組織の不条理: なぜ企業は日本陸軍の轍を踏みつづけるのか

著者 :
  • ダイヤモンド社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478373231

感想・レビュー・書評

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  • 名著として名高い『失敗の本質』に衝撃を受け、こんな本を書きたい、という動機で執筆されたものだとあとがきに書いてある通り、結構似た印象だが、(執筆の2000年当時の)経営学、組織論の成果を太平洋戦争に当て嵌めたもので、まずまず面白かった。

    加藤陽子さんの著作以来、「何故太平洋戦争を回避出来なかったのか?」というテーマの本はそれなりに読んでいるが、行き着くところは、このままジリ貧になるより、一か八かに掛けてみたい、という権力者側の発想と、コテンパンにやられるまで事実に気付けない一般人と、景気のいい戦争記事を書いていると新聞が売れることに胡座を書いて、事実を提供しなかったマスコミの、協働の結果なのだろう。

  • 『感想』
    〇合理性と効率性と倫理性は必ずしも一致しない、それは人間である以上仕方がない。だからどのような結論になろうともどこかゆがみが生じ、反対派からはそこを指摘されるが、そこを直したらまた別の部分にゆがみが生じる。

    〇失敗についてあとから文句を言うことは簡単。でもそれが合理的に決定されたことならば、過去を振り返ることに力を向けすぎず、これからの未来に力を注いでいこうよ。

    〇人は変化に伴う埋没コストや取引コストを嫌う。何もしなければコストがかからないのだから。変化しないと自分の存在価値が低下すると真に認めない限り、この先にあるものに手を付けられないな。

    〇この心理をよくわかった上で相手の変化を求める、もしくは変化しないことを認めることができる人こそが本当のリーダーなのだろう。

    『フレーズ』
    ・限定合理的な世界では、たとえ既存の戦略や製品が非効率であることに気づいたとしても、より効率的な戦略や製品へと移行するには、巨大な埋没コストと取引コストが発生するので、人間は容易に変化できないような不条理に陥ることになる。逆にいえば、変化しない限りこれら巨大な取引コストは発生しないのであり、しかも、既存の戦略や製品にかすかな勝利の可能性さえあればこのままの状態にとどまろうとする慣性が、われわれ人間に強く働くのである。そして、そのように現状にとどまることは合理的なのである。(p.94)

    ・組織の本質は人間の限定合理性にあるといえる。(p.241)

    ・もしすべての組織メンバーが限定合理的で誤りうることを自覚し、しかも意識的に誤りから学ぼうとするならば、互いに自由で批判的な議論ができるような批判的議論の場、批判的組織風土、批判的組織文化を形成する必要がある。このような批判的な議論の場は、ある特定の見解に固執するドグマ的で独裁的なメンバーの行動を抑制するシステムとして働くとともに、組織を進化せる原動力にもなるだろう。(p.242)

    ・限定合理的な人間世界では、合理性と効率性と倫理性は必ずしも一致せず、それゆえ合理的に非効率が発生したり、合理的に不正が発生したりする可能性が明らかにされた。(p.246)

  • 著者の言うとおり、先に事例を読んでから、理論を読む方が分かりよい。
    また、ゆっくり読むと飲み込みやすいので、ゆっくり読むのがオススメ。

  • 人間の限定合理性を認め
    批判的組織文化を形成する
    違う意見を交わしながら、意思決定し、実行する
    そんな開かれた組織がますます求められているように感じます
    20年以上前の本なんですが大切なことが書かれていますね

  • -勝間和代さん推薦本より借り読み-

    ?組織の不条理解明に向けて
    -時間なくてパス

    ?組織の不条理と条理の事例
    -時間なくてパス

    ?組織の不条理を超えて

    ○人は、限定的な情報の中から合理的な
    判断をくだす。


    ○一見、不条理な判断が下った場合でも人は
    そのときに得られる情報、もしくは、より都合のよい
    方向へ判断をくだす。


    ○比較

    ・不条理にいたるパターン
    非効率発見
    → 新しい制度形成のコスト > 新しい制度形成のメリット
    → 「既存の組織制度を維

  • 2017/04/09 途中と抜かしたが、要点は読了。確かにこれは出版社変えても出る本だわ。--- 似た題名を 組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫 き 46-1) 文庫 ? 2017/3/22 で出してはるけど別物なの? 上記は、組織は合理的に失敗する(日経ビジネス人文庫) 文庫 ? 2009/9/2 の改題らしいが、やっぱり、この本が底本みたい。 扱う会社が、ダイヤモンド社、日経ビジネス人文庫、そして中公文庫ってことで、違う会社が扱いたいと思う本らしいというのも個人的には、ポイントが高い。初観測 2017/03/21

  • 「漸次工学的アプローチ」(238)
    小さなチャンスは多い 
    その小さなチャンスを繋げてビッグ・チャンスにしていくのが「経営」
    経営は、永遠に継続する「変革経営」変革には終わりが無い
    可能な限り各部門で目標を数値で示させ、その理由を十分説明させ、目標達成を促す

    「不条理」→「進化」
    無謬性の官僚主義により、組織・制度が硬直化、進歩をやめた状態 衰退・崩壊あるのみ
    集権主義の失敗 
    1人のリーダーによりデザインされた計画・作戦は長期合理性を持ち得ない
    どんな人間も完全合理的ではありえない 限定合理的であり、得意・不得意、差異がある
    K.Popper 誤りから学ぶ 開かれた組織を形成する
    →批判的合理的精神により組織は不条理を回避、絶えず組織は進化する(222)

  • ガダルカナル戦、インパール作戦と言えば、「失敗の本質」以来、様々な戦史において徹底的に批判されてきた。曰く、敵戦力の軽視、戦力の逐次投入、補給を無視した作戦計画・・・。現在の視点から戦史を語る場合には、敵味方双方の完全なる情報を得ているので、「合理的に」ああすれば良かった、こうすれば良かったと自由に批判を加えることができる。しかしながら、敵の情報が入らない戦時下において、しかも味方についても客観的な評価が難しい状況で、そんな完全合理性を踏まえた判断ができたのか。筆者は「限定合理性」をキーワードに、これらの戦史を読み解いていく。

    筆者はガダルカナル戦には「取引コスト」、インパール作戦には「エージェンシー理論」という制度派経済学の理論を持ち出している。簡単に言えば、ガダルカナルにおいて、これまで日本陸軍の必殺技とされてきた白兵戦重視を捨てる訳にはいかなかったし、インパール戦では役割分担の細分化が進んだ官僚組織において、上位に声の大きい者がいると、それを牽制すべき者たちが合理的に沈黙してしまう、ということだろうか。

    これを現代企業社会に当てはめると、技術革新によりこれまでの商品や販売方法が通用しなくなっているのに、ガダルカナルのような悲惨な戦いを強いられる、とか、インパール作戦の牟田口のように名誉欲に駆られた役員・部長が主唱する無謀なプロジェクト巻き込まれる、ということだ。本書では戦史に続いて、今から15~20年ほど遡り、バブル期の放漫経営から来ているような破綻事例が多く採り上げられており、「なぜ企業は日本陸軍の轍を踏み続けるのか」という副題もそれなり首肯できる。

    ここまでは、良くわかる。

    人は限定合理的だから失敗や非効率は避けられないが、その解決策は完全合理性の追求ではなく、組織の中に批判的合理構造を備えることだと筆者は言う。そして巻末に至り、太平洋戦争の導火線になった北進・南進論をユートピアと批判した上で、「漸次改善」こそが目指す道と説く。この辺で、若干の論理的破綻が見え始める。

    牟田口の作戦に異を唱える将校は多かったし、ガダルカナルで必要だったのは用兵思想の抜本的な転換と、制空権の確保だった。筆者は強いリーダーシップを解決策とすることに懐疑的だが、制空権を取れない中で連合艦隊が戦艦によるガダルカナル空港砲撃というイノベーティブな作戦を立てた際、実働の栗田艦長らは艦隊保存の立場から「合理的に」反対し、山本長官らが強引に押し切ったのではなかったか。ある組織において批判がタブー視される傾向があるとすれば、それが徒に意思決定を長引かせ、また批判の横行が組織風土に悪影響を与えるからでもある。

    そもそも、佐藤優がこの本を薦めていたのは組織の不条理さを教えるためだった。不条理さの由来は良く分かった。「完全に合理的な」解決策まで求めるのは酷というものか。

  • 経営戦略は軍事戦略を例にすることが多いですが、正にそれを生かした太平洋戦争時の日本陸軍の組織行動を分析されています。経営や経済の基本的な概念、日本陸軍の行動、実在企業の行動の3本柱でまとめられています。行動メリットという具体的なメッセージも繰り返し、説明され期待以上の良著です。

  • 内容は著者の「組織の経済学」と同様。完全な合理性が陥るわなと不完全な合理性こそが結果として合理的な結果を生むことを記述。沖縄戦からガタルカナル戦まで具体的に書かれていることと現代の企業例までかかれていることは分かりやすい。

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著者プロフィール

慶應義塾大学教授

「2016年 『組織の経済学入門〔改訂版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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