宮沢賢治全集 8 (ちくま文庫 み 1-8)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (686ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480020093

感想・レビュー・書評

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  • 鹿踊りのはじまり   宮沢賢治の童話の中で、大すきな作品のひとつ。                そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあいだから、夕日は赤くななめに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のようにゆれて光りました。……始めの一行めから、美しさに、ぞくぞくする。

  • 鹿踊りのはじまり。
    歌の構造が良い。太陽とはんの木の垂直軸から、すすきの原の水平軸へ広がり、太陽の照らさない影の領域へ広がり、さらに「すすきの底」の目の届かない世界に踏み入り、小さなうめばちそうを「愛どしおえどし」と愛でる。自然讃歌、全的な愛。「鹿踊りの、ほんとうの精神」に相応しい(笑)

    しかし「鹿踊り」の精神ならば、鹿の歌だけでなく、動きも意味を持たなくてはならない。おっかなびっくり、コミカルな動き、人間の残していった手拭という未知なるものへの働きかけ。それを克服したときに先の凱歌がある。冒険スピリット。これが「鹿踊りの、ほんとうの精神」だったのか!(笑)

    しかし目撃者嘉十の効果を考えるとそれだけではないように思う。嘉十は突然「鹿のことばがきこえ」るようになる。「嘉十はもうあんまりよく鹿を見ましたので、じぶんまでが鹿のような気がして、いまにもとに出さうとしましたが、じぶんの大きな手がすぐ眼にはひりましたので、やつぱりだめだとおもひながらまた息をこらしました」。だがとうとう飛び出してしまうと、鹿は驚いて逃げ出し、嘉十は苦笑いで手拭いを拾う。ここには、自然を愛し、同一化を望むが、それに挫折する人間が描かれている。動物のことばがわかるのはファンタジーの中だけだ。身体言語としての鹿踊りに切実な願いが込められているのだろうか。

    同一化の不可能性。だからこそ、衝撃なしに「ざあざあ吹いてゐた風が、だんだん人のことばにきこえ」るような超人的な語り手を導入して、嘉十の話を包み込んだのではないか。

  • 宮沢賢治の何がいいって、方言を隠したような古めかしい丁寧な言葉遣いだと勝手に決めている。癖になって何度も読み返したくなると思うのです。グスコーブドリの伝記は、悲しすぎるし、ベストがこれかっていうと迷うところはあるんだけど、卵形の頭、とかに憧れたし、途中は立志伝としても面白くて、好きは好きなので一応。「私よりもっと立派にもっと美しく、仕事をしたり笑ったりして行くのですから」きゅーん。ただの自己犠牲じゃない、というのはわかる。でも、でもなー釈然としないまま、でも好きな話です。そう言えば、アトムにも同じような話があったっけ。ちなみに安部公房の娘、ネリさんっていうんだけど、これからとったんだろうか。いいないいな。

  • グズコーブドリの日記

    ◎「自分の命を他の誰かのために捧げる若者の物語。「献身」とか「自己犠牲」という言葉で表される行動や心のありようが描かれている。
    ー2011年3月11日、東日本大震災が起きた。東京電力福島第一原発の事故で、放射性物質が広がった。原発の近くはとても危険だった。
    でも、被害を食い止めようと、そこにとどまった人たちがいた。空から、周りから、原発を冷やす水をかけ続けた人もいた。ブドリのような人たちだ。私たちはそうした行いを尊いと思い、その心を美しいと感じる。もし、大切な人があなたのために、またはみんなのために命を落としたら、あなたはどう受け止めるだろうか。そして、あなたはブドリになれるだろうか。」
    (『いつか君に出会ってほしい本』田村文著 の紹介より)

  • 米が穫れないなら、蕎麦を食べれば良い。
    と思いました。>グスコーブドリの伝記

    冷害による米の不作と、対策を提案している「グスコーブドリの伝記」
    この中で、米が穫れない間、蕎麦でしのぐブドリが描写されています。
    ふと、思ったのだけれど、蕎麦でしのげるなら、
    お父さんとお母さんが、子供に食料を遺して、森に行くのは不要だった。

    wikipediaの「やませ」の項目には、山脈に守られて安定的に米が穫れる会津地方とは対象的に、やませの直撃を受けるイーハトーブ地方は、米作に向かない旨がしるされています。
    少年ブドリは、先輩のアドバイスを受けて、米が穫れないあいだを、蕎麦を育てて生き延びています。
    「だったら、蕎麦で良いではないですか。」
    と僕は思うのですが、
    「米が穫れなければ負け」
    というような感覚が、どうやらあるようなのです。

    米にこだわるから、不作の年に餓死者が出る。

    宮沢賢治の趣旨とは異なると思うのですが、
    「グスコーブドリの伝記」
    を読んで、
    「穫れる作物を育てるのが、飢饉で死者を出さないコツだ」
    と思いました。
    変なこだわりを持たず、柔軟な態度で。

    そう言えば、上杉鷹山で有名な米沢では、垣根にヒョウ(プルピエ)を植えて、飢饉のときも死者を出さなかったそうです。

    それは、ともかく、本書は宮沢賢治生前に発表された物語を網羅しています。

    目次に載っている全作品に通し番号を付けて転記します。

    『注文の多い料理店』
    (1924年に「イーハトヴ童話集」全12巻の第一巻として刊行)
    1. 序
    2. どんぐりと山猫
    3. 狼森と笊森、盗森
    4. 注文の多い料理店
    5. 烏の北斗七星
    6. 水仙月の四日
    7. 山男の四月
    8. かしはばやしの夜
    9. 月夜のでんしんばしら
    10. 鹿踊りのはじまり


    11. 雪渡り
    (1921年に雑誌に発表された宮沢賢治のデビュー作です。)
    12. やまなし
    13.氷河鼠の毛皮
    14. シグナルとシグナレス
    (12.~14.は、1923年に新聞に掲載されました。)
    15. オツベルと象
    16. ざしき童子のはなし
    17. 猫の事務所
    (15.~17.は、1926年に雑誌に掲載されました。)
    18. 北守将軍と三人兄弟の医者
    (1931年に雑誌に掲載されました。)
    19. グスコーブドリの伝記
    (1932年に雑誌に掲載されました。)
    20. 朝に就いての童話的構図
    (1933年に雑誌に掲載されました。)
    生前発表初期断章
    (1917年~1918年に同人誌に発表)
    21. 「旅人のはなし」から
    22. 復活の前
    23.[峯や谷は]
    初期短編綴等
    24. 家長制度
    25. 秋田街道
    26. 沼森
    27. 柳沢
    28. 猫
    29. ラジュウムの雁
    30. 女
    31. うろこ雲
    32. 花椰菜
    33. あけがた
    34. 電車
    35. 床屋
    36. 図書館幻想
    37. 山地の稜
    「短編梗概」等
    38. 花壇工作
    39. 大礼服の例外的効果
    40. 泉ある家
    41. 十六日
    42. 竜と詩人
    43. 疑獄元兇
    手紙
    44. 手紙 一
    45. 手紙 二
    46. 手紙 三
    47. 手紙 四

    48. 飢餓陣営
    49. ポランの広場
    50. 植物医師
    51. 種山ヶ原の夜
    異稿
    52. 山男の四月[初期形]
    53. かしはばやしの夜[初期形]
    54. やまなし[初期形]
    55. 猫の事務所[初期形]
    56. 北守将軍と三人兄弟の医者[初期形]
    57. ゴスコンブドリの伝記[グスコーブドリの伝記 先駆形]
    58. 丹藤川[家長制度 先駆形]
    59. あけがた[初期形]
    60. 生産体操[飢餓陣営 先駆形]
    61. 植物医師[初演形]
    1. ~ 10. は、短編集「注文の多い料理店」をそのまま再現したものです。
    生前に出版された宮沢賢治の単行本は「注文の多い料理店」と詩集「春と修羅」(ちくま文庫宮沢賢治全集1に収録)二冊だけです。
    3. 狼森と笊森、盗森
    近代的な酪農に感激した宮沢賢治が小岩井牧場の森をモデルに記した物語です。いずれも、岩手県の自然が生き生きと描かれています。特に、雪の野原を行く少年を描いた
    6. 水仙月の四日

    9. 月夜のでんしんばしら
    など寒いであろうに屋外、自然がすがすがしく感じられました。
    「うちでゲームばかりしていないで、外で遊びなさい。」
    と、言われるよりは、僕はこんな楽しい自然の物語を聞きたいと思いました。
    12. やまなし
    クラムボンが出てきます。
    47. は、チュンセとポーセが出てくる小説です。
    ちくま文庫宮沢賢治全集〈5〉貝の火・よだかの星・カイロ団長ほか
    に収録されている
    チュンセ童子とポーセ童子が出てくる「双子の星」
    とは別の物語です。
    51. 種山ヶ原の夜
    は、ジブリの映画
    種山ヶ原の夜(男鹿和雄監督2006年)
    の原作でもあります。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/745819

  • 注文の多い料理店9編、生前発表短編童話、初期短編、短編等梗概(梗概といっても、小説みたい)、手紙(これも小説みたい)、劇、異稿、そして天沢退二郎の本文説明(異稿の有無や発表時期・媒体等)と内容解説。
    お話は70編ぐらいあるかな。

    やはりオツベルと象のラスト「おや、■、川へはひつちやいけないつたら。」の意味が謎。
    「注文の多い料理店」菊池武雄による九編の扉と挿画が湿度のある怪しい雰囲気満点。

  • 2017.04.01 千年読書会課題図書『グスコーブドリの伝記』

  • 参考にしてはいけない作家ランキング第1位は、なんと言っても宮沢賢治だ。(というか、参考にしようと思っても普通はできない・・・・・・)
    『注文の多い料理店』のような「日本ばなれした童話っぽさ」は、モチーフや言葉づかいだけでなく、書く部分と書かない部分の取捨選択によっても、ずいぶんクオリティが変わってしまう。ただ、どういう基準で書いているのか、読んだだけでは分からない。
    『オツベルと象』の「グララアガア」が素晴らしいのは言うまでもなく、最後の1文を書ける神経などは、書き手として嫉妬してしまう。まるで2人目の人間がつけ足したかのようで、作品との距離をどう取っていたのか、まるで理解できない。
    分析しようとすればするほど、泥沼にはまっていきそうなので、とりあえずいまは保留しておく。

  • 序文がめっちゃいい。

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著者プロフィール

1896年(明治29年)岩手県生まれの詩人、童話作家。花巻農学校の教師をするかたわら、1924年(大正13年)詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』を出版するが、生前は理解されることがなかった。また、生涯を通して熱心な仏教の信者でもあった。他に『オツベルと象』『グスグープドリの伝記』『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』『セロ弾きのゴーシュ』など、たくさんの童話を書いた。

「2021年 『版画絵本 宮沢賢治 全6巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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