増補 思春期をめぐる冒険:心理療法と村上春樹の世界 (創元こころ文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422000633

作品紹介・あらすじ

日常の目に見える現実とは異なる次元の現実を描く村上春樹の作品群と、こころに深い苦しみを抱えつつも自らの物語を生きていこうとするクライエントへの心理療法の事例を重ね合わせながら、激しく揺れ動く「思春期」の実像を鮮やかに描き出し、人が生きるということそのものの意味を問いかける。心理療法家がこころの本質に迫った定評あるロングセラーに、近年の村上作品を論じた論考を新たに加えた増補版。解説=三浦しをん氏。

感想・レビュー・書評

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  • 医学部分館2階心理学:146.8/IWA:https://opac.lib.kagawa-u.ac.jp/opac/search?barcode=3410163442

  • 【本学OPACへのリンク☟】
    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/704098

  • 思春期は、揺らぎある「こちら側」と「向こう側」を行き来する時期である。村上春樹の作品がリアリティをもって読者に迫ってくるのを実際の臨床場面を引き合いに解説する。村上作品を何度も読み重ねるが上の技だ。2019.3.10

  • 心理療法家が村上春樹の小説を心理学観点から読み解く視点が快適。春樹自身が「伝えたいメッセージがあってそれを表現しているわけではなく、自分の中にどのようなメッセージがあるかを探し出すために小説を書いている」と述べたとの引用がある。まさに同感である。それが自己治癒、つまり癒し効果を与えているということなのだと思う。それが異界から見た自分を追求するという不思議なデュアルの世界を描くこの人の特徴なのだろう。それが読みながらの快感の遠因になっているように思う。10歳の子供が多く登場すること、死んでいく人が多いこと、セックスをしたという表現が多いことなども心理深層に迫る象徴的な意味があるように思う。心に傷を負った人物が多く登場する。この本のタイトが示しているものが、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」そのものだ。
    巻末の三浦しをんの解題に、またスッキリさせられる。《すぐれた「物語論」にもなっている。ひとは物語を求める生き物だ。小説や映画といった創作物を味わうだけでなく、日常生活のなかでも、なんらかの物語を必要とする。物語とは「意味」だからだ。・・・物語を真に味わい、個々人が日常の中で深く物語を紡いでいくことは、人の心にいい影響をもたらす。物語とは異界へと通じる「井戸」、トンネルのようなものだ。・・・心身に余裕をもたらし、自他の感情に深く触れ、人間関係を誠実かつ実り豊かに構築していくために、非常に重要。》

  • 村上春樹論として。村上春樹はそんなに好きではないのだけれどね。

  • 2016年68冊目。

    心理療法の世界と村上春樹作品のストーリーの類似性を語った本。
    河合隼雄さんも同じような視点を持たれていて読んだことがあったが、今回の本もとても重要な本だと感じた。
    村上作品でよく出てくる「こちら側」と「あちら側」の概念。
    現実的な「こちら側」だけの問題を解決する表層的な物語に執着しているうちに失われる「あちら側」の力を、物語は統合して全体性を取り戻させる力を持っている。
    興味深いのが、読者に対する治癒能力の話だけではなく、治療者自身もその視点を持っている必要があるということと、物語を紡ぎ出す作者自身の治癒とも大きく関係しているということ。
    村上さんは「メッセージがあって小説にする」のではなく、「自分の中にどんなメッセージがあるのかを探し出すために小説を書く」という。
    多くの作家たちが、自発的に動き出した登場人物たちを追いかけることで、未知の自分を探るというようなことを語っているのを思い出す。
    「物語を生成する」ことによる癒しというものをもう少し追ってみたい。
    何度も読み返したいと思えた本だった。

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著者プロフィール

島根大学人間科学部心理学コース教授

「2020年 『こころを晴らす55のヒント』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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