南ヴェトナム戦争従軍記 全 (ちくま文庫 お 14-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (585ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480023858

感想・レビュー・書評

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  • ベトナム戦争に従軍した事が書かれている……と思って読んだのだが、まずベトナム戦争の概要が全く見えない。失敗したかもしれないと思ってしまった。私の中のベトナム戦争はアメリカとロシアの代理戦争という程度しか知識がなく、何がどうなっていたのかの知識が一切ないので、説明もなしにいきなりクーデターが起こったり、弾圧が起こったりしていても何が何か理解が出来ない。

    というわけで、概要をざっとでも頭に入ってないと、なぜこうなっているのかが分からない。
    とにかく、『アメリカ軍に従軍したカメラマン』という事はわかるが、何故アメリカが闘っていて何がアメリカにとっての敵なのかが一切分からないまま戦争の真っただ中のカメラマンに付き合わされる。

    エピソードとしてはそこまで破綻してないので読めるが、それも次のエピソードになるといきなり話が飛んでいて、何がどうしてこうなってるのかが、分からず置いてきぼりにされる。



    最初は恋人とのノロケ話が多いので、おいおい……と思ってしまう。



    それでも、戦争の残酷さというものは伝わってくる。
    唐突に人が殺される。死が身近にある恐怖。
    拷問され凌辱される女性たちの怒りと虚しさ。
    唐突に子供を亡くす親の悲しみ。

    人々の生活と政治の弾圧が書かれている。

    そして、優しいと思っていた人たちが戦争の真っただ中の頃される恐怖でただの農民すらゲリラに見え、「殺そう」としてしまう。または、拷問して情報を得ようとする残酷さ。
    人間性を破壊してしまうのが戦争なのだ……と書かれていたが、まさしくそれが書かれている。



    この本、ウクライナの戦争前に選んで読もうとしていたところで、戦争が起きた。読みにくかったのと、図書館の本を優先して読んでいたので、時間がかかった。
    けれど、ウクライナのニュースと重なる部分が多く書かれていて、この本に書かれている事の大半があの画面の向こうで行われているのかもしれないと思うと欝々とした気分にもなった。



    戦争で失うのは命ではなくて、『人間性』
    誰もが自由な発言を許され、誰も殺す必要も傷つける必要もなく、誰にも殺される恐怖がない平和が全て消え去る。

    韓国の話も書かれていたけれども、唐突にエピソードが割り込んでくるので最初はよく分からなかった。たぶん、『取材した事を順番に書いた結果』なのかな……としか。所々説明不足なのが困る。



    白黒の写真と合わせて取材の様子が雑に書かれているのは、カメラマンだから文章を書く人ではないという事なのかなと思う。それでも、読んでみて良かったと思えた。リアルな戦争の断片が分かる。
    そうは言っても平和な現代日本にいる私にはうっすらとしか分からないのかもしれないケド、戦争だけは経験して理解するよりも想像で理解したい。

    現実味がなくても、『戦争は嫌だ』と平和な世界で言いたい。

  • 解説:上野英信

  • ◆政府側の従軍カメラマンとしてベトナム戦争に帯同し、さらに反政府側とも接触を図らんとした戦場体験録。死と隣り合わせの現実が、文章の未熟さを補って余りある迫力に結実した点に、感嘆するはずだ◆

    1990年(底本1965年及び66年)刊行。文庫版は、同名の新書と「続編」の新書とを合本したものである。
    著者はPANA通信社の契約カメラマン。戦場カメラマンと言うに相応しい存在だ。

     そもそもヴェトナム戦争は非常に長期間続いた戦乱であったが、著者は戦場カメラマンとして、南ヴェトナム政府軍に参画し、さらに、それのみならず、解放戦線にも潜り込み、その上層部を取材しようとして、捕虜収容所に収監された経歴を持つ。

     本書にある取材の実情としては、例えば、傍にいた14歳くらいの少年兵が自動小銃で射殺される、あるいは自らベトコンの仕掛けた竹槍の罠にかかり負傷する場面を目撃するというものであって、「身体を張った」という言葉ですら到底及びもつかぬ状況を窺い知れる。
     もともとカメラマンが本職なので、記事の整理、叙述の運びには拙さがあるし、それはやや仕方がないかなとは思うところではあるが、現実に戦場を体験した者にしか語れない力が、その問題点を遥かに凌駕している。

     しかし、凄い。北や解放戦線に自由に入れたであろう「赤旗」が現地取材班を設けなかったことに対し、怒りとも揶揄ともとれる発言をしているが、それは十分納得の指摘である。

     過日のNHK-BS「国際報道2018」で、ベトナムで最近生まれる子供たちにも残る枯葉剤の影響というルポがあったことに触発された本書。
     枯葉剤の問題はここではあまり言及されない。が、本書自体から伺えるものが、そのテレビ報道で示されたものを超える何かであったことは確かである。

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