- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784408551753
作品紹介・あらすじ
舞台に秘められた男女の謎-妖しく華やかな幻想ミステリー。降りしきる薔薇の花びらに埋もれて死ぬことを夢見た劇団員(「薔薇忌」)、濃密な淫夢に日常を侵される歌舞伎小道具屋の娘(「紅地獄」)、スター歌手の再起に賭ける芸能プロデューサー(「化鳥」)…舞台芸能に生きる男女が織りなす世界を、幻想的な筆致で描いた珠玉の短編集。著者の独創性を世に知らしめた柴田錬三郎賞受賞作。新たに書き下ろした「あとがき」を収録。
感想・レビュー・書評
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日本の舞台・伝統芸能と怪しい幻想譚を絡めた短編集。
意図的にデザインされた作品群の為、ハッとする描写や展開に欠け所々強引さを感じた。
作者にはもう少し捻られた凄惨な作品を期待してしまうが、『桔梗合戦』はウットリする出来栄え。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
舞台に関わる人を描いた短編集。
登場人物が生きているのか
死んでいるのかも分からなくなるほど
幻想的で、死さえも美しく思える。 -
どの話も、最後に突き放される哀しさがある。美しく残酷な秘密。決して癒されない哀しさ。
薔薇忌と桔梗合戦が特に好きだった。 -
久し振りの皆川博子さん、さんといっていいのか今年で85歳になられた今まで10指に余る賞を受けて、文化功労者にも選ばれた。
多くの作品は、幻想的と冠がつく、長編小説、切れのいい短編(それでもなお妖しい)ゴシックロマンといってもいい、海外を舞台にした、不思議な出来事、怪しい雰囲気を纏った作品群。
人の暗い部分を見る目を持っている人は、何かの気配に敏感だったり、時々常にない心もちに陥ったりする。
見たり聴いたり感じたりする本来の器官の働きに、敏感な特殊な能力を持っている人なのかもしれない。
皆川さんは、そういう異界の、異形のものだったり、現実何気ない気配を、幻のように書き出してみせてくれる。
幻想作家だと呼ばれたりするが、読み始めると日常を離れた感覚を纏った大舞台が待っていて、登場人物たちに導かれて不思議な体験をする。
脇腹で繋がったシャム双生児に生まれて、切り離された後世間体もあって日陰で育てられた。一人は名家を継ぎ一人は施設で医者の手伝いをして育つ、と言う生まれながら数奇な運命を予想させる、2人の子が世界を股にかけた雄大な物語「双頭のバビロン」
医学黎明期にイギリスの医学生たちが巻き込まれる殺人事件「開かせていただき光栄です」(本格ミステリ賞受賞)などいずれも大長編だったが、妖しく面白かった。
前置きはそこまでで今回の「薔薇忌」、短編なので物足りない感じもしたが、古典的な幻想小説だったり、自分の心の中に堕ちてしまう青年、何かに疲れて壊れてしまう人などそれぞれ面白かった。題名だけでも意味ありげでいい。
* 薔薇忌
劇団で雑務をしているえくぼの出来る後輩に気がついた。聴いてみると面白い話をする。
イタリアで、仕えていた公爵にゴマをするために本心(復讐心)を隠して仮面をかぶり続けたら仮面の下で腐ってしまった男がいたそうだ。
復讐の暗殺は成功したが彼は惨殺された。
腐っていく役っていいよね、
と言うので彼の書いた脚本を使うことにした。
刑罰には薔薇の花を降らせて窒息死させるっていいよね。
それ悪趣味だね。
そのうち姿が消えた、素封家の息子だったので人知れず家に帰り縊死していた。
* 禱鬼
波乱にとんだ宇宙で、束の間生きるということが彼には魅惑的だった。
彼が惹かれたのは化粧をし衣装をつけ、別の人格にのっとられる、舞台の面白さだった。
* 紅地獄
夢はみるという。夢を聴くとも、夢を嗅ぐともいわない。非現実的であるけれどある状況の中を生きるのである。
濃密な抱かれる夢を見続け、その正体に出会う。
* 桔梗合戦
嫌ってはいなかった人だが暴行され妊娠した、彼女は白い衣装に白い桔梗を持って身重を隠して桔梗合戦を踊る。
* 化粧坂
子どもたちは山の上と下に住んでいて、一緒に遊ぶことが少なかった、転校生が来て皆に蜘蛛合戦を教えたので、盛んになった。山の上に住む僕は、彼が仲間に入れてくれた。
来いと言われこっそりついていくと、芝居小屋に入っていった。やがて化粧をして女踊りを見せた。出送りの女たちに騒がれる人気者だった。目配せするので化粧坂の下の崖で蜘蛛を捕まえていたた。夢中になっていると肩越しに息がかかるほど彼が近づいてきたので、驚いて跳ね飛ばしたら尖った石に頭をぶつけて死んでしまった。誰も行かない淋しい場所なので恐ろしくてそのまま帰った。旅役者の子供が山から堕ちて死んだそうだ。と一時噂が立ってそれっきりになった。
* 化鳥
楽屋に見知らぬ男が落ち着いた様子で座っていた。昔この部屋にいたといった思い出話をする。役者になりたかったが怪我をして衣装係になった。衣装は命を持っている。
私は見つけた男の子をプロディュースしようとしていた。少しずつ売れ出し男は家庭も持ったが、私は女形でないと演じられない瀧夜叉を演じさせたかった、瀧夜叉を宙摺りで客の上で舞わせるのだ。しかし、もう遅かった。中年太りのおやじになった彼の扮したのは、いくら衣粧をつけても既に化け物にしか見えなかった。
* 翡翠忌
90に近い老大女優は不意に引越しをした、若い者をあごで使って落ち着いたのは公園が見えるマンションだった。
彼女は若者と知り合っていた。公園の篠流れの小川には翡翠が飛ぶという。それを見ながらそばのベンチで2人で座って話をした。散歩もした。
2人は小さな劇団員で江見、須藤というの。
老女はそう話して時々公演に行くと、新劇の大御所が着てくれたと喜んでくれるの。
長年の相手役をしてきた山岸にそう話した。
山岸は言った。
また苛めたんだろうね、あんたは惚れると苛め抜いた。その……須藤か、その男のアラを、徹底的にあげつらったんだろう。
まるで見ていたようね。自殺したわ。
だれが
あの子よ。
心配なんです。
先生は一人であの公園に出かけられるので心配でお供しようとしたらお叱りを受けました。東屋のベンチで、お一人で何かブツブツと……それが一度や二度ではないんです。
2人がいま出ている新宿の小さい劇場に千鶴を連れて行ったら迷妄から醒めるだろうか。
このごろ千鶴先生は見えませんね、とふたりは言った。 -
ひとり身って気軽だわねえ。恋をすれば、鳥のようにすいと、翔んで、巣を変えられる。
暗くて重いものが読みたいと思って選んだくせに、読んでいるうちに暗くて重くて嫌になる。ことがたまにある。
何度も読み返す作家さんは、どこか軽やかさのある人たちばかりで、それは薄っぺらいのとは違くて、谷崎のような軽やかさ。
文芸誌に載っていた、風配図で名前を知って一冊読んでみよう、と思ったけど、今の私では良さがあんまり受け取れませんでした。残念。
あと、幻想とかミステリとか銘打っているのに1から100まで説明していいのか?とも思いました。それは作者じゃない人が勝手に書いているので仕方のないことだけれど。読んでみないとわからないですね。それでも新しい本を手にとることで新しい出会いもあるわけで。とりあえずヴィアン全集が気になって仕方ない。 -
「紅地獄」「桔梗合戦」「化鳥」が特に好き。
死人と生者の曖昧なところが楽しい。 -
初めて読みました皆川博子さん作品。
舞台で働く人たちの会話をのぞき見しているような感覚になる7話の短編集。
どれも妖しい魅力を放っていて、今の話と昔の話が境目なくスンナリとつながっていって、しまいには現実の話なのか幻想の話なのかわからなくなってくる。
話の内容よりも話相手が気になる「祷鬼」、生首道具職人が出てくる「紅地獄」、ヒスイとカワセミはどちらも翡翠と書けるらしい「翡翠忌」など、面白話だらけ。 -
面白かったです。
きらびやかですがその分影も多い、舞台芸能の世界。暗く、愛憎入り交じる濃密なお話たちでした。
特に「桔梗合戦」「化鳥」が好きでした。
「化鳥」はバンギャ心が疼きます…この気持ち、わかる。。嘗て心酔していた人の凋落を目の当たりにしたら……。
裏方さんに光が当たっている作品が多いのも面白かったです。こんなお仕事があったのだな。
舞台と幻想。堪能しました。 -
初めて読んだ皆川作品。衝撃を受けたが、著者の他作品を読んでいくうち、かなりライトなほうだと知った。皆川博子入門にいいかも。過激さは抑え目でただただ美しく、幻想的。
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舞台にまつわる幻想短編集。全編通じて感じるのは、ぞわぞわと這い上がる恐怖といじらしいほどの美しさ。ラストに幻想小説ならではの強烈な結末が待っていたりするのも魂を揺さぶられます。一話ごとにどっぷりつかって、一編読み終わるごとに読み返したりして、読了まで何日もかけてしまいました。好みは「紅地獄」。紅の剥げがあんなにエロチックとは!「化粧坂」「化鳥」も後を引きます。自分が自分でないものになる舞台の世界は別の世界と重なっていてもおかしくないのかもしれません。皆川さんの耽美な世界を堪能しました。