新ナポレオン奇譚 (ちくま文庫 ち 12-1)

  • 筑摩書房
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480427205

作品紹介・あらすじ

1904年に発表されたチェスタトンのデビュー長編小説、初の文庫化。1984年、ロンドン。人々は民主主義を捨て、籤引きで専制君主を選ぶようになっていた-選ばれた国王は「古き中世都市の誇りを復活」させるべく、市ごとに城壁を築き、衛兵を配備。国王の思いつきに人々は嫌々ながら従う。だが、誇りを胸に故郷の土地買収に武力で抵抗する男が現れ、ロンドンは戦場と化す…幻想的なユーモアの中に人間の本質をえぐり出す傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 訳:高橋康也、成田久美子、原書名:THE NAPOLEON of NOTTING HILL(Chesterton,Gilbert Keith)

  • 正しい戦争もあると本気で思っている人に何ができるのか考えてしまう。

  • 2010-07-00

  • 本書「新ナポレオン奇譚」を5分で読む方法がある。それは、巻末にある佐藤亜紀さんの見事な解説を読むことだ。そこに全ての要素が含まれている。


    成熟し煮詰まった世界は退屈だ。旗を立てたくもなるだろう。そして旗が立てばそこに人は集まり、旗同士で戦いを始める。いつの時代も人とはそういうものなのだろう。

    ニカラグアの年老いた大統領が予言者のように思える。そしてノッティング・ヒルの市長ウェインはキリストだ。すると国王に選ばれたクウィンはなんだろう、民衆かな。


    “われ地に平和を投ぜんために来たれりと思ふな。平和にあらず、反って剣を投ぜん為に来たれり”(マタイ10-34)

    “われ地に平和を與へんために来ると思ふか。われ汝らに告ぐ、然らず、反って分争なり”(ルカ12-51)

  • 寓話または中世の説話のよう。不思議の国のアリスのようなシュールな味わいながら、ナンセンスさを楽しむというより、その裏のメッセージを読み解くことが必要みたい。でも単純にかなり面白いので批判的に読まなくても変な世界を堪能するだけでもいい。ちなみにこれはSFかなぁ…。

  • ものごとのかたちに関する審美家であるオーベロン・クィンはそれゆえに、くじ引きで国王に選ばれると自らの趣味をトンデモ縁起つきの旧町復活計画として市民におしつける悪ふざけを行うが、言葉に真実を幻視するもう一人の詩人であるアダム・ウェインはそれを真に受けて、自らの郷土愛を表現するすべをそこに見出し、他の市長達による経済合理性を追求した都市再開発計画に対抗して立ち上がる。全編スラプスティックな落ち着かなさが支配する中で、最初の戦いを前に喫茶店で一休みする徹夜明けのウェインとターンブルのシーンは独特の静けさをたたえておもむき深い。

    戦争の記憶も今は昔、ぬるい無関心の蔓延する「歴史の終わり」後のロンドンに、全てを冗談にしてしまうアナーキストと全てを額面通りにとる狂信者が出現し、気まずい誤解の果てに情熱を復活させ、情熱は破滅を生む。ノッティング・ヒルの再開発あるいはキャムデン・ヒルの給水塔といった都市の情景は生き生きとして楽しく、市民の礼服から夕焼け空まで散りばめられた色彩は恐ろしくも美しい。(2010/08/01)

  • もっていった本を読みつくしてしまったので旅先の書店でみつくろった本だが、夢中で読んでしまった。「現在とまったく変わらない」未来を描いた、奇妙にも恐ろしい魅力をもつ小説だ。
    チェスタトンの描く80年後の未来、つまり20世紀のイギリスは、進歩は信じるが革命への信仰をうしなっており、そのニヒリズムを、専制君主をくじ引きで選ぶという政治システムで表現している。そうした社会の中から、偶然によって、しかし必然的に姿をあらわす、すべてを哄笑の対象とする奇怪な幼児としての国王のイメージは強烈だ。だが、そのクウィンをも慄かせるのが、彼が気まぐれに思いついた愛国心ゲームを絶対の真実として受け取り遂行しようとするアダム・ウェインの出現である。ラブレー的哄笑をもたらす悪ふざけであったはずのものが、疫病となって広がり、血なまぐさい内戦をもたらすことになる。
    小説の最後でチェスタトンは、2人の人物が体現するニヒリズムと狂信は両極にたつ真髄であり、その間に偉大なる平凡があるとの思想を示している。しかし、小さく取るに足りない王国こそ愛国心の対象にふさわしいという考えは、まさにニヒリズムに通じるものではないのか。私たちはすでに、2つの針の間を極端に行き来する人々の例を見てしまっている。2つの両極しか見いだせえないことにこそ、最大の問題があるというべきだろう。チェスタトンの思想に共鳴はできなくとも、これが恐るべき魅力に満ちた物語であることは間違いない。

  • ブラウン神父シリーズのチェスタトンのデビュー長編。ディストピアSFでもあるのかな。君主制を選択した1984年のロンドンを舞台に、王の冗談と、それを信じた若者の行動が巻き起こす”戦争”が描かれる。
    めちゃくちゃ面白かった!!。逆説や諧謔で人間のどうしようもない愚かしさを徹底的に嘲笑いながらも、その愚かさこそ同時に人間らしさでもあることを容赦なく暴きだす。
    ゲラゲラと笑いながら読み進めるうち、ふと我にかえり恐ろしくなる作品。

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