平和構築入門: その思想と方法を問いなおす (ちくま新書 1033)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067418

感想・レビュー・書評

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  • 少なからず、平和、人権、人道の問題を学び、考えてきた自分にとって、著者が鋭く問いなおした内容は、まさに目から鱗であった。

    善きことをなそうとして、悪き結果にいたる。

    日本という特殊なメディア、思想環境にいることを自覚しなければ。

    ・P29:2012年の武力紛争一覧
    ・2008年、国連PKOは「中立性」ではなく、「公平性」を活動原則とすることを謳いあげた。
    ・戦争とは今現実に起こっているもののことだ、という理解は、第二次大戦以降の日本人には慣れない考え方だ。現代国際社会の標準である、国際人道法は、現実に戦争は存在する、という認識を出発としながら、戦争状態においてもなお「法の支配」を貫徹させる考え方を貫こうとする。
    ・戦後の日本人は、戦争を否定することが平和への道であると信じてきた。しかし、それは、国際人道法の考え方と必ずしも全く同じでない。
    ・今日の国際平和活動は、単に和平合意の維持を目的に中立的に振る舞うのではなく、より積極的に法規範の遵守を求めて活動を進めていく性格を持つ。それは全て国際人道法などの規範を広げるための法執行活動なのだと特徴づけることができる。
    ・むしろICCなどが被疑者の拘束などについて必ずしも目立った実績をあげていないことを考えれば、司法制度外の法執行活動が持つ意味は大きい。
    ・人道援助が害を与えるパターンとしては、援助物資の盗難を許して武装勢力に利益提供すること、大量の援助物資で地場経済を歪曲させること、分配がもたらす現地集団の関係に悪影響を及ぼすこと、援助依存を作り出して現地政府の無責任体質を助長すること、不適切な現地勢力の援助活動と結託して実態として不正行為を正当化してしまうことなどがあげられる。

  • 本の厚さは一般的な新書程度。でも、文字数と内容はしっかりとつまっています。
    「世界が平和になればいいな」と常々思っていた僕は、タイトルにひかれて購入しました。
    正直な感想を言うと「こんなの、僕の知っている平和じゃな~~い!」
    でも、すっごく良い本です。
    僕は人道支援と平和構築をイコールと考えていたようです。
    実際の人道支援と平和構築は、同調しづらい両輪のようなものかもしれない。この本は僕の頭に、考える種をたくさん植えてくれました(^^)b

  • 平和構築って日本のためにどんな意味があるんだっけ? という問から出発し、政治・法律(法の支配)・経済(開発)・人道支援など様々な切り口から平和構築とは具体的に何で、何のためにやっているのかを解説していく本。
    誰もが当然であるかのように受け止めている国際社会というシステムが未熟なものであって、それを守るために必要な取り組みの1つとして平和構築を位置づけていることがとても腑に落ちる説明であった。だからこそ、現在の平和構築業界の中でSSRやDDRという話も出てくるし、法の支配という話も出てくるのだと。

  • 開発目標16:平和と公正をすべての人に
    摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99551286

  • 平和構築について、様々な観点から学んだ。それぞれの方法には良い面も悪い面もあるから、しっかりと考えることの重要性を再認識した。

  • 【概略】
     「平和」とは、一体なんなのだろうか?どういったものを「平和」と指すのだろうか?そもそも「平和」とは、自然発生的に誕生するものだろうか?それとも、二次的に獲得するものだろうか?本書では、「平和は構築するもの」という前提にたって、「主権国家」「武力介入」「犯罪処罰」「開発援助」「人命救助」という観点より平和構築の可能性を探ったものである。

    2019年04月25日 読了
    【書評】
     まず☆2は、決して本書のせいじゃない。読み手の側の問題。冷戦以降の各地域の紛争と、それに対しての国連を中心とした諸外国の関与について、知識不足がかなり読み進むことに対しての影響、あった。そのために、入り込む(または、入り込み続ける)こと自体にかなり意識が集中してしまった。うぅ。
     そんな中でも、非常に面白いなぁと思った考えが何個か。たとえば「私たちは(おそらくはこの本の狙いとしてはこの「私たち」は「日本人」だと思う)、国際社会というものは一度完全に成立していて、突発的かつ部分的にほころびを見せるのが地域紛争だととらえがち。しかし実際は、一度たりとも国際社会は完全なものになったことはない」という表現。そうなんだよね。まだまだ道の途中・・・ってのは、凄くわかる。
     また日本人の「戦争」に対するイメージへの言及も、興味深かったなぁ。戦争を、大空襲・大虐殺・総力戦、片方の国家が消滅するのでは?というイメージを持つ人、多いと思う。また、戦争になった途端、法規範などがなくなる、なんて考える人もいると思う。治安維持法だとかの影響かな、これは。じゃあ、平時の時から有事について語って、有事の際の法整備など、考えたらいいのに、それすらシャットアウトしてしまう傾向、あるからなぁ。そもそも、この書評自体だって、危険と思っちゃう人、いるんじゃない?(笑)
     勉強不足だったが故に、国連の平和維持活動の変遷などは、「へぇ~」という状態だった。本書では「中立」から「公平」に、なんて書き方されてたけど、初期は、本当に中立性を保つべく、積極的な武力介入してなかったのが、時が経つにつれ、軍事なイメージというより警察なイメージで、積極的に関与してるものね。
     大虐殺などなくても、戦争(地域紛争も含むよ)が起きたら、人の命は奪われるんだ!・・・ってのは、まさしくその通りなのだけど、起きてしまった紛争の火を消すのにも、誰かの命は奪われる。勿論、自分の命は大事だけれど、そこで思考停止しても、誰かの命は奪われてる訳だ。
     戦争は他の手段による政治の継続にすぎない、なんて言われてたのが、最近は国家だけじゃなくテロリストにも適用されるようになってきた。完全な国際社会・・・全くできてないよねぇ(涙)
     そして、平和に関する本・・・冊数を重ねれば重ねるほど・・・迷路に迷い込んだ感覚、あるなぁ(笑)

  • 【由来】
    ・図書館の新書アラート

    【期待したもの】
    ・MGSolidとつながる何かを感じた

    【要約】


    【ノート】

  •  私たちは、地域紛争について考える際に、一度完全なものとして成立した国際社会が、突発的かつ部分的にほころびを見せるのが地域的な武力紛争である、と考えてしまいがちである。しかし実際の事情は、むしろ逆である。そもそも、国際社会は、一度たりとも完全なものになったことはない。完全無欠であった国際社会に、たまたま能力的に劣った人々が住む場所で、突発的かつ地域的に脆弱性が生まれたわけではない。異質で適合しきれていない構成要素を抱え込みながら何とか成立したことになったのが現状の普遍的国際社会である。そのため、現在もなお、国際社会は異質で適合しきれていない構成要素を抱えているのである。(pp.33-34)

     国際人道法は、現実に戦争は存在する、という認識を出発点としながら、戦争状態においてもなお「法の支配」を貫徹させる考え方を貫こうとするのが、国際人道法の考え方であり、現代国際社会の標準的な考え方である。戦争はしたくない、しかし起こってしまったら世界の終わりだ、起こった後では法律だろうが何も存在しないのと同じだ、という発想は、国際社会で活躍する者が採用する発想ではない。常に戦争が起こっているのが現実の世界であり、その状況の中で何ができるのかを考えるのが、国際社会に生きるということである。(p.140)

  • 世界は決して完璧ではない

  • 今日の世界で紛争多発地域となっているのは20世紀の普遍的国際社会が形成される過程においてうまれた新興独立諸国がひしめき合う地域である。
    治安維持、安全保障の領域に平和構築活動の介入が発生するのは、理論的に言えば、国家が社会契約論によって求めらえる一人ひとりの市民を守る機能を十分に発揮していない状態においてである。
    戦争を政治の一部と考えることは、ある意味では軍事力の行使に政治的な合理性をかけることにつながる。

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著者プロフィール

1968年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。同大大学院政治学研究科修士課程修了。ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)博士課程修了、Ph.D.(国際関係学)を取得。広島大学准教授、ケンブリッジ大学客員研究員などを経て、東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授(国際関係論)。著書に『平和構築と法の支配――国際平和活動の理論的・機能的分析』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『国際社会の秩序』(東京大学出版会)、『「国家主権」という思想――国際立憲主義への軌跡』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『国際紛争を読み解く五つの視座――現代世界の「戦争の構造」』(講談社)、『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)など多数。

「2023年 『戦争の地政学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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