大人のためのメディア論講義 (ちくま新書 1167)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480068712

感想・レビュー・書評

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  • なぜこの本を購入したのかわからなかったのだけれど、購入履歴に299円で購入となっていたので、きっと日替わりセールで安くなっていたからに違いない。

    著者紹介に「1953年千葉県に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程退学、パリ第10大学大学院博士課程修了。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授・同大学院情報学環教授(兼担)。情報学環長、附属図書館副館長を歴任。専攻、記号学・メディア論、言語態分析。特に19世紀以後のメディア・テクノロジーの発達と人間文明との関係を研究」と書かれていたので、とても魅力的に映ったのに違いない。

    中身は、少し自分には合わなかったようだ。少し深みが足りず、新書なのでこの程度でよいかと考えているのではと感じる深さだった。著者は、昔々に流行した「記号論」を世界そのものが「記号論」化された今、「この記号論という学問を根本的に考え直し、それを新しくつくりなおす仕事をやってきた」という。それがこの本に詰め込まれているのかどうかどうも判然としなかった。「新しい記号論」を期待したが、少々散らかっている中で、上手く見つけられなかったということなのかもしれない。「メディア再帰社会」と定義した現代社会の様相を捉えることをその仕事と捉えているのかもしれないが、「メディア再帰社会」とそのインパクトを十分に語り得ていないように感じた。「新しい<記号学>については、目下、自分のmagnum opus(主著)ともいうべき分厚い本を書き進めているところ」だというので、言う通りその刊行を待つべきなのかもしれない。

    一方で、著者が東大図書館改修プロジェクトの責任者として、歴史的な外観を保存したまま、地下40mの穴を掘って保管庫として、自動的にロボットが本を探し出して三分で取り出すようにしたという。きっと、その方面での実務的なリーダーとしての能力はあるのだろうなと思った。

    図書館だけに電子化にも触れていたが、大学の図書館などはどんどんと電子化を進めるべきだと思う。著者は、紙の本では大体ページのこの辺りに書かれていたなという空間情報によって読みの記憶を維持していると言い、kindle本ではその空間的な記憶システムをつくれないとして、「空間的構造体である本には、それだけ潜在的な力があるのであって、だからこそ、特権的な「精神の道具」であるのです」とのたまう。それに関しては全く踏ん切りが悪い人だなと思う。仮に、紙の本のメリットがそれだけしかないのであれば、いっそのこと電子書籍によって駆逐されるべきであるとの結論になる。そんなことよりも実体としての所有欲の充足や、工夫された装丁の価値などを挙げてもらった方がよほどまともだ。
    著者がこの後に述べることになるように検索やメモ書きなど紙の本には原理的に不可能で明らかなメリットのある特性がある。そもそも場所を取らないという圧倒的なメリットがある。紙の本のメリットとして見逃せないのは、ブックオフなどの中古屋で電子書籍よりも安く買えるだとか、読み終わったらそれを売ることもできること、家族や親しい友人で気軽に共有できること、など個人にとっての経済的な要因を挙げることができる。それは、権利者側からは決して望ましくない状況でもある。また、図書館にとっても同じ問題を孕むだろう。紙の本という物理的に有限なものの場合には、一時的に借りるのではなく購入するという選択肢が成立するが、無限に貸し出しができるようになった電子書籍が図書館から任意のタイミングで立ち寄ることなく読むことができるようになったとき、書籍市場に無視できない影響を与えることになるだろう。ここに挙げたような問題は、技術的により高次の手続きによって解決することができるかもしれない。そういった分析が紙の本か電子書籍化と言った議論には必要になる。大学の図書館は電子化の推進にもっとも適した場所であり、空間的構造体であることに意義があるだのといったよくわからない理屈を言わずに、ぜひ率先して電子化を進めるべきだと思うのだ。

    何となく攻撃的なレビューを試しに書いてみたが、どうだろう。

  • ●おもしろいなと思ったところは、メディア技術が人間の精神を作り出し、そこから大衆心理の「心の中の隠された市場」を操作するノウハウとして「マーケティング」が確立されていったという記述。うすら恐ろしい話ではあるが、確かに様々なメディアを通して私たちの意識はそのメディアの内容に注意を向けさせられており、その注意力をいかに自身の手でコントロールするかがメディアリテラシーの本質なのかもしれない。

  • 人類の知覚の延長として位置づけられるメディアが、テクノロジーの発達と、消費社会の発達に応じる技術(マーケティング等)とあわせ、人間の能力を超えて暴走しかねない時代となっている。メディアに恣意的にコントロールされないだけの対抗的リテラシーや、軛をかけるフィードバックの仕組みが大切になる・・というようなこと。
    いろいろなところに話が飛んでいるが、人文系ならではの拡がりがあり、知的興奮を感じることができた。

  • 記号論を専門にする学者から見たメディア論

  • アナログメディア革命(フォノグラフ、電話、写真、映画)によって、人間心理を言語以外で書き留められるようになり(テクノロジーの文字)、ソシュールの言語音声の記号論が起こった。同様に、ベルクソンの映画による哲学、フッサールの音と時間。「テイラーシステム」映像で最適の仕事効率を分析したテイラーに対する批判レーニン、「フォーディズム」ベルトコンベアで流れ作業を実現し価格を下げたフォードに対する批判グラムシ、「ハリウッド」エジソン特許から逃れて映画制作し大衆の幸福・夢を刷り込ませた、「マーケティング」フロイトの甥でプロパガンダ・PRに無意識を使用したバーネイズに対する批判アドルノホルクハイマー『啓蒙の弁証法』
    マルクス主義は生産に対する分析はあったが、消費=欲望に対する理論を持たなかったため、資本主義に敗北した。
    メディアの技術的無意識(=テクノロジーの文字は人間に読めない)を再帰的に認識し、コンピュータで分析(メタ認知・注釈・批評)ができるようにする。
    日本のトヨタ日産→東映松竹→電通博報堂の記号的消費社会の形成、ニューアカデミズムの流行はアナログメディアの古い記号論だった。その後、日本は情報資本主義に敗北する。

  • クロマニョン cinématographe運動の文字

    フロイト 心の装置
    記憶の補完→心の延長線としての身体拡張論
    感覚器官系→知覚意識系→無意識
    同時に忘却の装置でもある

    アンドレ『身ぶりと言葉』
    ライプニッツの普遍記号論『完全言語の探求』

    P.61 64

    ソシュールの言語記号学

    技術的無意識

    ・記号はテクノロジーの文字による
    ・意味・意識を生み出す要素
    ・テクノロジーの文字は読めない
    →メディアはテクノロジーの文字の問題 

    パース ダニエル・ブーニュー

    フレデリック・テーラー『科学的管理法の原理』
    ウラジーミル・レーニン
    テイラー・システム→Fordism

    libido経済

    情報記号論

    ボルヘス『学問の厳密さについて』
    『記憶の人フネス』

    Google言語資本主義
    言葉の変動相場制

    メディア再帰社会

    クロード・シャノン

  • f.2022/1/10
    p.2016/1/8

  • メディアにまつわる思想的問題について解説している本です。

    1980年ごろに日本で現代思想のブームが起こったあと、「記号論」という学問分野はほとんど顧みられることはありませんでしたが、著者はメディアの現代的な意義について考察するためには、記号論的な思考が不可欠であるという立場に立っています。ただし、そのばあいの「記号論」は、いわゆる現代思想の一角を占めるそれではなく、ライプニッツに代表される近世の思想家たちによって展開された、記号と思考についての考察のことを意味しています。著者は、彼らの思索が現代のメディアの基礎になっていると主張しています。

    他方で著者は、現代のメディアが資本主義と結びつき、さまざまな問題を引き起こしていることにも目を向けています。とりわけ、著者自身が東京大学の図書館改修のプロジェクトに参加した経験を踏まえて、電子書籍と紙の書籍についての議論にも踏み込み、メディア・リテラシーのありかたについて根源的な問題提起をおこなっています。

    メディアが「知」のありかたに対してもつインパクトを思想的に論じた本だと思うのですが、本書で展開されている思想的なレヴェルの議論が、具体的なメディアのありようとどのように結びついているのかということが、やや見通しにくいように感じてしまいました。

  • 【不思議のメモ帳】   【人間の心】
    セルロイド 感覚器官
    パラフィン 知覚・意識
    粘土板 無意識
    (フロイト) (iPadなど) (p.25)

     マーケティングというのは、バーネイズが言うように、まさに私たちの「心のなかに隠された市場」に働きかける技術なのです。企業はテレビ局から人びとの脳の時間を買い、人びとの「意識」を借り切ります。意識は時間の関数だからです。そして、CMなどで人びとの購買意欲を喚起します。これは、物の形をしたじっさいの商品をマーケットで販売する以前に、「意識のメタ市場」でまず先にやらなければいけないPR、もしくは、プロパガンダ活動ということになります。
    「意識の市場」は、「メタ市場(市場の市場)」、つまり、市場を決定する力をもった市場です。商品が実際に売買される市場よりも上位に位置しています。CMで人びとの意識に働きかけることは、実際のマーケットで商品をアピールするよりもずっと効果があります。(pp.111-112)

     なんといっても、本を読むという活動は、注意力の集中を必要とする活動であると同時に、注意力の深い集中を通じて、人間が自分の意識と思考で情報や知識を整理する、文明の中心を占める知的活動であるからです。私は、これからも本を読む。書くという活動が人類文化の中心であり続けると考えていますし、そうであるからこそ、電子メディア化していくほんと紙の本の文化とをしっかりと結びつけることが何よりも大切なことだと考えているのです。(p.197)

  • オーソドックスなメディア論とは一線を画している。

    コンピュータの歴史はライプニッツまで遡る。
    知覚できないものがリアルだと感じる不気味さ。
    文字ベースから身体ベースでコミュニケーションするシステム。
    文化産業。

    今の自分を俯瞰するために、リフレクディブになるために有用な本でした。

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著者プロフィール

1953年生まれ。2019年3月末まで、東京大学大学院総合文化研究科教授および同大学院情報学環教授。
著書に『新記号論』東浩紀と共著(ゲンロン、2019)、『大人のためのメディア論義』(ちくま新書、2016)、編著書に『デジタル・スタディーズ』全3巻(東京大学出版会、2015)他

「2019年 『談 no.115』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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