コロナ対策禍の国と自治体 ――災害行政の迷走と閉塞 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480074034

作品紹介・あらすじ

感染症拡大防止で、なぜ国対自治体の非難応酬が起きるのか。民衆にとって行政のコロナ対策自体が災禍となっている現状を分析する。

感想・レビュー・書評

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  • コロナ対策禍という、国・自治体がコロナ対応することで新たなが災害が発生する。
    しかし度重なる行革や国の中央集権化志向で、現場の知恵は反映されることが少なくなり、禍はまして行く。

  • 〇新書で「コロナ」を読む⑧

    金井利之著『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、2021)

    ・分 野:「コロナ」×「行政」
    ・目 次:
     はじめに
     序 章 コロナ元年
     第1章 災害対策と自治体
     第2章 コロナ対策禍と自治体
     第3章 コロナ対策の閉塞
     終 章 コロナ三年
     あとがき

    ・総 評
     本書は、新型コロナウイルス感染症拡大がもたらした被害(=コロナ禍)ではなく、行政によるコロナ対策の迷走によって生じた被害(=コロナ対策禍)について、そのメカニズムを分析した本である。著者は東京大学の教授で、行政学を専門とする研究者である。
     なぜ、コロナ対策で行政(政府・自治体)は迷走してしまったのか――そのポイントは、以下の3点にまとめられる。

    【POINT①】災害行政組織は必ず失敗する
     災害に対応する行政組織(災害行政組織)は、平常時の行政組織を災害時・非常時に転用する形で運用される。即ち、災害によって行政組織も一部の機能を損傷している中、従来の業務に加えて、災害対応を行わなければならない。従って、その対応能力には限界があり、必然的に災害行政組織は「失敗」する定めにある。そのため、行政側は、法令(法的権限がない)・財源(財源がない)・学知(専門家への責任転嫁)への逃避によって弁明を図るしかないと指摘する。

    【POINT②】日本の「就労第一社会」の脆弱性
     しかし、支持率を気にする為政者(=行政の長)は、何らかの災害対応を行わなければならない。その典型例が「排除型」(=罹患者の隔離)と「鎮静型」(=自粛要請)の政策である。しかし、日本社会は、働かなければすぐに生活が困窮する「就労第一社会」であるため、その対応にも限界があった。仕事をしないでも生活できる社会のためには、強力な財源が必要だが、二〇〇〇年代から続く構造改革路線の結果、日本には「弱い財政」という遺産しかなく、コロナへの対処能力がないという閉塞に陥ったと指摘する。

    【POINT③】次のパンデミックに備えて
     有効な災害対応を見出せない中、一部の為政者は「差別」や「他者非難」によって、被災者や被害者をスケープゴートにし、自らの正当性を弁明した。こうした「コロナ対策禍」を防ぐには、働かなくても生活や社会を数年間持続できるような、社会保障制度の「溜め」を――行政の「ムダ」とするのではなく――認めること、さらには、為政者が基本的には「無力であること」を自覚し、実務家が粛々と感染症対策にあたることができる環境を整えることが必要だと指摘する。

     非常に読み応えのある本であった。冒頭で「災害行政は必ず失敗する」と始まり、迷走する行政対応の中で「コロナ対策禍」を生み出す為政者を批判的に論じる一方で、最後は、理想的(=非現実的)な対応を行政に期待する私たち有権者の問題だと締めくくられる。振り返って、身につまされる読者もいるのではないだろうか。
     その一方で、本書は非常に難解な本である。全編を通して概念的な話が続き、筆者のクセのある筆致も相まって、読み通すのに非常に苦労した。もう少し読者に優しい本にできなかったのかとも思うが、頑張って読んでみる価値はある一冊である。
    (1147字)

  • 【琉球大学附属図書館OPACリンク】
    https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC07073270

  • 周知のように、コロナ対策では自治体が大きな役割を担っている。具体的に各自治体がどこまで役割を果たせているか、この本を手に取った理由である。

    安倍元首相の病気を理由とした首相辞任、菅首相の自民党総裁選にも出られないことによる政権放棄。この二人に共通していることはコロナ対策において全くの無能ぶりで国民の信頼を失ったことが退任の主要な原因であるとみられている。その通りと思う。突然の学校休校、アベノマスク、Go to トラベル、国会で議論をしない、記者会見で質問に答えない、国民に言葉で説明できない。
    しかし本書では、別の観点から「必然的失敗」と断定する。

    本書のメインの趣旨を私は、1990年代の自治体に分権型社会として期待された姿が、実際は「強大な国政政権に追従・忖度し、国から『成功』事例として「評価」され、手厚い支援を受けることが重視される集権構造」の姿をコロナ禍は如実に示していると読む。

    本書の論理は、もともと災害対策は、一元的に統御できる全能の司令塔的組織を想定していない(災害対策基本法)のにかかわらず、橋本政権にはじまり安倍政権で顕著に見られた内閣機能の強化論は権力集中こそが解決を導くと「空想論」に陥り、失敗は構造的に運命づけられている。過度の期待はむしろ「対策禍」を生む。もともと行政組織は社会全体と同じように「分業の網の目」でそれぞれの現場で創意工夫して地道に活動している。それをどう生かせるかが問われるという。
    エピソード的解説が面白い。集権的欲望は空想的であるがゆえに、「完璧」を求めても必然の「失敗」を生む。そのため様々な「言い訳」が出てくる。「法的権限がないから」「財源がないから」「専門知がないから」 確かに!この間の政府や自治体首長の行動が見えてくる。さらに日本は給付能力が欧米諸国に比べて著しく低いという。税収の低さ、非正規・不安定労働の多さ、失業給付・生活保護など所得補償制度の弱さ、家族依存によってロックダウンは法的問題以前に不可能という。

    結論的には、行政の対策禍が差別分断を生んでいる。結局「脱ゼロリスク」一定の感染(相互の加害・被害関係)を社会的に甘受するしかない。感染症対策と差別防止の両立・衡量をするしかない、というのが著者の「コロナ対策禍」に対する回答である。政治的にはなかなか受け入れることは難しい論法であるが、一面をついていると思う。

    著者はコロナ禍のすべてを語っているわけではない。しかし「対策禍」を語ることによって今の日本の現状(集権的社会の矛盾)を示すことができ、課題を示している。私も2020年「新型コロナパンデミックの「例外状態」にどう向き合うか?」を書き、権力のショックドクトリン的対応に警戒を促したが、より実務的レベルにおける「規範」を作って行くことの必要性を学んだ。
    「非現場的専門家のすべきことは、現場実務者や為政者が利用できるような、専門知見を解明するだけであり、マスメディアなどを通じて行動変容と称して危機を煽ることではない」(p308)

  • コロナ禍にまつわる現在の現象に、とにかく名前がつけられ、整理・分類がされている。「あるある」感はある。また、構造的にどうしてこうなってしまったのかがわかり、「あぁ・・・」という感じは得られる。
    状況に当てはめた納得感はある。ただ、「それでどうすればいい?」というのは、現象を分類して名前をつけても答えが出るものではない。どの対策も、一長一短である。
    たとえば、この本では最後に、目指すべき方向性の一つに「包摂」を挙げている。感染者等は徹底的に保護すべきであり店名や行動履歴等を公表すべきでないというが、濃厚接触者を特定し、感染のおそれがあるグループを把握するのは、当事者と第三者両方の安全に有益なことは否定できないと思う。
    他に挙げている3つのポイントが「無力」「社会」「実務」。無力であることを認め期待しない(失敗しても仕方ないとおもう)、広域移動をしないで適度の範囲で暮らす、実務にがんばってもらう。 正直、どれもあまり響かない。「しょうがないよね」と言われても。出かけたいよ。どうやったら実務にがんばってもらえるか、その方法論が問題。
    結局は、未知の事態に対しては、できることをやって、チャレンジし続けるしかない。

  • 東2法経図・6F開架:B1/7/1575/K

  • コロナ禍だけでなくコロナ対策禍の影響がはっきりそしてより深刻になっている今だからこそ読むべき本である。
    感染症対策を災害対策として扱い、集権型で対策を行うことの弊害が示されており、日々進行する現実と照らし合わせた時、かなりの説得力を持つ。
    現実には前のめりに集権的に対策することが民衆やメディアから求められている状況であり、コロナ対策禍からの脱却は政治・行政ではできないことが歯痒い。

  • 498.6||Ka

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著者プロフィール

東京大学教授

「2021年 『コロナ対策禍の国と自治体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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