本書ではSRIが実践している、SRI内部、および顧客とのプロジェクトにおいてイノベーションを起こすためのフレームワークの詳細が記述されている。詳細な内容についてを語るには、結局本書と同じだけの分量が必要となってしまうが、簡単にいうとイノベーションを高い確率で起こすためには、以下の5つの要素を考慮し、それぞれの値を引き上げていく必要がある。
確率 = ① ニーズ ✖️② 価値創造 ✖️③ チャンピオン ✖️④ チーム ✖️⑤ 組織化
上記の式を簡単に説明すると、それぞれの要素は以下のような内容となる。
ニーズ:市場や顧客にとって「重要度の高い」ニーズを明らかにする
価値創造:「重要度」と「満足度」に注目して、打ち手が生み出す価値を試算する
チャンピオン:イノベーションを内部で推進するリーダー(チャンピオン)を見つける
チーム:イノベーションを完遂させるための人材を集め、適切なコミュニケーションルールを設定する
組織化:イノベーションを支援する組織体制や文化を醸成する
本書ではそれぞれの要素について、より詳細な内容やどのようにして「要素が高まっているか」を判断するための方法論が提示されているのだが、イノベーションを自分のビジネスで起こしたいと考えている人間にとって参考になるのは、前半部分だろう。イノベーションに結びつくようなニーズの見極め方や、価値創造を行うための理論的な枠組みが提示をされている。
一方で、後半になるにつれて「人」の要素が増えていき、勉強して学ぶことができる「フレームワーク」的な考え方は少なくなっていく。例えば、上記にあるようにイノベーションを起こすためには、困難な時にも情熱を持って進めることが出来る「チャンピオン」が必要であるとしているのだが、"どのようにチャンピオンを作るのか"というノウハウのようなものは一切提示されない。
結局のところ、本書を読んで最終的にわかるのは「イノベーションをある組織(社会)で起こすためには、人が決定的に重要である」ということだ。どのようなレベルの(あるいは大きさの)組織でも構成員は複数おり、また極めて論理的な人間が多い組織であったり、知性が高い組織であったとしても、イノベーションに対応する反応というのは、最初から全ての構成員が諸手をあげて賛成するということはないと言っていいだろう。
だからこそ、そういった人によって発生する摩擦を乗り越えていくためには、人のパワーが何よりも必要になるのだということを、本書は声高ではなくても強く言っている。