コロナ政策の費用対効果 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480074492

作品紹介・あらすじ

PCR検査、緊急事態宣言、医療提供、給付金や休業補償などを巡るコロナ政策の費用対効果を数量的に分析。政策の当否を検証し、今後あるべき政策を提言する。

人と人との接触を完全に断てばコロナウイルスに感染しないが、それでは経済・社会・生活の基盤が崩壊する。それらの維持と感染源との遮断、医療体制の整備といった政策を総合的に組み立てていくにはどうすればよいか。PCR検査、緊急事態宣言、医療提供、給付金や休業補償などをめぐるコロナ政策の費用対効果を数量的に分析。より効果的に人々の命を救い、経済の犠牲を少なくする方法があったかどうかを検討し、多岐にわたる政策の当否を検証。今後あるべき政策を提言する。

感想・レビュー・書評

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  • 政府が打った様々なコロナ対策は本当に効果があったのか、またそれにかけたコスト(金銭的なものもそれ以外も)は果たして適切だったのかということは、これから長い時間を掛けて検証されていくことになるだろう。

    しかし、そのような精緻な検証が必要であることは事実であるにしても、実際にパンデミックのさなかにおいて、先が見通せない不透明な中でも何らかの手を迅速に売っていかなければいけない状況においては、簡易な形でもスピード感を持って政策を評価していかなければならないのも事実であろう。

    本書は、どちらかというとそのような「走りながら考える」ような形での政策評価に近いものであるように感じた。

    本書で取り上げられているのは、
    ・政策決定における専門家の役割
    ・検査体制の整備
    ・緊急事態宣言の効果
    ・医療体制の確保
    ・ワクチン接種の推進
    ・不況対策
    という、新型コロナウイルスのパンデミックの中で様々な議論が起こった、テーマである。

    それぞれのテーマに対して、比較的簡単に手に入る公開データや統計をベースに、感染者抑制や経済へのインパクトの軽減といった効果とそれに要した政策経費の関係性を検証している。

    経済の落ち込みの額の試算など、個々の計算の方法については様々な意見が出てくることはあるであろうが、パンデミックとそれによる経済の混乱に対して、何がどの程度の規模の課題なのかをある程度概算の数字でつかみ、必要な政策の規模を考えるということは、大切なことであると思う。

    政策立案過程については、行政機関が平時の組織の権限や方針のままで動くと、必要な対策や体制が全く取られなくなるという点が、様々な局面で課題となったということが分かった。

    PCR検査体制の拡充や医療体制の確保といった点で、それらの課題によって行政や医療機関が本来持っていた力を十分に活かすことができなかったり、特定の分野に付加が集中するといった事象はあったようであり、政治の役割も含めて、このような非常事態における課題解決のあり方について、日本の社会の中で議論がなされていかなければならないと思う。

  • 新型コロナ(covid-19)感染症について、日本が行った政策についてアプローチした書籍。
    コロナ感染症は、人と人との接触でうつるのだから、接触を絶てば感染しないが、それでは経済・社会・生活の基盤を絶つことなってしまう。
    感染症対策専門会議と政府の関係やPCR検査のスンナ派とシーヤ派の例えなど、なかなか興味深く読ませていただいた。
    2020年初めから、世界中で感染が広がり、2年余り経過した現在もどのような形で終息できるのか先が見えない状態である。感染を抑えつつ、社会経済を動かす方法を模索するのは、もうしばらく続きそうだ。

  • はじめに
    第1章 日本の対応の概括的評価
    1 新型コロナ感染者数の国際比較
    主要七カ国と比較する
    アジア太平洋の先進国と比較する
    2 入国禁止措置の遅れ
    出遅れた水際対策
    国境検疫は十分だったか
    入国管理は効率的な隔離策
    完璧な検疫のコスト
    3 「日本モデルの成功」論
    日本モデルとは
    ファクターX
    二〇二〇年夏にかけて盛んになった交差免疫説
    二〇二〇年八月の安寧
    4 コロナ感染症と経済成果
    先進国との経済回復率比較
    本章のまとめ
    第2章 感染症対策専門家会議と政府の関係
    1 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の設置
    政府の「基本方針」と専門家会議の「見解」
    一斉休校とアベノマスク──専門家会議との齟齬
    目に見えるコストは低い
    3密(密閉、密集、密接)対策
    2 SIRモデルと四〇万人死亡説──「八割おじさん」西浦教授
    「接触八割削減」
    コラム1SIRモデルは予測には役立たないがワクチンの効果は推測できる
    3 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」
    専門家会議の提言
    提言の強さと弱さ
    4 専門家会議が前面に出すぎ
    尾身氏の「前のめり」の発信
    医務技監は出て来ない
    5 指定感染症二類の指定は正しかったのか
    二類指定への批判
    指定水準を落とせばよいのか
    6 東京オリンピック開催
    尾身の乱
    尾身提案は国内感染を重視
    不思議な「著者なし、論文なし」分析
    オリンピックでの検疫は通常の検疫よりも難しい
    オリンピック自体は大成功
    本章のまとめ
    第3章 PCR検査のスンナ派とシーヤ派
    1 PCR検査についての事実の確認
    PCR検査の「目詰まり」
    感染症学者はスンナ派だった
    2 日本のPCR検査数を先進国と比較する
    圧倒的に少ない日本の検査数
    感染者取りこぼしの可能性
    3 検査増大の主張
    現場の医師からの批判
    4 クラスター対策への固執とPCR検査の拒否
    日本独自政策への固執の謎
    行政は費用と効果を考えて仕事をしない
    5 スンナ派の主張の再検討
    PCR検査は信頼できる
    二〇%と八〇%論
    クラスター対策の費用
    6 デジタル敗戦とCOCOAの失敗
    COCOA失敗の原因
    デジタル敗戦は何をするかが分かっていないから
    7 シーヤ派の主張の二つの論点
    皆保険の国の国民は納得できない
    接触八割削減こそとんでもないコスト
    感染症を社会全体で抑えるための論点
    コラム2精度、感度と特異度、PCR検査、抗原検査、抗体検査の意味
    PCR検査によって接触六割減の世界が実現する
    感染者を六割隔離できた世界のイメージ
    一・一兆円をかける価値があるか
    本章のまとめ
    コラム3世田谷区の一斉PCR終了へ
    第4章 緊急事態宣言の効果
    1 緊急事態宣言の発出
    四度の緊急事態宣言
    まん延防止等重点措置
    2 緊急事態宣言と感染者数と人出の推移
    人々の恐怖が人流を抑えた
    発出と解除のタイミング
    緊急事態宣言の効果の国際比較
    3 緊急事態宣言と休業等への支援措置
    幅広い支援対象業者
    休業支援額
    4 ゼロコロナ対策で解決できるのか
    ゼロコロナは不可能
    ゼロにした後も対策は必要だ
    感染者の増加レベルを抑える意味はある
    ハンマー&ダンス
    本章のまとめ
    第5章 医療資源の動員体制、医療崩壊の忌避、病床不足
    1 医療資源の国際比較
    日本の医療資源の国際比較
    人工呼吸器などもある
    2 日本の医療はなぜ対応できないのか
    コロナのために動かせない医療資源
    国立大学の病院ですら動員できない
    政府は医療体制の強化に動く
    実は医療資源には余裕がある
    ワクチン接種にかかる医療資源
    3 医療体制の拡充、治療法の確立と治療薬の開発
    医療体制の拡充予算
    致死率はどう動いたか
    入院治療を要する者の増加
    コロナ以外の医療需要の減少でコロナ対応の医療資源を動員できる
    自宅療養と「野戦病院」
    なぜそんなに費用がかかるのか
    治療法と治療薬
    本章のまとめ
    第6章 ワクチン敗戦
    1 ワクチンの実際
    ワクチンの種類と有効性
    ワクチン効果の実際
    2 日本のワクチン入手と接種の遅れ
    ワクチン接種を躊躇した厚労省
    接種はインフルエンザと同じようにできる
    なぜ接種が大変だという話になるのか
    接種体制構築のミス
    接種証明を行動自由のパスポートに使おうとしなかった謎
    3 ワクチン接種費用──購入費と接種費
    これほどお得な買物はない
    購入費も接種費もやや高いようだ
    4 国産ワクチンは良いことばかりではない
    効果の劣るワクチンを押しつける中国
    中国のワクチン外交は二〇二一年まで
    中国もmRNAワクチンを作る
    5 コロナ対策の費用対効果分析のまとめ
    大きかったワクチンの費用対効果
    本章のまとめ
    第7章 コロナ不況の本質
    1 ケインズ的、ナイト的状況
    大胆な金融緩和政策とコロナショック
    ナイト的状況をもたらす
    2 財政赤字は拡大するしかない
    企業の赤字とは何か
    政府の赤字はなぜ悪いのか
    3 コロナ不況はサービス業不況
    通常と逆の経路の不況
    本章のまとめ
    第8章 不況対策の混乱
    1 一律給付になった理由
    現在の所得が把握できない
    困っている普通の国民とは誰か?
    バラマキは政府の巨大支出より賢い場合が多い
    2 GoToは失敗
    旅行外食需要をかえって減らしたGoToキャンペーン
    人の移動自体が感染者を増やすわけではない?!
    リベンジ消費で必ず回復
    3 雇用調整助成金と失業者減少
    失業を抑制した雇用調整助成金
    雇用維持は常に良いことか
    4 コロナ対策予算の検証──赤字より支出の中身を考えるべき
    人々が支出をしないことが問題
    七七兆円の予算を何に使ったのか
    コロナ予算の不合理
    5 日本のコロナ対策支出を検証する──国際比較
    ここでのコロナ関連予算の定義
    感染者数と対策予算の関係
    感染者数と実質GDP成長率の関係
    本章のまとめ
    終章 日本政府の組織論的な欠陥
    より広い視野と対応策が必要だ
    コロナ禍と政治と行政
    欠けていたケインズの精神

  • 東2法経図・6F開架:B1/7/1619/K

  • 出版が2021年12月であり、このレビューを書いている2022年1月にはオミクロン株による感染拡大のため、コロナウイルスが収束しているとはいえない状況にある。そのような中で書かれた本であるため2020-2021年のコロナウイルスに関する政策を知るためには良本だろう。

    しかしこの本の出版意義とは何だろうか。コロナウイルスに関する政策を評価することは収束してからでないと意味がないと考えられる。また内容は政策を医学的な知見から考察なされていないため、少し物足りなく感じた。続編あるいは別の著者によって書かれるのかもしれないが、あまりこの本を出版した意図がわからない。

  • 498.6||Ha

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著者プロフィール

1950年生まれ。東京大学農学部卒業。学習院大学博士(経済学)。経済企画庁国民生活調査課長、海外調査課長、財務省財務総合政策研究所次長、大和総研専務理事チーフエコノミスト、早稲田大学政治経済学術院教授、日本銀行政策委員会審議委員などを経て、現在、名古屋商科大学ビジネススクール教授。著書『昭和恐慌の研究』(共著、東洋経済新報社、日経・経済図書文化賞受賞)、『日本国の原則』(日経ビジネス人文庫、石橋湛山賞受賞)、『若者を見殺しにする日本経済』(ちくま新書)、『ベーシック・インカム』(中公新書)、『デフレと闘う』(中央公論新社)など多数。

「2021年 『コロナ政策の費用対効果』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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