辺境から世界を変える ――ソーシャルビジネスが生み出す「村の起業家」
- ダイヤモンド社 (2011年7月8日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784478013762
感想・レビュー・書評
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感想は前半の事例の部分がよかった。貧困層からイノベーションが起こり、新たなビジネスが生まれていることがわかった。そのビジネスって先進国では本当に当たり前のことで、例えば「電気」。貧困層はただでさえ少ない収入を、灯りをつけるために灯油を買っている。灯油の灯りは空気も悪い。そこで太陽光発電を利用したサービスや電機を開発し、ビジネスとして成立させていった。また「流通」。貧困層が住む僻地は、流通網が発達していない。それゆえに日常品が適正な価格で販売されていない。だから貧困層に住む人は、結局高い物を買わざるを得なくなり、貧困の連鎖から抜け出せないでいた。しかしそこに目を付け、「欲しい物を、欲しい時に、欲しいだけ届ける」というビジネスを行った会社があった。もちろん日本のように道路は整備されていないけど、それでも何十時間掛かっても届けるのだ。「電気」も「流通」も、社会ビジネスを可能にしているのは、「携帯電話」の存在だ。IT技術の向上と普及がビジネスを成立しているんだと、本を読めばよくわかる。読んでよかった。とても刺激になったし、「それがビジネスだよな」とも思った。貧困層の市場規模は、今後400兆円にのぼるだろうと言われている。そのどれもが先進国では「当たり前」なことだ。大きく考えつつも、末端の人に善意が届くような行動や仕組みが大事だと思った。
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アジアの貧困地帯を巡って、社会起業家の活動を密着取材した著作。
第1章 激変する貧困市場 ― 37億人のニーズを満たす方法はあるのか?
第2章 途上国からイノベーションを創出することは可能なのか ―辺境で見た強靭なビジネスモデル
第3章 貧困を解決するための果てしない闘い ― エリートと草の根のチームが世界を変える
第4章 問題の当事者だけが持つ「あきらめの悪さ」 ― 逆境から立ち上がったチャンタの物語
第5章 イノベーションを通じて貧困の連鎖を断ち切る ― 「世界を変える」ための競争戦略論
第7章 「サラ金」化するマイクロファイナンス ― 社会企業に求められるものは何か
というような内容である。
特に重要なポイントは第5章である。
複層的な変化がイノベーションをもたらした としている。
①通信メディアの変化、②科学の普及、③技術革新、の三つの革新の複層性が挙げられていた。
このことは、何も未開発な人間社会だけでなく、成熟化した先進諸国においても起こっている現象だ。
いままで繋がっていなかった資源と消費者がつながり内需がまだまだ掘り起こされる可能性がある。
人間が、それぞれに生活の質を高めたいという欲求は人類普遍なものなのであろう。 -
世界中の発展途上国で現地の人々主導で行われているソーシャル・ビジネスの概要を複数まとめた書籍。やはり先進国の価値観を押し付けるのではなく、現地の実情に最も即したビジネスを展開するのが好ましい事が分かった。その中で最貧層の人々に対するサービスをいかに利益化するか、今後も課題が残る事も分かった点が意義深い。ビジネスをどのように軌道に乗せたかより具体的に教えて欲しかったがそれはそれぞれのビジネスについてより詳しく書いた書籍を当たるしかなさそう。
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もう知ってるよという食傷感と共に陳腐な活動を偉そうに紹介するような本とは一線を画した良書。ビジネスモデルごとの魅力をピンポイントにわかりやすく叙述しており大変刺激を受けました。各モデルがどのような成長戦略を描いているのかというところにまで踏み込んで語られており、実際の成果がそれを裏付けています。
傍らにおいておきたい時宣を捉えた本です。
以下キーワードのみ自分の備忘録に
ハリシュ・ハンデ セルコ社
ディーライト社
あえて拡大しないという戦略
サトゥヤーンミシュラ ドリシティ社
辺境の地に流通網を築く。一番インフラを必要としている人へのリーチ
中村俊裕 コベルニク
適正技術と可能性
ラジヴバスデバン アーユルヴェイド医院
シックスシグマと伝統医療の融合
ジェマブロス シングルドロップ
インフラの運営を村人に任せ、共同管理させる。共同体への信頼。
古川拓 カイト社
業界をデザインする大きな絵によりスケールアウト。
北京富平学校
チャンタの転機 -
問題に直面した事のある当時者 にぜひ読んで欲しい 自分だけじななかったんだど、気づける
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これまで失敗続きだった貧困層へのアプローチの仕方を変えることで成功したアジアの社会起業家が紹介されています。
夜に灯りのための灯油代が収入のなかで大きな割合を占めることへの解決策として発電所からの送電設備がいらないため、どこでも使える太陽光発電が利用されたり、辺境ゆえに物の仕入れが大変で結果として貧困層は古いものを高く買うことへの解決策として物流網の整備など様々なアプローチが取られていて、企業が貧困層からもしっかり利益が取れるようなビジネスモデルが確立さえすればちゃんと底上げって出来るんだなと感じました。
営利と非営利のハイブリッドにより、かつての非営利団体の支援活動だけでは成し得なかったイノベーションが徐々に生まれている事に熱くなります。
企業活動により貧困の解決に取り組むことで持続可能なサイクルが生まれている点が素晴らしいと思います。 -
社会企業家の実例
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貧困に苦しむ途上国で、貧困層の為のビジネスを立ち上げた人々を追った一冊。
途上国では先進国では当たり前に存在する電力をはじめとしたインフラが十分に整っていないので、そもそもビジネスを立ち上げる土壌自体に苦労することが多い。
「断絶」、とこの本では表現されているが、ビジネスの一連の流れを途絶えさせてしまう困難が存在する。
また、ODAといった形の国を単位とした援助では、必ずしも草の根分けて末端の人々まで行き渡ることが少ない。
こうした問題点を抱えつつも、貧困層の視点・立場に下りた形で立ち上げに成功したビジネスがいくつか紹介されている。
一般のビジネスにはない独自の工夫が垣間見えて、難しい状況下でも考え方を転換することで困難は打破できる、という励みのようなものも感じられた。 -
NGOないしNPO、いま流行りの社会起業家に焦点を当てた本。底辺国での起業のモデルとかかわる人たちが、どんな理想を抱いてどんなキャリアを持っているのか、どうやってビジネスをしているのかをまとめている。現地の「当事者」が起こした例、国外から疑問を抱いてやってきた例の二つだが、どれもビジネスの本質をとらえた好例だと思った。
そもそも未熟な業界自体をまるごとデザインする(しかない)という、成熟した先進国にはもうあり得ない選択肢が多い点。むしろ代替手段が豊富な先進国では難しい、世界でも最先端のテクノロジの投入による即効性のわかりやすさ。エキサイティングな要素が多分にあることがよくわかる。同時にリスクと難易度の高さも。それだけにBOP環境でのビジネスの担い手は、当事者としての熱意か、よほど優秀なキャリアを持つエリートか…みたいな二極化があるように読めた。だから紹介される事例が興味深い。
BOPビジネスは可能であることを証明したマイクロファイナンスの現在が「サラ金」なら、先進国と同レベルの問題が全く別の環境で起こっていることになる。世界の貧困が減リ始めた時期がBOP環境での携帯普及時期と重なるなら、次世代テクノロジが解決手段だという証明になる。先進国の抱える問題を、次世代技術を駆使した新しいモデルで解決してしまうのは、BOP環境の国々が先かもしれないと思わされる、なかなか興味深い書籍。ビジネスモデルの逆輸入が今後加速しそうな。