天地有情の哲学 (ちくま学芸文庫 イ 19-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480085481

作品紹介・あらすじ

主客対置の呪縛から解き放たれれば、これは主観に映じた観相と解釈できる。主観のいかんと関わりない客観的世界があるとするデカルト的近代の思想の堆積から離れ、情念的、情感的に自他通底する「天地有情」の世界を模索する。その最晩年に認識論から転回し、「世界は感情的であり、自分の心の中の感情も、世界全体の感情の一つの前景にすぎない」ことを見いだした大森荘蔵、心の深部にある根源的なものを求めて自らの魂の帰りつく道を探しつづけた森有正。二人の先達の思索を再評価し、過去の情念から立ち上がる"天地有情"の観念と世界構造を考察する哲学の試み。

感想・レビュー・書評

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  • 1 天地有情・自他通底の世界
    2 反復強迫としての時間
    3 二元論という原罪について
    4 共同存在の可能性の情感的基礎
    5 情意の影を宿した経験
    6 デカルト的近代を超えて
    7 例外者としての森有正
    8 他我認識の罠
    9 言語ゲーム一元論批判
    終章 失われし時を求めて

    著者:伊藤勝彦(1929-2015、大垣市、哲学)

  • 大森荘蔵と森有正の思想が論じられてた本。両者と著者との交流についても触れられている。著者自身は、森の思想により共感を抱いている。

    大森荘蔵論では、著者の批判が空回りしているといわざるをえない。著者は、大森がロゴスのみに注目してパトスを十分に捉えていないと断じており、大森の思想の文脈を内側からたどろうとする努力を放棄してしまっている。

    これと比べると、森有正論の方ではさすがに精細な議論がなされている。森有正は、経験に密着することを重視する思想家だといわれる。だが著者は、森の思索の根底には、みずからにとって親しみを感じる世界から隔絶される「孤立」のパトスがあったという。森のいう「経験」とは、「孤立」から脱却して「自分を含めた本当の姿に一歩近づくということ」であり、「言葉の深い意味で客観的になること」である。森のいう、ほとんどわずらわしいくらいに具体的な経験が裏打ちされた言葉は、このような仕方で獲得される。こうすることではじめて、森は「孤立」から脱して世界へと回帰することができたのだ。

    だが、「運命によってあたえられた全き孤立の境地から救い出したものが、まさしくその運命それ自身であったとしたら、どういうことになるだろうか」と著者は問いかける。「孤立」から「経験」へと進む森の思索の歩みそのものが、彼自身を超えた「大いなるもの」である「運命」によって動かされていた。これは、戦慄するような事実である。だが同時に、このことは大いなる慰めでもあるのではないかと、著者は述べている。こうした著者の考えは、「遥かに行くことは、遠くから自分にかえって来ることなのだ」という森の言葉の適切な理解へと私たちを導いてくれるように思われる。

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