密教世界の構造 空海「秘蔵宝鑰」 (ちくま学芸文庫)

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  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480081490

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  • 本書は、著者は明言していないとはいえ、ヘーゲルの精神現象学と空海の十住心論の構成と発想が似ているという点にのみ着目し、西欧哲学から空海への再評価を期待して書かれた本であるとしか思われないが、この著者の目論見は見事に外れている。何と言っても空海の思想はヘーゲルと全く関係ないのであって、形式が似ているからと言って単に形式を示してみたところで何ら内的連関を示したことにはならない。ところが、著者の議論はそれに終止してしまっている。ヘーゲルに似ているといったところで、何がどう似ていてどこが違うのか詳細に分析しなければ、その形式の類似の必然性は全く論証したことにならないし、それゆえ、内容の理解にいささかも利するところがないのである。
    それにとどまらず、本書は十住心論の入門にすらなっていない。というのも、本書は秘蔵宝鑰の書抜に終止しており内的視点や一貫する理論が何もないからである。気まぐれにゲーテなど西欧の書物も引かれているが、ただ引用するだけで空海の言っていることと似ていると指摘するだけでは、理解に毫も役に立たないのは言をまたない。本書を読んで空海のことを理解しようとすれば、人の思想を手早くまとめるのは上手いが自身の思想が全く無かったために最後には言葉では言い表せないと開き直れる密教にうまく逃げおおせただけという印象になりかねない。それでいて世渡り上手な人だったのだろうという逸話に事欠かない人物であることも相まって、昨今のベストセラーを連発するペテン師の類ではないかとの思いを強くした。

  • 解説:山折哲雄

  • 空海の『秘蔵宝鑰』の内容を分かりやすく紹介した本。

    『秘蔵宝鑰』は、空海の主著『十住心論』の内容を概説した本として知られている。本能的・動物的な倫理以前の生活である第一住心から始まって、儒教に相当する第二住心、道教に相当する第三住心へと空海の筆は進んでゆく。第四住心以降は仏教の段階に当たり、声聞乗に相当する第四住心、縁覚乗に相当する第五住心が小乗仏教に、法相宗に相当する第六住心、三論宗に相当する第七住心、天台宗に相当する第八住心、華厳宗に相当する第九住心、そして真言密乗に当たる第十住心に到達する。顕教と密教を区別する立場からは、九顕一密と解釈されるが、第十住心はそれまでの内容を包むという立場からは、九顕十密と解釈されることになる。

    著者は、こうした空海の叙述が仏教史の展開を示すような教判となっていることに着目し、ヘーゲルの『精神現象学』にもなぞらえて解説している。

  • 弘法大師空海の密教世界に誘ってくれる本。最近の閉塞した世界をクリアするヒントは、意外にも仏教にあるように感じている。道元、親鸞、法然などと比べるとあまり資料がないのが弘法大師。でもその思想は、深く人間を観させ、感じさせてくれます。

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著者プロフィール

1921年長野県に生まれる。1948年東北大学文学部印度学科卒業。高野山大学教授、名古屋大学教授を経て、退官。文学博士。名古屋大学名誉教授。智山伝法院院長、真言宗智山派管長、総本山智積院化主等を歴任。2011年逝去。著書『仮名法語集』『真理の花束・法句経』『人間の種々相・秘蔵宝鑰』『仏教の起源』『密教思想の真理』『仏教経典選・密教経典』『密教世界の構造』『宮坂宥勝著作集』全6巻、『生き方としての仏教』『ブッダの教え・スッタニパータ』ほか多数。

「1994年 『密教大系』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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