ぼくらの心に灯ともるとき

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422930930

作品紹介・あらすじ

舞台は、瀬戸内の小さな街のジャズバー。さまざまな事情で孤立したり、行き詰まったりしている人たちが入れ替わり立ち寄っては、マスター相手に自分語りを始める。なかには、まったく話さない人もいたが、やがて……。

ここには、もしかしたら発達やこころに何らかのしんどさを抱えているのでは? と思えるような少し変わった人たちが多く登場してくる。本書は、そういう人たちが、地域の中で人や自然や土地の力に支えられながら、ふつうに生きていこうとする姿を、その活き活きとした魅力とともに描こうとする、素朴な祈りのような作品である。

ほかの人と、何かちょっとリズムが違う、一見近寄りがたくて話しにくい、なんとなくふつうの応対がしにくい……そういう人たちは社会の中で孤立したり疎まれたりしやすい。そして、誰にも相談できず行き詰まった果てに精神科医療の現場を訪れるようになることも少なくない。
本書の著者は、日本の思春期・青年期精神医療では著名な精神科医の一人である。40年以上に及ぶ長い臨床経験のなかで、診察室の中で出会った人たちのうち何割かは、何かの出会いや支えがあれば、〈患者〉や〈クライエント〉にならずに、街の中でその人らしく、その人なりの楽しみをもって生きていけたのではないか、症例や事例のケースとしてではなく、街の中に生きる少し変わった人、ユニークな人として出会えたのではないかという気がしてならないという。

本書に登場するバーのマスターや、お寺の和尚さん、骨董屋のおばあちゃん、自転車屋のおじさんのような人たちが街の中にいれば、そして、もう少し人との出会いや自然なふれ合いの場があれば、社会の中で、その人なりのやり方で生きていける人たちはもっと増えるのではないか。
人と人とのつながりが薄まり、人々の中での孤独や孤立が日々問題になっているなかで、おそらくこの本に描かれているふれ合いやぬくもりが、また、共にいることの大切さや、おせっかいとも思える「ひと言」などが、かすかな絆への希望を生み出す……そんな気持ちにさせてくれる物語。
著者による各章の挿絵が、なんとも言えず温かい世界を描いている。

感想・レビュー・書評

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  • 不安定な頃を脱したひとりの女性から教えてもらった一冊です。
    仕事を通して出会ってきた人たちの顔や背景が浮かんでくるお話でした。
    生きにくさの背景は様々ですが自分が持つ特性や育った環境が複雑に絡み合って苦しい状況の中で過ごしてきた人たち。でも、暮らす街の中での繋がり、人との出会い、関わりによってその人にとっての生き方や生きやすい居場所を見つけていく。
    人と人との繋がりは、安らぎや癒しにもなる。また、その反対もしかり。
    そんなことを思いました。
    そう言った揺らぎのなかであってもその人にあった居場所があることでバランスを取ってその人らしく生きていけるのではないかなと思いました。
    生きにくさを抱えたマスターが商うジャズバーはそんな人たちの居場所になっている。
    街の中にひっそりとある木の扉を私も開けてみたくなりました。

  • 仕事がら、病んでいると言われている人たちと関わることが多いですが、たしかに、病んでいるのは、彼らなのか、私なのか、はたまた、社会なのかわからなくなることがあります。それを改めて考えさせてくれました。

  • 思春期・青年期精神医療で著名な精神科医である青木省三さんの初めての小説。
    そろぞれのエピソードを読みながら、登場人物たちの困りごとを想像し、読み進めているうちに、困りごとが困りごとでなくなっていることに気づく。

    出版社サイト
    https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4373
    インタビュー
    https://naniyomo.com/?p=6486

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著者プロフィール

公益財団法人慈圭会精神医学研究所所長・川崎医科大学名誉教授

「2020年 『こころの科学215』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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