医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと

著者 :
  • 自由国民社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784426128128

作品紹介・あらすじ

テレビ朝日系『ドクターX~外科医・大門未知子~』医療監修の現役医師が綴る
息子としての誠心、医師として描く展望
兆候、検査、施設選び、予防と対策……そして、それでも失われないもの
――家族と自分のために考えたい認知症への備え

認知症に不安を抱いている方へ
母の病と長年向き合ってきた現役医師が
自らの反省を込めて今、伝えたいこと――


「私、失敗しないので」
 僕が医療監修を務めるドラマ「Doctor-X~外科医・大門未知子~」、主人公の決め台詞だ。この台詞には、僕が長年自分自身に言い聞かせてきた医師としての思いが反映されている。
 ところが、僕は失敗した。それも、僕を心から愛しみ育ててくれた、かけがえのない母に対して。
 僕の母は、23年前にアルツハイマー型認知症を発症し、現在施設で暮らしている。認知力や短期記憶力が日に日に衰え、今では僕以外の家族のことは、ほとんど誰だかわからない。
 アルツハイマー型認知症の多くは、年単位で緩やかに進行する。本人は病識に乏しく、家族はそれと気づかないうちに進んでしまう場合が多い。検査や治療に取りかかるのが遅れても致し方ないと考える人もいるが、僕について言えば、致し方ないでは済まされない。徐々に進行するとはいえ、僕は自分が途方に暮れるまで、家族や主治医と忌憚なく話し合うことも、情報を共有し協力し合うことも、できなかった。
 母に心の底から謝罪したい。僕はこの深い後悔や反省を、本書にまとめてみようと思った。これは母がどのように認知症を発症し、僕らがどう対処し向き合ってきたかを詳述した、23年に及ぶ一認知症患者とその家族の記録である。息子として、医師として、自らがどのような過ちを犯し、その反省から何を学び、考え、どのように行動したかを、恥をさらす覚悟で、包み隠さず書き綴ったつもりである。
 言い訳になるかもしれないが、僕は認知症の専門医ではない。したがって、認知症の予防や治療についての専門的な医学情報を知りたい読者には、物足りなく感じるかもしれない。だが、医師としての経験や知識、母のケースから僕なりに得た認知症に関する知見をもとに、認知症の予防や改善に役立ちそうな内容を、できるだけ盛り込むよう努力した。介護施設の方々にも多大なるご協力をいただき、認知症に対する施設の取り組みなども紹介した。そして最後に、認知症を通して痛感させられた「死」というものについても、自分の思うところを述べさせてもらった。
 本書が家族の認知症で悩む方をはじめ、医療者や介護従事者など、認知症と日々奮闘する方々、そして今後直面するかもしれないすべての方々に何らかのヒントをもたらし、深刻な認知症問題の改善に微力ながら貢献できれば幸いである。
(本書「はじめに」より)

感想・レビュー・書評

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  • 認知症の症状と介護の「あるある」の何乗だろうか。
    あるあるだし、そうそう、わかるわかる、なるほどなるほど。

    ずっと前に読んだある小説では、「認知症の親の運転も火事を起こしそうなことも、全て子供達が責任を持つと言ってやれば、かえって子供達に迷惑をかけまいと思って、やめるだろう」という無責任な発言を医師がしていた。
    それは小説、あくまでもフィクションではあったが、私は「冗談じゃないよ」と憤っていた。
    そして実際にそういう無責任発言をする医師も居るので(その件は、認知症に関してではなく、別の親族の問題行動に対する医師の無責任発言だったのだが)、小説に対しても私は余計にひとりでカッカしていた。


    そこいくと本書の森田先生は、認知症患者が火事や交通事故などで社会に迷惑をかける危険性をちゃんと心配なさっているし、がん患者に心ない対応をする医師のことも快く思っておられない。

    また、ずっと危惧していた通り、本書によると私自身が遺伝的に認知症になるリスクはやっぱり高いということになる。

    本人に病識の無い病気だということは嫌というほどわかっているので、今度は自分がなっても気付かないわけで、子供達にも本当は本書を読んでおいて欲しいのだけどな…。

    そして、本書はミステリー小説ばりのオチ(と言っては失礼だが)が待っていて、読者として本当に驚いた。
    お姉さん、尊い。

  • 医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと。森田 豊先生の著書。テレビ朝日系『ドクターX~外科医・大門未知子~』医療監修をしておられる森田先生。森田先生ご自身が認知症のお母さまと過ごした実話だから説得力が違います。認知症や家族との関係や認知症患者さんとの関わり方についてを森田先生から教えてもらえるような良書。森田先生のような社会的にも成功されていて立派でお優しい息子さんを持たれた森田先生のお母さまはきっとお幸せなはず。

  • お医者様のご家庭でも認知症当事者を受診させる大変さや介護の苦しさがあると知り私たちだけではないんだと少し安堵しました。家族だけで介護を抱えない。施設に入所することで症状が緩和し、当事者の尊厳が保たれることもあると知り今後の介護に役立てたいと思います。

  • 文章に穏やかな先生の人柄がみえる

    ご自分が元々しっかり者だった母親に対してもっと早く対応すべきだった、という後悔や、どうすれば良かったか、なとを記述されている

    本にする時には著者は概して「自分はこんなことできたんだ」という、成功体験を書きたがるものだが、先生はあえてまずかったことなど正直に書いている 
    そういうところをさらけ出せる先生のような人格のある方に患者としてかかりたい

  • 誰にでも認知症になり得ること。
    耐えてきたことが緩む時こそが危険なのかもしれないということ。
    寄り添ってあげることがとても大事だということ。
    自分自身の母親も60近くなってきて、父親も60を超えた。
    自分の親がいつ何があってもおかしくない年齢だからこそ、とても気になる内容だった。
    父も母も仕事をしている都合、適当なストレス環境に身を置いていることは逆に良いことなのもしれないと本書を読んで思った。
    あとはいろんな世代と会話する機会を持てるかという点においては、父親の方が接触機会が少ないかもしれないと想像した。
    父と母と遠く離れたところに住む息子としてはどちらも定期的に話す機会を確実に儲けていくべきだと感じた。
    筆者のお姉さんは本当にとても素晴らしい方なんだなと最後に感じました。

  • 20221221
    高齢の自分の母のことを不安にかんじ、本屋で見かけ読んでみた。

    認知症と思われる症状の母の様子を受け入れられなかった葛藤や、経済的な不安など、医師としての立場でありながら色々な感情を吐露してくださり、とても勉強になった。また、著者のお母さんや家族への愛が随所に感じられ、読んでいてとてもしあわせな気持ちになった。このくらいの年代の方がこのように愛を包み隠さずに表現してくれることってあまりないような気がする。ありがとうございます。

    軽度認知症障害(MCI)の段階で適切な対策や治療を行えば、認知症の発症を遅らせることができるそうだ。勉強してみよう。
    認知症検査を制度化するという案はとても良いと思った。私の世代で実現するといいなぁ。

  • 介護について深く考えさせられる。祖母と夏に2年ぶりに会ってから認知かなと思う言動が多く見られた。たまたまインスタで加藤茶の奥さんが読んでるのを目にしたらつい買ってしまった。家族できちんと向き合いたい。そのために読みたい一冊。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50297836

  • 大事な大事な話.
    医師として,人間として,森田先生の真摯で前向きな姿勢に「これから世代」としては勇気付けられた.
    ただ,認知症診断を健康診断のように,はとてもいいアイディアと思いつつ,「善意でない」人間の介入をどうしても危惧してしまう.でも,「悪意の入り込む余地のない」制度設計を目指すのは,大変意義深い事だとも思います.それには…誠実で国民思いの政治,なんだよなぁ…

  • 森田医師が親の認知症にどう向き合ったか!

    母親の認知症により家族が壊れていく絶望、医者である筆者の後悔、母親がまたおしゃれをするようになったことの嬉しさ、など包み隠さずに書かれていて、怖いという気持ちとともに、どういう手段があるかのヒントをもらえました!

    悩んでいる方に、紹介したいと思う1冊です。

    勉強になった箇所
    ・お金の事で揉めるのも嫌だったから 、僕はそれ以上 介入しようとしなかったのだ。ところが、ここでまたひとつ 、僕は姉から衝撃の事実を知らされた。「あら、お母さんは 豊のことは信頼してたわよ。私は信用ならないけど、豊かならお金のことも安心して任せられるんですって」
    ・姉は泣いていた。 深く傷ついていた 。それは 盗っ人 呼ばわりされたからだけではなく、 理想的な良妻賢母だった 母が壊れていくことに対する悲しみでもあった。
    ・認知症の検査を受けたがらない 人は決して少なくないように思う。記憶が曖昧になり、自分が自分でなくなり、 言動もおかしくなっていく、 そんな病だと診断されるのは誰だって怖い 、だからできれば 検査したくない、 先延ばししたい…。そう思ってしまうのも人情ではないだろうか。
    ・それに認知症は「どこが痛い」「あそこが悪い」という、 いわゆる 「病識」がない 客観的に見て 「ここが悪い」と判断することもできない。そのため、 当人も 医師も積極的に治療しようと なかなか思えない。
    さらに言えば、 認知症で命を落とすということはほとんどない。そのため、この当時はガンなどと比べて 、それほど クローズアップされることもなかった。
    命を落とす 危険がないというのは、本来 喜ばしいはずなのだが、そのことが皮肉にも油断を招き 、病状を進ませることになるのである
    ・そしてある時、ふとひらめいた。そうだ、母が一番 守りたかったのはこの僕だ。だとすれば、 母を説得できる方法はひとつしかない。「僕の為に検査を受けてください」と頼む。
    ・セカンドオピニオンを正しく求めることは、患者にとっても 主治医にとっても良いことづくし なのだ
    ・研究でも診療でも手術でも、僕が諦めずに立ち向かうことができたのは、ひとえにこの「人生 100%努力!」のおかげ なのだ
    ・認知症予防には、魚に含まれる EPA や DHA、有酸素運動、 読書などが良いと言われるが、それ以上に大事なのは 、人とのコミュニケーションを通じて 、頭や身体を積極的に使うことではないかと思えてならない
    ・ところが 何度か通う うちに、帰宅した母は楽しげな様子を見せるようになった。・・・「ちいちいぱっぱ なんか、嫌い」と口では言いながら、デイサービスに馴染んでいく母を見て、僕は目からうろこが落ちる思いだった
    ・それと 職員さんはとんでもない という顔でこう言ってくれた。「ご心配なく お母さまは 皆さんに愛されていますよ『ふみえさんはここのボスだね(笑)』って。お母様の人柄ですね」
    ・「それと お一人お一人の生活歴、 これまでどのような人生を送り 、何を大事にしてきたか 、その方の人生の芯になる部分を把握しておくことも重要だと思っています」
    ・まず 認知症という病の大きな特徴の一つに 「病識がない」ということが挙げられる。・・・当然のことに思えるかもしれないが、病気を治療するには 「症状を自覚できる 」「病識がある」ということがとても重要なのだ
    ・認知症の発症は、口腔 、特に歯と密接な関わりがあることが分かっている。神奈川歯科大学の研究によれば、「何でも噛める」高齢者と「あまり噛めない」高齢者では、認知症の発症リスクに 1.5倍もの違いがあることが報告されている
    ・こうして振り返ると、認知症はケアマネージャーや 介護施設の職員の方とをはじめ、他人の力を借りなければとても対処できない病だと改めて思う。家族だけではどうにもならないものだとつくづく感じる。

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著者プロフィール

森田 豊1963年東京都台東区生まれ。医師、医療ジャーナリスト。秋田大学医学部、東京大学大学院医学系研究科を修了、米国ハーバード大学専任講師等を歴任。現役医師として医業に従事し、テレビ朝日系『ドクターX 外科医・大門未知子』の医療監修を行うなど、種々のメディアや講演等で幅広く活躍中。

「2022年 『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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