宗教学の名著30 (ちくま新書 744)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480064424

作品紹介・あらすじ

宗教の歴史は長いが、宗教学は近代になって経験科学の発達を背景としてヨーロッパで誕生した比較的歴史の短い学問である。近代人は宗教に距離を取りながらも、人類が宗教を必要としてきたゆえんを直観的に理解し、時に知的反省を加えてきた。宗教学の知は西欧的近代学知の限界を見定めて、芸術・文学・語りや民衆文化の方へと開かれようとする脱領域的な知ともいえる。本書は古今東西の知から宗教理解、理論の諸成果を取り上げ、現代を生きる私たちにとっての「宗教」の意味を考える視点を養う決定版ブックガイドである。

感想・レビュー・書評

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  • デパ地下の試食コーナー巡り的です。
    後程、政治思想史を学ぶ上でも有益です。

    ①宗教学の先駆け
    空海『三教指帰』―比較の眼差し
    イブン = ハルドゥーン『歴史序説』―文明を相対化する
    富永仲基『翁の文』―宗教言説の動機を読む
    ヒューム『宗教の自然史』―理性の限界と人間性

    ②彼岸の知から此岸の知へ
    ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』―形而上学の解体の後に
    カント『たんなる理性の限界内の宗教』―倫理の彼方の宗教
    シュライエルマッハー『宗教論』―宗教に固有な領域
    ニーチェ『道徳の系譜』―宗教批判と近代批判

    ③近代の危機と道徳の源泉
    フレイザー『金枝篇』―王殺しと神殺し
    ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』―宗教の自己解体
    フロイト『トーテムとタブー』―父殺しと喪の仕事
    デュルケム『宗教生活の原初形態』―宗教は社会の源泉

    ④宗教経験と自己の再定位
    ジェイムズ『宗教的経験の諸相』―「病める魂」が開示するもの
    姉崎正治『法華経の行者 日蓮』―神秘思想と宗教史叙述の地平融合
    ブーバー『我と汝』―宗教の根底の他者・対話
    フィンガレット『論語は問いかける』―聖なるものとしての礼・儀礼

    ⑤宗教的なものの広がり。
    柳田国男『桃太郎の誕生』―説話から固有信仰を見抜く
    ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』―遊びの創造性と宗教
    エリアーデ『宗教学概論』 有限が無限に変容する時
    五来重『高野聖』―唱導と勧進の仏教史

    ⑥生の形としての宗教
    ニーバー『アメリカ型キリスト教の社会的起源』―持たざる者の教会
    レーナルト『ド・カモ』―神話的な生の形
    エリクソン『幼児期と社会』 母子関係と自立の試練
    ショーレム『ユダヤ神秘主義』―神話的経験の再活性化
    井筒俊彦『コーランを読む』―言語表現からの実存解釈

    ⑦ニヒリズムを超えて
    ヤスパース『哲学入門』―実存・限界状況・軸の時代
    バタイユ『呪われた部分』―消尽と無による解放
    ジラール『暴力と聖なるもの』―模倣の欲望から差異創出へ
    湯浅泰雄『身体論』―修行が開く高次システム
    バフチン『ドストエフスキーの詩学の諸問題』―多元性を祝福する

  • 日本の宗教学は島薗先生を抜きにして語ることはできないでしょう。そんな大家が味わう30冊。
    大学院入学後の資料収集に役立つかな、と思い読みましたが、読んでいてなかなか難解。歴史・文学・哲学…そういったところに精通していなければ、なぜ島薗先生がこの30冊をこれほどの熱量で語っているのかがわからないような1冊でした。
    この辺りの基礎教養を身につけた上で、いつか再トライしてみたいです。

    それはそうと、心理学関係の学者も多々紹介されており、やはり心理学と宗教には強い結びつきがあるのだなあ、と心理学部生としては思うところです。

  • 宗教学は宗教を人間の事柄として考察する。
    宗教の考察をし、実深い人間理解や人間の生き方に到達することを目指すもの

    富永仲基「翁の文」…「誠の道」は理を超えたものではなく、今の掟を守り、今の時代に良いことをする当たり前の理だ。

    ヒューム「宗教の自然史」…理性優位の一神教が感性優位の多神教より優れている、という19世紀の価値観に待ったをかけ、両者を対等に見ている
    一神教は実は情緒的な欲求(強いものに頼ろうとする気持ち)を持ち、寛容と言われている多神教においても、道徳を遠ざける傾向がある。

    ラヴジョイ「存在の大いなる連鎖」…神をあの世やイデア界の完全無欠の存在とみなす論に異議を唱え、宗教をイデア界や宇宙の事柄ではなく、人間の事柄として説いた

    カント「たんなる理性の限界内の宗教」…人間は善を目指しつつ悪に陥らざるをえない、道徳原理(善)は個々人にとって義務として出現するが、単なる善も最高善に向かって方向付けられなければならず、最高善の完成のためには神の実在の信仰が必要だ。

    シュライエルマッハー「宗教論」…宗教の本質とは直観であり感情、宗教の本質とは思惟することでも行動することでもない、子供のようにものを受け入れる態度で、宇宙に充たされること
    体系を求める要求は、異質なものを排し、まとまりを破壊する
    宗教は人間生活に固有な領域をもつが、それは個人の心の中にある
    あるがままの直観と感情を受け入れる→多様な宗教の共存を認めた

    ウェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」…宗教は近代化を促進する

  • キリスト教、仏教、イスラム教に興味があり、入門書等を読んでいたが、そもそも宗教とは、どういうものかに興味があり、入門のガイドとして本書を読んだが、自分には敷居が高かった。著者によると宗教学自体が新しい学問で、哲学、社会学、心理学、文芸等の様々な分野から考察されうるもののようである。自分にそれらの分野の素養がないだけにここで紹介されてる名著を読む前にそれらの基礎的知識が必要であることを痛感した。

  • 私にはまだ早かったかな...全体的に難しい.
    ただ,文章の端々に著者の強い思いが感じられ,原著に当たりたい気持ちになる.
    「コーランを読む」が気になった.でも,原著はハードルが高い.

  • 近代以前には離れがたく密接だった宗教(特にキリスト教)と形而上学の関係が次第に分離していく経緯が1〜3章に書かれており、これが面白かった。哲学者であるカントやニーチェが本書で取り上げられるのは意外であったが、その訳を知って興奮を感じた。本書には他にも社会学者や思想家、文学評論家などが取り上げられており、宗教というものの人間との関わりの広さと深さに想いを馳せることができる。

    個人的にひときわ興味深いと思ったのはブーバーで、ブーバーに影響を受けたというバフチンも非常に気になる。ジェイムズとエリアーデも読めたら読んでみたい。

  • 無神論者が「先進諸国」を支配したかのような情勢だが、それは仮の姿である。幕をあげれば、神仏精霊が語られない日は1日として存在しない。イスラム国しかり、年中行事しかり、冠婚葬祭しかり、映画や文学作品しかり、漫画やアニメしかり。ありとあらゆる場に宗教は躍動する。それを否定しようとしまいと、人は真に宗教を無に帰すことはできない。なぜなら、デュルケムに言わせれば、神は社会それ自体であるからである(ということになるようだ)。(はてこの解釈でよいものだろうか、原著にあたる必要はある。)
    宗教、ないし信仰とはなにか。これは人間の持つ根源的な問いのひとつなのか。それは人間とはなにかと問うことに近い。宗教学とはすなわち、人間学であると言えるかもしれない。実際、本書に選出された30の著作の多くは、社会学・心理学・歴史学・民俗学・文化人類学・哲学等々の名著にも数えられる。これはすなわち、知性がいかに宗教と闘ってきたのかを示す。解きえぬ謎なのであり、そうであればこそ、新たな理論を育む肥沃な土壌でもあるのだろう。

    さて本書を読んでの感想だが、豊作を期待できる未開の地に読者を誘う試みに感謝すると同時に、全体としてとりとめのない感を覚えずにはいられなかった。自分で学べよ横着するなとは思うが、30ではなく10くらいでとどめてもと思わずにはいられない。解説をいただいておいてなんとも申しあげづらいが、素直な意見としては以上だ。

    諸著を比較して読んでいたわけではないし、原著を読まずして比較すべきではないが、やはりウェーバーの理論には抗いがたい魅力を感じた。人類の歴史は、超越者やその世界を想うこととともにある。絶対的な他者とひとつになることへの不可能な願い。しかし、近代はその願いを自ら消滅させることに目覚める。醒めた近代人は、しかし残念なことに、醒めれば醒めるほどに、宗教や信仰と人の分かちがたい緒を露呈させる。わたしたちは宗教を否定して、それでどんな未来を描こうというのか。近代の偉大なる虚無を、ウェーバーはいち早く指摘する。

    ・・・文化発展の最後に現われる「未人たち」》letzte Menschen《にとっては、次の言葉が真理となるのではないか。「精神のない専門人、心情のない享楽人。この無いもの(ニヒツ)は、人間性のかつて達したことのない段階にまですでに登りつめた、と自惚れるだろう」と。

    また、彼の提唱したありえるはずのない世界像ー「プロテスタンティズム」が「資本主義」を生むーは、今なお鮮明な色彩を失っていない。批判はいくらでも可能だが、彼の織りなす理論は傑出して独創的である。原著に一度挫折しているため、今一度挑戦したい。

  • 本の選択眼は確か。それぞれの紹介は浅いが、名著の可能性、限界を示した点は参考になる。今後、各書を読みたくはなった。

  • とにかく難しい。また私のレベルではここに書かれている本は無理だ。

  • 特に印象に残ったのはヒューム「宗教の自然史」、カント「たんなる理性の限界内の宗教」、Mウェーバー「プロ倫」、デュルケム「宗教生活の原初形態」などの紹介です。きわめて難解なカントなどもこの著者の要約により理解できたように感じました。ヒュームの一神教と多神教の振り子理論、カントの理性に重点を置きつつもキリスト教を弁証しようとする親近感、再呪術化また癒しと安らぎを求めるようになった現代社会を予想できなかったウェーバーの読書人的限界など、目から鱗が落ちる心境でした。

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著者プロフィール

島薗進(しまぞの・すすむ) NPO東京自由大学学長、大正大学客員教授、上智大学グリーフケア研究所客員所員。著書に『現代救済宗教論』『現代宗教の可能性』『スピリチュアリティの興隆』『日本仏教の社会倫理』『明治大帝の誕生』『新宗教を問う』ほか多数。

「2023年 『みんなの宗教2世問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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