はじめからその話をすればよかった (実業之日本社文庫)

著者 :
  • 実業之日本社
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本棚登録 : 328
レビュー : 24
  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408552934

感想・レビュー・書評

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  • 『どうして作家になろうと思ったのですか』という問いに、『作家になろうと思ったことはぜんぜんなかった。ただ猛然と小説を書きたくなっただけだ。ホルモンのせいです、としかいいようがない』という宮下奈都さん。『この本はホルモンから生まれたパクチーのようなものではないかと自分では思っている』、と独特な表現で説明されるこの作品は、
    掌編小説 6編
    自作品の解説 11編
    他者作品の解説 6編
    書評・映画評・CD評 22編
    エッセイ 43編
    アンケート 7問
    ととても盛りだくさんな内容から構成されています。宮下さんは37歳でデビューされたこともあって出版されている作品の数が少ないため、掌編小説が6編も収録されていることにとても魅力を感じて手にしたのがこの作品です。読み始めると掌編小説はもちろんのこと、宮下さんならではのメモしたくなる言葉がそこかしこに散りばめられていて、とても読み応えを感じる読書になりました。

    まずは目的だった掌編小説。6編収録されていますが、うち二つが絶品でした。まず一つ目。〈サンタクロースの息子〉。『ある日、何の前触れもなく夫が言った。「俺、サンタクロースになることにした」』という読者をいきなり置いてけぼりにするような書き出し。『息子はまだ五歳だ。私のことはともかく、この子を残して何も今サンタクロースにならなくても』と第一人称の妻までもが『サンタクロース』前提に話を続ける展開。そんな妻は『ねえ、あなたは日本人だし、痩せているし、髭も薄いし、どちらかというと色も黒いでしょう?』と『夫の背中に向かって話しかけ』ます。しかし、『もう決めたことだから』と短く言い放つ夫は『運命だ。最初から俺はサンタクロースになるべくして生まれ、この期を迎えて役目を悟った。立派なサンタクロースになることこそが俺の人生の意義になる』と至極真面目にストーリーは進みます。そして『翌日、夫は会社を辞めてきた』、さらには『大きなボストンバッグを出してきて荷造りを始めた』と『サンタクロースになる』という運命に向かって歩みを進めていく夫、そして…、と展開するこの掌編。短くまとめたストーリーの中に印象的な伏線を張り、そしてファンタジー要素を織り込みながら、最後に美しい伏線の回収による感動的な結末へと導いてくれました。掌編という尺を上手く活かした逸品だと思いました。

    二つ目は〈花は環(めぐ)る〉。この掌編では、全編に渡って『白木蓮』を象徴として描画しながら展開していきます。そして主人公に『高校の同窓会』からの案内が届きます。『久しぶり。同窓会、帰ってくるでしょ?』と、『学校が終わると図書館へ通った。いつもふたりで並んですわって、問題集を解いた』というかつての友人からも電話がかかってきて…というストーリー。この作品は『福井県立高志高等学校同窓会誌「みどり葉」』という出典の記載から宮下さんが卒業した母校の同窓会誌に寄稿したものだということがわかります。こんな素晴らしい作品を読むことができる同窓会誌って、あまりに贅沢です。とても羨ましくなると同時に、本来部外者として読めなかったはずの作品を読む機会が得られたことに感謝したいと思いました。

    また、書評では、私の大好きな辻村深月さんの「水底フェスタ」について宮下さんの視点での分析に感銘を受けました。『この小説の何がすごいかといったら、顔だ。登場人物たちの顔が目の前にはっきりと浮かぶ、その鮮やかさに息を呑む』。えっ!と思いました。『ひとりの少年がさまざまなことを知っていく物語でもある。知ってしまえは、もう元には戻れない』と続ける宮下さん。読み終えて、とても納得感のあるその書評に魅了されるとともに、先月書いた自身のレビューを読み直してみて、その読み込みの浅さと、レビューの改善の余地がまだまだあることにも気づきました。小説を読む、そしてレビューを書くという毎日の中で、私が常々目標としている『この本を読んでみたい!』と読んでくださった方に思ってもらえるレビューを書くための幾つかのヒントをいただいたように思います。

    そして、43編もあるエッセイですが、そこかしこにキラキラと輝く表現が登場します。そんな中、宮下さんが考える自身のお子さんへの接し方に関してこんな記述がありました。何かと面倒ごとを後回しにしがちな自分について書かれる宮下さん。でも、『こどもたちに関してだけは、後まわしにしない』とはっきり書かれます。『後まわしにはしない。こどもには今しかないと思うからだ。今、お腹が空いていて、今、話を聞いてほしくて、今、ぎゅっと抱きしめられたくて。今を逃したら、次はない。肝に銘じている』と書かれる宮下さん。子育てに関しての真っ直ぐなお考えを垣間見た気がしました。

    『次に書く小説がいちかばんいい小説になる、と信じて作家は書く。今が、そしてこれからがいちばんいいときだと信じて人は生きる。そうじゃなきゃ、つらい』と書かれる宮下さん。6編の掌編はもとより、書評、エッセイと、予想を遥かに超えて、とても盛りだくさんな内容を楽しませていただきました。『小説というのは、わからないことに言葉で挑むことだとわたしは思っている』、そして『「わからない」は「わかりたい」につながっていく。わかろうと思う気持ちには馬力がある』という宮下さん。『いい小説には答ではなく、問いがある。読んで「わかった!」と爽快になってもらうことより、「よけいわからなくなった」と考え込んでもらうことを目指したい』というそんな宮下さんの作品を、急がず慌てず、ひとつひとつ大切に読んでいきたい、そんな風に感じさせてくれる、魅力満載の作品でした。

  • リサイクル市で格安で購入したエッセイ。
    手に取ってよかった。すごく面白かった。

    前から宮下奈都さんの作品(小説の方)が気になっていた。
    このエッセイで紹介されていた『田舎の紳士服店のモデルの妻』を読んでみたいと思った。『太陽のパスタ、豆のスープ』『静かな雨』も気になる。

    “本を読みながら登場人物に本気でつっこみたくなる。彼らに体温を感じてしまう。”
    (317ページ)

    という一文があって
    本とどうやって向き合えばいいのか静かに教えてもらったような気がした。

    エッセイは共感できることが多くって文句なく面白い。
    掌編の「野生のバス」「サンタクロースの息子」とか好き。

    毎晩寝る前にコツコツ読むのが楽しみだった。
    今夜からは寝る前に何を読めばいいんだろう…。困ったな。

    2020年積読本消化15冊目。
    はじめからこの本を読めばよかった。

  • エッセイの間に差し込まれる掌編「サンタクロースの息子」が良かった。
    その世界に関する説明がなく、色々と想像を膨らませられるところが好き。

  • 良かった。こどもたちとの日々の暮らしとか、小説や音楽に対する気持ちとか。風呂に入らず本を読むっていうのはすごいな、と。とっても普通な感覚を大事にしている人だと思うのだけど、やはりそこは小説家で、独特の感性も持っている。紹介されている小説は読みたくなってしまう。

  • エッセイは、書き手のプライベートな部分が垣間見れるようで楽しい。子ども時代から学生、就活、結婚、引っ越し、子育て・・・。世界観は小説と同じで優しくほほえましく楽しい。

  • エッセイ集。宮下さんの日常に引き込まれて、勿体ないと思いながらも一気に読んでしまった。決意の夜での息子さんとのやり取りが好き。
    短編も読みごたえがあり面白かった。

  • 宮下奈都のエッセイ集。
    タイトルに納得、エッセイも面白いが、宮下さんはやっぱり天性の小説家だと思う。
    この本も、メインのエッセイより、付け合わせ的に収録されている短編小説のほうに引き込まれてしまう。

    宮下作品を味わいたいなら、手軽にまずはエッセイとか思わず、はじめから小説を読んだ方が絶対良いよ。間違いなし。

  • 2019.4月。
    宮下さんがお子さんのことを書いた文章が好き。家族みんな個性はバラバラだけど、それぞれが楽しそうに己の道を進んでいそうで。のびのびおおらかな雰囲気の宮下さんのエッセイは、読んでいるこちらも気持ちよくなるのです。
     

  • 大好きな本や音楽、そして愛しい三人の子どもたちと共にある暮らしを紡いだ、著者初のエッセイ集。
    私と同じ1967年生まれということで、共感できる話題が多い。『ノストラダムスの大予言』により、32歳で死んでしまうと達観したのも同じである。それでも今、家族ができて細やかながら幸せを感じながら生きる毎日の尊さは、あの頃知った『ノストラダムスの大予言』のおかげかもしれない。

  • なんか落ち着きます。宮下さんの作品。
    正直、エッセイ集としては、長時間読んでいると飽きます(失礼)。しかも、返却期日が迫っており、あまりしないのですが、飛ばし読み(重ねて失礼)しました。
    通勤電車でのひと時。心がざらついていると感じる時間帯に、ジワっと染み入りました。私は福井には行ったことありませぬが、なんとなく福井が好きになってきたのはこの方の作品に出会えたからかもしれません。
    たまにはいいですね、エッセイ集。宮下さんにはいつか、ミッシェルガンエレファントについて熱く語っていただいたい、というのが私のささやかな野望であります。

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著者プロフィール

宮下 奈都(みやした なつ)
1967年福井県生まれ。上智大学卒業。2004年、「静かな雨」で文學界新人賞に入選し、デビュー。日常に起こる感情の揺れを繊細で瑞々しい筆致で描きだす作品で知られる。『スコーレNO.4』が書店員から熱烈な支持を集め、注目を浴びる。代表作に、2016年本屋大賞、ブランチブックアワード2015大賞、「キノベス!2016」などを受賞した『羊と鋼の森』があり、2018年6月映画化。『静かな雨』が2020年新春映画化が決まり、2019年6月6日文庫化される。ほか、福井からトムラウシに移り住んでいた頃の日々を描いた『神さまたちの遊ぶ庭』や、福井での身辺雑記や本屋大賞受賞前後のエピソードなどを描いた『緑の庭で寝ころんで』がある。

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