になってしまった。病院で市民サーヴィス臨時出張所を見つけ,相談したところ,腕抜探偵は,葉子の母の鬱の原因は娘たちの大学の同窓会名簿を見たからであり,その同窓会名簿に,再婚相手の亡くなった妻の名前が載っていたからではないかという。年度の違う名簿で,住所の移動を見て,再婚相手のついていたウソに気付き,鬱になってしまったというオチ。日常の謎系なので仕方がないとはいえ,やはり,事件がしょぼすぎてそれほど魅力的な謎ではなかった。

    〇 化かし合い,愛し合い
     主人公は門叶雄馬。宝石会社の販売員をしていた雄馬は,客の一人である完利穂乃加に出会い,交際を始める。雄馬は,穂乃加に結婚を申し込むが,穂乃加は,結婚するなら浮気は絶対許さないと宣言する。雄馬は,浮気をしていたが,その相手が穂乃加のルームメイトだと知り,穂乃加の前から逃げ出す。しばらくたって,よりを戻そうとしたところで,腕抜探偵に会い,ことの成り行きを打ち明ける。腕抜探偵は,あなたは彼女達に利用されている。関わり合いになるのはやめた方がよいと伝える。穂乃加はひょんなことからバイト先のエージェントを殺害し,そのアリバイ工作に雄馬が利用されていたというもの。話の構成が複雑な割に,面白みに欠ける作品。全体の仲ではデキが悪い方か。

    〇 喪失の扉
     櫃洗大学の事務局長を退職したばかりの武傘寿憲が主人公。家から見つかった櫃洗大学の学生証の束と履修届のリスト。どうしてこんなものがあったのか,という謎を腕抜探偵に相談する。学生証の束と履修届を比べると,「練生川晋作」という学生証がなかった。その男は,寿憲の娘が学生のときに結婚すると言った相手方。腕抜探偵は,かつて,娘と結婚すると言っていた相手を不慮の事故で失踪させてしまったが,そのことを否定するために,学生証と履修リストをそろえたのではないかと推理する。その相手の顔しか知らず,名前を知らなかったために,そうするしかなかったのだと。最後は意味深なラスト。世にも奇妙な物語系の話だが,それほど面白くない。

    〇 すべて一人で死ぬ女
     洋風レストラン,カットレット・ハウスで名物のハヤシライスを食べずに帰っていった兎毛成伸江という女性。その女性がハードカバーの本の角で殴られ,抵抗力を失った段階で絞殺されていた。同人は,シナリオライター兼作家。殴られた本は自分の著書だった。警察に出張していた市民サーヴィス臨時出張所の腕抜探偵に相談すると,「被害者はとても気に入っていたはずのハヤシライスを食べずに店を出たーそのことが犯人の名前を物語っているのです。」と言う。犯人は,伸江がカットレット・ハウスに行く前に訪れた貴金属店ポメリッジョの店員。伸江のファンであった店員は,伸江とつながりを持ちたいと思って財布を隠し,連絡をとれるようにしたが,二人きりになったときにアンビバレントな感情が起こって殺害してしまったのだという。いや,これはひどい作品。説得力も全くなく,つまらない。

    〇 スクランブル・カンパニィ
     アビル商事の螺良光一郎と目鯉部怜太はナンパ仲間で女性であれば社内・外を問わず手を出し,ひんしゅくをかっている。この二人を秋賀エミリと玄葉敦子という二人のOLがこらしめるという話。檀田臨夢という男を誘って目鯉部は,2対2のコンパを行う。螺良と目鯉部は古美術品の窃盗で捕まる。檀田は訳が分からず,腕抜探偵に相談し、腕抜探偵から真相が語られる。目鯉部は螺良の部屋から古美術品を盗もうとし逮捕されたが,螺良の部屋にあった古美術品はそもそも盗品だった。秋賀エミリと玄葉敦子とアビル商事のOLが協力して螺良と目鯉部をこらしめようとしたことがきっかけて起こった逮捕劇。最後は,玄葉と秋賀も腕抜探偵のところを訪れているというオチ。複雑な構成のわりに,説得力がなく,面白くない。腕抜探偵の語る真相は,とても推理というようなものでもない。

    〇 明日を覗く窓
     ふたたび,蘇川純也が主人公。筑摩地葉子も登場。新櫃洗会館で開催された音成比呂史洋画展覧会の絵画の搬出作業で二人が出会う。眞鍋カスミという女性も登場し,絵画の搬出作業をするが,箱が一つ余ってしまう。去年,出展した絵画の箱が一つ残っていたのだ。その謎を,蘇川と筑摩地は二人で腕抜探偵に相談する。腕抜探偵の推理は音成師本人が,急に現れた娘にその絵を見せ,そのまま箱に入れずに帰っていったというもの。そして蘇川はその姿を偶然見ていたのだった。伏線らしい伏線もないし唐突な推理。腕抜探偵らしいといえばらしいのだがミステリとしては二流か。

  • 構成は手を変え品を変え、飽きがこないように工夫されている。「サービス」でなく「サーヴィス」ってのもそれっぽくてよい。
    しかし、ミステリとしては…うーん。安楽椅子系なのだろうか、ほぼわかるはずのない謎を腕貫さんが解いてしまい、おいてけぼり感がある。腕貫さんでなくてもいいような…

  • 市役所の苦情処理係に相談すると 全て解決

  •  大学や病院、警察署などに突如現れる「市民サーヴィス課臨時出張所」では、意見、要望のほかに個人的な悩みも相談していいとの貼り紙がしてある。
     そこに相談を持ち掛ける市民の悩みや謎を、無愛想ながら鋭い洞察力を持つ腕貫男が解決する。

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     謎解きは、おもしろい。
     でも、謎解きには関係ない部分で、何かいろいろと突っ込みどころがあって、最終的に☆3で。
     おもしろいんだけど、つい「は?」て思っちゃうというか。

     例えば、国立病院・国立大学内で「市民サーヴィス課臨時出張所」の貼り紙を見た人が、国立病院(大学)で働く人は国家公務員で、市民サーヴィス課なら市役所の職員、つまり地方公務員だろう、て思うんだけれど、それは間違ってはいないんだけれど、普通の人が貼り紙見た時点で、そんなこと考えるか? と。

     あと、相談は、ウェイティングリストに名前を書いて、順番が来たら名前を呼ばれる方式なんだけど、それぞれの話の主人公(?)がそのリストの一番目に名前を書くのに、腕貫男が「順番が来たらお呼びします」て言うから、自分が順番の1番なのに、何ですぐに呼ばないんだ、て内心怒るわけ。
     いや、心狭すぎるでしょ。
     リストの1番目に名前書いたからって、相談を受けるのに準備があるのかもしれないし、そのくらいのことで、いちいち何か思わなくたって!
     もちろん、そう思う人がまったくいないとは言わないけど、出て来る人出て来る人みんなが同じことを思うから、もう不自然すぎて。

     それと、腕貫男は、持ち掛けられた謎に対して、ヒントのようなものを与えるだけで、明確な答えを言うわけではないんだけれど、腕貫男はすごい能力を持った人というキャラだからいいとして、相談した側が、たったあれだけのヒントで、一瞬にして閃くというのが、やっぱりちょっと不自然かな。

  • 櫃洗市の事件。
    お役所的に地味な探偵だけど神出鬼没で怪しい。さりげなく檀田と玄葉とか純也と葉子のその後が気になる。
    探偵さんのこと知りたいから続き読みます。

  • どこにでも現れる市民サーヴィス課臨時出張所。
    大学の構内、病院の待合室、警察署の中。
    トレードマークは黒い腕貫。どんな小さな悩み事も聞きます。ささやかに解決に導く、腕貫探偵。

  • 市内のあちこちに出現する「櫃洗市市民サーヴィス課臨時出張所」。相談員が殺人事件の謎から市民個人のお悩みまで的確にアドバイス。でもその先の解決は本人次第。各話の登場人物や地名が少しずつリンクしているのも楽しい。軽く楽しめる作品。ただ苗字が難読ばかりで覚えられない。

  • 『腕貫探偵登場』

    『恋よりほかに死しるものなし』

    『化かし合い、愛し合い』

    『喪失の扉』

    『すべてひとりで死ぬ女』

    『スクランブル・カンパニィ』

    『明日を覗く窓』

  • ミステリーなんだけどちょっと異色。探偵が登場するのだがやたら影が薄い。最後の最後まで名前すらわからないし、謎を解く役割は果たしているもののストーリー的には完全におまけな存在。まあ、その変り種っぽさががまあまあ面白かった。続編もあるけど、さてどうしようかな。

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著者プロフィール

1960年高知県生まれ。米エカード大学創作法専修卒業。
『聯殺』が第1回鮎川哲也賞の最終候補となり、1995年に『解体諸因』でデビュー。同年、『七回死んだ男』を上梓。
本格ミステリとSFの融合をはじめ、多彩な作風で次々に話題作を発表する。
近著に『夢の迷い路』、『沈黙の目撃者』、『逢魔が刻 腕貫探偵リブート』などがある。

「2023年 『夢魔の牢獄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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