コッホの『バウムテスト[第三版]』を読む

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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422115139

作品紹介・あらすじ

コッホのテキストと現代の心理臨床をつなぐ。初版公刊後50年以上をへて、ようやくその真の価値が見直されたコッホのテキストを、現代の臨床の場で本当に生かすためには、どう読み、どう理解すればよいか。知識と経験をもとに二人の臨床家がくり広げる豊かな語りの世界。

感想・レビュー・書評

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  • ・「描かれたものをそのまま言葉に置き換えてごらん。そうしたら、もうほとんど半分以上解釈になっているよ」

    ・ある独特の身体症状を持っている方が、ある言葉で表現していることが、実は、内界で起こっている身体症状の表現そのものであることがあるわけです。一つだけ例を挙げれば、ある方が、肺がんの脳への転移を、「雁が大陸移動する」という夢を語る、という形で表現された。

    ・私は、小学校の一年生から中学校三年生まで、同一例(三クラスだったので120例なのですが)のバウムを9年間とっているのです。毎年行って、9年間描いてもらったわけです。そのときに、木が天に抜けるという形で紙の上端を抜け出る、風景構成法でいえば≪川が立つ≫と言われる表現に相当するのですが、上方に抜けてしまって下のほうだけ描かれるというのが、小学校四年生から五年生に見られるということも見出しました。ところが中学生になると、みんな戻ってきます。枠(用紙)の中におさまってくるのです。

    ・今でも忘れられませんが、木の葉っぱの一枚一枚を200何枚、非常に克明にお描きになった。そして、さらにそれを落とすのです。一枚ずつはらはらと。描いたものは落とせないので、画面の上で落としていって、根っこの部分に洞があるのですが、その洞を一枚一枚の葉っぱが隠していくんです。そして、一枚一枚うず高く積もって、落ちた葉で洞が全部隠れるのです。そういうのを見ていて、直感的に、この人は性的な凌辱を受けたに違いない、だけど、そんなことを人には言いたくなくて、隠したい、だけどそのことを思わざるを得ないという気持ちが、一枚一枚描かれていく葉っぱの描き方で伝わってくるのです。はらはらと落ちながら一枚、はらはらと落ちながらまた一枚と。これはすごいテストだと思ったのがいちばん最初です。

    ・バウムテストには、エネルギー領域(木の各領域)、運動領域(木が伸びていく方向)、空間感覚領域(用紙の各領域)の少なくとも三つを区別して図式を用いる必要がある。

    ・「早期型の一覧」
    1.一線幹、2.一線枝、3.二線枝、4.直線枝、5.水平枝、6.十字型、7.空間倒置、8.日輪型・花形、9.低在枝、10.枝が無くて(あるいは貧弱な枝の)上端が閉じた幹、11.幹上直、12.幹下縁立、13.幹の根元がまっすぐ、14.多数の木を描くこと。
    健常児の子どもで幼い場合の他に、発達が遅れているためにその指標がでてきている場合や神経症的に退行している場合があるが、その前に「コッホは各指標の年齢別の出現率をきちんと見ている」ということを強調したいと思います。
    たとえば、≪一線幹≫であれば、小学校入学のときにすでに0%に近い数値になっていて、入学前にほとんど消えている指標であるのに対し、≪一線枝≫ですと、小学校入学のときに60%くらい、小学校を卒業するときでも20%くらいは描く。

    ・幼児性と十分取り組むことなしに幼児性から自由になることはできない。その際、単なる知的な知識だけではどうしようもなく、本当に効果があるのは、再び思い起こすこと、言い換えれば、“再体験”することである。時は矢のように流れ、時々刻々に発見される世界が圧倒的な勢いで流入してくるために、多くのことが手つかずのまま取り残される。しかしそれは、“自由になっている”のではなく、ただ“遠ざかっている”に過ぎない。それゆえに、何年も後になって幼児期の記憶へと戻っていくと、自分の人格の生き生きとした断片を見つけ、今なおそれとしっかりと結びついていて、幼年の感情が心を満たしているのに気づく。しかし、それらの断片は、まだ幼児期のままの状態にあるので、強烈で直接的である。それが大人の意識と結びついたときにだけ、その幼児的な側面が失われ、修正される。
    ―C・G・ユング 心理学と錬金術

    ・ヴィトゲンシュタイン指数。
    ミリメートルで表したバウムの高さ(h)を、年月で表した描き手の年齢(a)に換算する。その際、一つの指数(i)が得られる(i=h/a)。これをもとに、当該の患者の人生において、重大な意味をもつが半ば忘れられたような日付をバウムに読みとる事ことができる。
    たとえば40歳の男性が120mmの高さのバウムを描いたら、指数は3(120/40)となる(3mmで1歳)。地面との境界線からほぼ13mmのところで、左側の幹の線が破断面になっていた(太い主枝が破断している場合もあり、その場合はそれに相当する高さを測る)。
    そこで、彼に4歳4ヶ月(13/3=4.3=4歳4ヶ月)のときに、女性または母親に関する体験で、何が起こったのか尋ねてみると、患者は蒼い顔をして、まさにその時に母親が亡くなったのだと述べた。

    ・in vivo(生体のなかで)とin vitro(試験管のなかで)の比較をしたと言うが、細胞を家にたとえてみれば、一家団欒で食卓を囲んで食事をしているところに電信柱をぶちこんで右往左往しているのを、君らは正常の細胞の働きを調べたと言っているんだ。そのことをよく考えてみたまえ。

    ・診断を行うものにはその力のやりくりが求められる。
    …インスピレーションが働いているときには存分に演じることができる。しかし、インスピレーションは、いつも訪れるとは限らない。だからテクニックが必要となる。テクニックを充分に習得すれば、インスピレーションが働いているかどうか、観客に気づかれることはない。

    ・私はもう、臨床は毎回が演劇と同じだと思っているんです。演劇の場合、演ずることは毎回同じだと思われるかもしれませんが、同じではないんですね。たとえば『屋根の上のバイオリン弾き』なんかはもう1000回やっているわけです。1000回もよく同じことがやれるなと思うでしょ。違うんです。観客が違うからです。俳優さんに聞いたらすぐにわかります。「1000回もよくやりますね」と聞かれると、彼らは「見ている人が違いますからね。一人ひとりの反応を見ていたら全然違いますから、心意気が違ってきます」と答えられます。

    ・木は動けない代わりに上に向かって育つ。人間も5年前と10年後とでは違うが、その年月の差が木にはちゃんと内包されている。

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著者プロフィール

北海道大学大学院環境科学院准教授/理学博士(東京大学)


「2010年 『Sustainable Low-Carbon Society』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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