アンダークラス (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480071873

作品紹介・あらすじ

就業人口の15%が平均年収186万円。この階級の人々はどのように生きているのか? 若年・中年、女性、高齢者とケースにあわせ、その実態を明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 秋葉原で通り魔殺傷事件を起こした加藤智大の掲示板には、誰にも相手にされない孤立感、派遣労働者である自分の境遇からくる劣等感、そして将来への絶望が、赤裸々に綴られていた。雇用は不安定で、職場は固定せず、しかも仕事内容は常に単純労働の繰り返し。書き込みからは製造業派遣で働く若者の寒々とした心象風景が鮮明に浮かび上がってくる。インターネット上には、加藤を非正規労働者の代表として賞賛する書き込みが多数出現している。その後、通り魔殺傷事件は、何度も起きている。いま日本は危機的状況にある。アンダークラスの問題はいつ身に降りかかるか分からない問題。他人事と等閑視はできない。格差を縮小し貧困をなくすことは喫緊の課題となっている。

  • 男性より女性の方が全体に幸福感が高いとか、年齢と共にメンタルが安定していくが男性の30代は今後の人生の現実が見えて不安定になるとか、詳細なデータに基づく分析はなるほどと思う。
    最後にアンダークラスの不安定な経済状態を政治的に汲み取り解消していく方策が提案されるのだが、消費増税を巡る議論が絶えない昨今、著者のいう「再分配」がどのようなものかもう少しイメージを示しても良かったのではないか?

  • 私の住む地域は他地域に比べかなり豊かだと感じる。この本に書かれた様な方をあまり見かけない。しかし仕事で日本国内を出張すると感じるものがある。目には見えにくいかも知れないが世代を超えて格差を固定させるのかも知れない現実があるとわか。

  • 928.7万人のアンダークラスを年齢と性別で4グループに分けて分析。データからの引用が多く、読みづらいが、その分客観的な重さはある。失業者・無業者が283万人、合わせて日本の人口の1割程度か。普通に暮らしていると気づかないだろうが、仕事柄良く目にする人々ではある。うなづける部分もあれば、腑に落ちない部分もあった。

  • 現代の階層社会における「アンダークラス」と呼ばれる人たちがどんな人達か解説している内容。この手の書籍はみんなそうだが、「データ」を羅列しているだけで、そういう人たちが実在するかのリアリティが全く無い。しかもデータの分母が少なすぎてあまり信頼性が感じられなかった。

  • パート主婦以外の非正規雇用者は、貧困率、健康状態、人間関係、幸福感、満足感などで正規雇用者と違いがあり、所得水準も低下していて(正規雇用者は所得が上昇している)、二極化がますます進んでいる。資本家階級、新中間階級(管理職、専門職)、労働者階級、旧中間階級の4階級のうち労働者階級から分裂したこれらの人々をアンダークラスとよび、930万人存在するという。
    本書ではデータを用いてアンダークラスを描き出していく。主に使われるのは16年に筆者らが首都圏で行ったアンケート調査で、有効回収数は2351とのことである。

    数字で語ることにより、メッセージが強まったり、また俗説を否定できたりもしている。
    アンダークラスは、男性40歳代で未婚71%(その他の階級では19%)、女性40代で貧困率56%(同7%)などの驚くべきデータが示される。男性50代は最初は正社員就職の人が多いもののそれより下は最初から非正規が約4割で、残りも5割が3年以内に初職を辞めているという。女性はいったん結婚したが離別、死別でアンダークラスへ流入というルートも多い。
    アンダークラスは退職金、社宅、住宅手当はほぼなく、職場そのものも正規雇用者とは切り離されていて不可視化につながってるという。
    抑うつ傾向、精神科治療歴も他階級より高く、成績、いじめ被害、不登校、中退、卒業後ブランクなどいずれも差がみられた。健康状態、健康習慣、一般的信頼感、知人友人数にも差がある。女性の場合は結婚後流入のルートがあるのでこれらの差は小さくなる。
    若年中年(60歳未満)アンダークラスは親との同居が多いが、家計貢献度は高く、パラサイトシングルの語はミスリードだという。
    280万人と推計される失業無業者の存在も明らかにされる。

    男性アンダークラスと女性は、格差認識、再分配支持ともに高いので、著者はここに希望を見出し、アンダークラスを政治的に組織して行けないかと考察を行う。生活満足度、幸福度と支持政党の関係を見ていくが、このグラフは見にくい。生活満足度が高いと自民支持が多い傾向があり、低いと野党支持が多くなるのだが、アンダークラス(新中間階級もその傾向がある)はそうならず、支持政党なしの率ばかり高くなるという。そして、環境保護や平和主義の主張を切り離して貧困解消だけを旗印とした政治勢力があればいいと主張する。

    左翼はもともとそういうものじゃないかという筆者一流の論なのだが、マーケティングのように政党を作ればうまくいくのかは疑問である。アンダークラスに支持なしが多いというのはおそらく投票率も低いのだろう。政治意識の低さや、政治参加からも排除されていることのほうが問題なのではないだろうか

  • なんとも気の重くなる本であるがもう直視せざるを得ない。
    「アンダークラス」の現状と真実。身長や体重にまで差が出てきているとはまるで産業革命期のイギリスを彷彿させる。日本はここまで来たのかとため息が出た。
    著者は最左派の社会学者だと常々注目していたが、精密なデータを駆使した「アンダークラス」分析は、もはや警鐘というよりも事実確認だ。誰の目にも見えるレベルになったということだろう。
    本書では「処方箋」も提示されてはいるが、政策としての実行は極めて困難だろうと思えた。
    社会学の本として本書を高く評価するが、同時に真実とは苦いものであるとも痛感した。

  • 政治に無関心なんじゃなくて、情報社会から断絶されてるから支持政党を持てないんじゃないの

  • 本書では、所得や就業形態をベースにアンダークラスを定義し、2018年時点で930万人ほど存在していると説明する。多くが非正規雇用のマニュアル職に就業しており(本人の望むと望まないとに関わらず。)、こうした新たな階層の人々の働きによって都市社会は支えられているとする。
    そのうえで、アンダークラスを男女と年齢層によって大きく4つに分けられるとする。あくまでも個人の印象だが、最も深刻なのが、生産年齢人口における男性のアンダークラスであるように思われる。本書でも指摘する通り、ここに属する人々は社会的な繋がりも血縁的な繋がりも薄く、政府の救済が最も届きにくい。
    また、女性のアンダークラスに関しては、離死別によってアンダークラスへ転落した人々が一定いるというのも衝撃的な事実であり、まさにいつ自分がアンダークラスになってしまうかわからないということを証明しているかと思われる。
    幸せの概念が、今より幸福になることが想像できず、まず今日一日を送ることができたから、今は幸せと自分に言い聞かせているのであれば、それはなんというか悲しい。

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1381224

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著者プロフィール

橋本 健二(はしもと・けんじ):1959年生まれ。早稲田大学人間科学学術院教授。専門、社会学。

「2023年 『階級とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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