一神教の闇: アニミズムの復権 (ちくま新書 630)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480063311

作品紹介・あらすじ

人類は今、環境破壊と軍事紛争という二つの大きな課題に直面している。それはいずれも、一神教的世界観に支えられた畑作牧畜民によって引き起こされたものだった。彼らの文明のエートスである拡大への志向が、激しい自然破壊を引き起こした。同時に、家畜をコントロールするためには力が必要であり、その力の行使を正当化するために、超越的思考は畑作牧畜文明を形而上学的・倫理的にサポートすることになった。それに対して稲作漁撈文明は持続を重視し、江戸社会に見られる高度な環境調和型文化を築いてきた。そうした発想がどのように形作られてきたかを文明興亡史のなかに探り、環境考古学の立場から検証する。

感想・レビュー・書評

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  • 「悲しみを抱いて」生きていく
    興味を引いたタイトルに反して結論が謎

  • 30年近く前、著者は「環境考古学」という分野を提唱し確立してこられました。その後、アニミズムという考え方に興味を持ち、一神教としてのキリスト教に対抗するようになってこられました。そのためか、特に西洋の研究者からはかなり反感をかったとあとがきに書かれています。最初の章では政治の話から認知科学・生命科学・宇宙論とどこまで話が広がるのかとちょっと心配になりましたが、2章目からはしっかりと日本人の心に残る「アニミズム」という考え方が語られています。八百万の神、森全体をまつる、木一本、石一個をまつる、あらゆるものの中に神を見出す、そんな心があったからこそ、日本にはいまだにたくさんの森が残っているのでしょう。ところがお隣の中国ではいま大変な状況になっているようです。春に西から大量に飛んでくる黄砂も、中国における環境破壊が原因のようです。水の汚れ方も大変なのだそうです。著者はこのアニミズムの考え方を日本やインド、さらには中国とその近隣の国を巻き込んで、世界へ広めようと考えています。そして、そこから環境を守る動きをつくろうと考えています。しかし、これだけ便利になり、科学技術に頼りっきりの現代人が、昔ながらの暮らしにはもどれそうにありません。そこで、新しい技術の開発に注目されています。たとえば昆虫のからだの仕組みを新しい技術として利用できないか研究が進んでいるのだそうです。こういう点については、いずれ別の著書でもっとくわしく語られることでしょう。とても興味深いテーマです。著者は現在(当時)、京都の西山にある日文研(国際日本文化研究センター)の研究者ですが、その近くに京大工学部が移転。さらに、市立芸大も近くにある。そこでいま始まったばかりの学際的な研究に注目したいと思います。

  • 一神教批判の書である。日本は明治以降、西洋文明の恩恵を受けることで経済的・学問的な発展を遂げてきた。その恩を返す意味でも東洋から西洋文明を捉え直す作業が必要だ。なかんずく歴史・思想・宗教の次元で西洋文化を再構築するべきだ。多様性が叫ばれながらも世界を支配するのは一神教の論理である。日本国内でごちゃごちゃやるよりも欧米を向いたメッセージの発信が求められる。
    http://sessendo.blogspot.jp/2014/05/blog-post_11.html

  • 安田喜憲の本を読みたいと思って、本を依頼した。
    手順が違って、最初に届いたのが、あやしげな題名である
    『一神教の闇』だった。
    安田喜憲の力の入った、アジテーションだった。
    副題に『アニミズムの復権』と書いてあったが、
    副題がこの本のテーマであったのだ。
    もっといえば、アニミズム・ルネッサンスといえばいいのかもしれない。
    砂漠から生まれた、超越的秩序の宗教は、文明の激突を起こした。
    超越的秩序は、テロリズムと戦争を引き起こし、環境破壊をしている。
    『力と闘争の文明』は、多くの人を死に追いやり、自然を破壊し、森を破壊し、水を汚すこととなった。
    歴史的に見ても、キリスト教の名のもとに魔女狩りという理不尽なことが、
    なされた。気候変動さえ、魔女の責任にされた。

    アメリカは常に仮想の敵をつくり、ハンチントンの罠に陥っている。
    アフガン、イラクにおいても、正義を振りかざしても、
    結局は石油の利権が欲しかっただけだ。
    超越的秩序の宗教が、優れており、その他の宗教は未開の遅れたものだと、
    考えられたのである。
    森と自然から、生まれたアニミズムは、猥雑で野蛮とされた。

    アニミズムは、中国をはじめとした文化の基層にあり、
    アジア、日本そして、マヤ文明、アンデス文明に広がる。
    日本をみれば、美と慈悲の生命文明を発達させている。
    日本は、地震という災害にあっても、礼節を尽くし、
    哀しみを抱きしめて生きている。
    アメリカでのハリケーン災害での掠奪と暴動を起こすのとは違う。

    アニミズムルネッサンスは、自然からまなび、伝統技術から学ぶ。
    いまこそ、アニミズムの復権がいると安田喜憲は、叫ぶのである。

  •  キリスト教・イスラム教の抱える問題点を筆者なりに暴き立て、かつ日本を始めとする、古来から伝わるアニミズムを全世界に広めることの重要性を綴った本。
     宗教と哲学を取り扱っているという事もあり、抽象的な物言いや、正直「これはあなたの願望に近いんじゃないの?」と言いたくなるような論述がいくつかあったが、心のどこかで「キリスト教は神聖なもの」という考えを抱いていた自分にとって良い刺激となった本であった。

     第一章ではアジア諸国の文明と欧米諸国の文明の違いの説明である。
     キリスト教・イスラム教を「超越的秩序」、日本を含むアジアが信仰する教えを「現世的秩序」として、従来は後者は前者よりも劣っていると学会ではみなしているが、その高慢な考えこそが世界に災い(戦争・テロ・環境破壊など)をもたらしているのであり、今こそ自分たちが栄えるために環境を破壊する「畑作牧畜文明」から、自然との調和を重んじる「稲作漁撈文明」へと目を向けるべきではないか、というのが私なりの要約である。
     「ヤスパースの「枢軸文明論」は西洋文明の拡大と優位を擁護し、ハンチントンの「気候と文明」は侵略戦争を正当化するための道具となった。彼らは理想の国をつくるために仮想敵を作って戦おうとする上、神の国の実現のためには人の命をも犠牲にしようとする」、「幻想や空想から生まれた超越的秩序は、社会や人間の要請に合わなくなったら見捨てられる。その代表が共産主義だ」という筆者の考えは、あながち間違いでもないと思うが、やはり断言は出来ないと思う。
     

    自分用キーワード
    S・N・アイゼンシュタット『日本比較文明論的考察』 カール・ヤスパース『歴史の起源と目標』 伊東俊太郎『比較文明』 S・ハンチントン『文明の衝突説(ハンチントンの罠)』 川勝平太・安田喜憲『敵を作る文明 和をなす文明』 大神(おおみわ)神社 竹内信夫『空海入門 弘仁のモダニスト』 大橋力『音と文明』 

  • ――――――――――――――――――――――――――――――○
    熱帯のバリ島の人々は元来、裸で暮らすのが生理的にも快適であった。しかしイスラム教の布教によって、裸身を人前にさらすことが禁止され、酷暑の日中でも服をまとわなければならなくなった。超越的秩序がもたらした宗教は、人々の日常生活をも根底から変えようとしている。99
    ――――――――――――――――――――――――――――――○
    このまま環境問題が進行すれば、中国はこれまで以上に住みにくい汚染された大地となる。すると中国人は、その汚染された大地をさっさと捨てる可能性もある。(…)日本が、砂塵が舞い、万人が万人を疑う中国よりはるかに暮らしやすい国であるからである。中国人はどこが暮らしやすいかをよく知っている。146
    ――――――――――――――――――――――――――――――○

  • 本当は書名とサブタイトルをひっくり返したかったのではないか。
    でも確かにその書名では異様。

    西洋キリスト教はじめとする超越的秩序を信仰する人々は、人間至上の力で自然を壊して拡大を続けてきた。
    対して縄文時代古来の日本のアニミズムなら、いきとしいける生命すべてに慈悲と畏敬の念をもった「生命文明」を築ける。
    地球規模で様々なひずみが表面化しつつある現代こそ、アニミズム復権を!
    と説く。

    その主張には一面賛同できる。
    でも、環境問題はじめ人間社会の抱えるほとんどの問題の根源を「一神教」に帰し、「アニミズムを捨てたからだ!」といきまくさまは、冒頭からまえのめり。
    あまりにも薄弱な根拠しかない具体例を列挙したり、同じフレーズ連発で話が飛び飛びだったり、最後は自分たちの活動の主張が強すぎて、興ざめだった。
    「アミニズム復権」の必要性は説いたとしても、具体的にだれがなにをすればよいのかも見えてこない。

    もっとテーマしぼって、じっくり編集した方が説得力でたと思う。

  • [ 内容 ]
    人類は今、環境破壊と軍事紛争という二つの大きな課題に直面している。
    それはいずれも、一神教的世界観に支えられた畑作牧畜民によって引き起こされたものだった。
    彼らの文明のエートスである拡大への志向が、激しい自然破壊を引き起こした。
    同時に、家畜をコントロールするためには力が必要であり、その力の行使を正当化するために、超越的思考は畑作牧畜文明を形而上学的・倫理的にサポートすることになった。
    それに対して稲作漁撈文明は持続を重視し、江戸社会に見られる高度な環境調和型文化を築いてきた。
    そうした発想がどのように形作られてきたかを文明興亡史のなかに探り、環境考古学の立場から検証する。

    [ 目次 ]
    第1章 畑作牧畜文明から稲作漁撈文明へ
    第2章 アニミズム・ルネッサンスと女性原理の復権
    第3章 水利共同体が創った紛争回避メカニズム
    第4章 文明史から見た日本とインド
    第5章 環太平洋のアニミズム連合
    第6章 江戸時代が築いた環境調和型文化
    第7章 ハイテク・アニミズム国家の構築

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    [ おすすめ度 ]

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    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
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    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 著者の、アニミズム復興論の原典ともいうべき本だいう。著者の一神教批判は手厳しい。一神教同士の対立(キリスト教とイスラム教など)を見れば分かるように、一神教がかかえる闇が、人類を終末の世界へと導こうとしているという。だからこそ、多神教、アニミズムの世界に生きる日本人にとって、アニミズムの研究は、人類の生き残りをかけた重要な課題だという。

    この美しい森と水を守るアニミズムの自然観と世界観こそが、日本人の低力である。一神教を基盤とした「力と闘争の文明」に替わる「美と慈悲の文明」(多神教的文明)が、人類の文明史の潮流を変えていかなければならない。「森と水の美しい地球」を創造し、「生命の文明」の時代を構築していかなければならない。そのためにこそ、アニミズム・ルネッサンスが求められているというのが著者の主張だ。

    主張の大枠の意味は分かるのだが、アニミズムという言葉で著者が具体的にどのような信仰(信心)のあり方を示しているのかが語られていないので、全体として説得力が乏しいと感じた。まさか、原始的なアニミズムの信仰そのものに戻ろうということではないだろう。アニミズムを復権するというが、原始のままのアニミズムを復権するということか、現代人にとって必要なアニミズムのエッセンスを復権しようとすることなのか、だとすればそのエッセンスとは何か。そうした大切ことがほとんど考察されていない。

    確かにアニミズムの中には、現代人が忘れてしまった大切な心のあり方が隠されているに違いない。それは確かだろう。現代人が学び、復権すべきは、アニミズムの中のどのような面なのか。またそれを復権するためには、どのような方法とプロセスが求められるのか、そのあたりの具体的な提示がないから、読後に説得力のなさを感じずにおれないのだろう。

    細部では、興味深い情報も多いが、全体として主張が上滑りしていると感じた。

  • 本書は、一神教を「唯一の神を絶対の存在とする超越的秩序の宗教」であり、理想を追求するためには手段を選ばぬ「力と闘争の文明」を築いた宗教であるとし、一方、現世をあるがままに肯定する「現世的秩序の宗教」であるアメニズムは自然を大切にし「美と慈悲の文明」を築くものであると定義している。そして、古来アメニズムを弾圧してきた一神教の思想が宗教対立による国家間の紛争を激化させ、地球環境を破壊させている現在、日本人は他のアメニズム文明の人々と協力して持続型文明社会の構築に取り組もうと訴えている。

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著者プロフィール

安田喜憲(やすだ・よしのり) 1946年、三重県生まれ。環境考古学者、理学博士。東北大学大学院特任教授、国際日本文化研究センター名誉教授。ふじのくに地球環境史ミュージアム館長を務める。

「2019年 『水の恵みと生命文明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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