帝国の計画とファシズム: 革新官僚、満洲国と戦時下の日本国家

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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784409520840

作品紹介・あらすじ

先進技術と国民精神を結びつける思想

資本主義や共産主義にも勝る第三の道として構想されたテクノファシズム。軍事化する日本において、岸信介、星野直樹ら革新官僚による満州国の建設は日本に何をもたらしたのか。戦後にまで影響を及ぼした日本ファシズムの実態を多角的に分析する。

感想・レビュー・書評

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  •  ファシズムを再考する本書の主役は「革新官僚」と呼ばれた一群の人々である。彼らは、機械、大量生産、近代企業の台頭という時代にあっては、国家計画と管理面の専門知識が要請されると考え、そして日本のような「持たざる国」にとっては、ファシスト的な諸計画が最も適していると考え政策を推進した。こうした急進的で権威主義的テクノクラシーを、著者は「テクノファシズム」と名付けている。

     1930年代の新しい政治的・経済的権力の代表として登場してきたのが、新軍人(=統制派)、新興財閥、革新官僚であり、彼らが共有したのは、総力戦の時代を勝ち抜くためには、技術的専門知識を有し、狭量な私利私欲を超越し、現代の産業社会の組織化され統合されたメカニズムを把握するテクノクラートが求められており、そして、自由資本主義でも社会主義でもない第三の道を目指すのだと確信していたことにある、と著者はする。

     そうしたテクノファシズムの大きな実験場となったのが満洲国であった。第2章と第3章において、満洲建国に至る過程、満洲国の理念や位置付け等についての様々な考え方、関東軍と官僚との関係、官僚による産業統制の方法と工業化の推移等が論じられる。
     第4章では、革新運動の信奉者として、奥村喜和男、毛里英於菟という2人の官僚を取り上げ、彼らの著述を通して、その思想を明らかにしていく。革新官僚と言っても、固有名詞で知っていたのは岸信介や星野直樹くらいだったので、この章はとても勉強になった。ただ、後期になればなるほど日本精神とか文化といったことが前面に出てくるのが、あまり釈然としなかったが、資本主義でも共産主義でもない道ということになると、民族精神との結び付きが求められてしまうということなのだろうか。
     第5章では新体制運動が論じられる。これまで概説書を読んでも、この新体制運動が何を目指していたのか、またなぜうまく行かなかったのかが良く分からなかったのだが、「革新官僚は新体制をとおして、日本の自由資本主義精神と闘争の絶えない文化を変えようとした。…日本実業界の指導者たちの専門知識を高く評価しながら、彼らに利潤を追求する資本家としてではなく、公僕として企業を経営するよう求めた。」とあることで、おおよそそのやろうとしたことが理解できた。そしてまた旧財閥を中心とする経済界がなぜ抵抗したのかについても。

     実際政治の場において、新官僚の力がどの程度のものだったのかについては実証的に明らかにする必要があるだろうがー例えば人事権を持つ大臣との力関係などー、テクノクラートとしての官僚という側面に光を当てた興味深い研究だと思う。


     
     
     

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  • 東2法経図・6F開架:210.7A/Mi34t//K

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著者プロフィール

ジャニス・ミムラ
1963年、アメリカ合衆国オハイオ州クリーヴランド生まれ。ペンシルヴェニア大学ウォートン・スクールにて学士号(経済学)取得、カリフォルニア大学バークレー校にて博士号(歴史学)取得。ストーニー・ブルック大学(ニューヨーク州立大学(SUNY))歴史学助教授(2003-2011)、歴史学准教授(2011-)。駒澤大学、東京大学、香港大学、ミュンヘン大学現代史研究所(ミュンヘン)にて客員教授を歴任。フルブライト財団、日本財団、ドイツ学術交流会(DAAD)からそれぞれ複数回にわたってフェローシップや助成金を授与される。日本の科学技術や第二次世界大戦中の国家計画についての論文多数。現在は日本と他の枢軸国(ドイツおよびイタリア)との同盟関係を主たる研究対象としている。

「2021年 『帝国の計画とファシズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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