『悪魔と神』は、上演時間4時間にも及ぶ長編戯曲。16世紀、ドイツ農民戦争直前の騒然たる時代状況を背景に劇は展開する。前作『汚れた手』が、アンガージュマンの演劇的実験であったとすれば、それに続くこの『悪魔と神』で、サルトルは主人公ゲッツを通して人間存在の根源的な意味を問いかけている。悪の権化のようだっであったゲッツが、骰子の一振りで善なる存在であろうと決意する。人は全き善であることは可能か。地上に全ての人が平等なユートピアの建設は可能か。そうした問いの果てに、ゲッツの絶対的な孤独と自己存在の不条理とが浮かび上がってくる。