- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480430496
感想・レビュー・書評
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獅子文六氏(1893〜1969)は、劇作家、小説家、演出家として昭和の演劇振興に尽力された方。この小説は1962年から1963年に「可否道(コーヒーどう)」という書名で、読売新聞に連載され、1963年に新潮社より刊行されたものを1969年に「コーヒーと恋愛(可否道)」と改題され、角川文庫より文庫化。2013年にちくま文庫より復刊されたとのこと。
昭和の隠れた名作。すっごく面白いかというと、今の感覚の「面白い」にはもの足らない感じがするが、ウィットとか上品なユーモアとかを感じさせる。
主人公は坂井モエ子という脇役として国民的に愛される女優で、美人ではないが、「嫌われない」キャラ。
コーヒーを淹れる腕前が絶品で、そのコーヒーでもって八歳年下の新劇団員のハートを捉えて夫婦となっていたが、44歳になったとき、19歳の新劇女優に夫を奪われる。
彼が去ったあと、コーヒーを淹れるのも朝ごはんを作るのも張り合いが無くなり、自分一人のためならインスタントコーヒーで済ますという日々を送り、荒んだ気持ちが仕事にも影響して、初めて主役を務めたドラマも不評。仕事も暇になったある時、コーヒー仲間に「可否会」の主催者との結婚話を持ちかけられた。コーヒーを通じてその菅先生とは懇意になっていて、何かと相談相手にもなってもらっていて、お互い乗り気ではあったが、菅先生は自分の創設したい「可否道(コーヒーどう)」の助手としてしかモエ子のことを考えておらず、愛を感じられないので、モエ子は「イエス」と言えないでいた。そこへ新しい彼女に去られた元夫が戻ってきて「やっぱりモエちゃんのコーヒーが毎日飲みたい」と復縁を迫るのだが、モエ子は自分への愛情ではなくコーヒー愛からモエ子をパートナーとしたい男達にうんざりし、自分の女優としての仕事を極める勉強のために海外へ旅立つ。
1962年ごろの40代といえば、大正生まれ。モエ子を初め、この頃のテレビ俳優と言えば、新劇出身者が多かったようで、テレビを軽蔑しながらも生活のためにテレビに出続け、心はまだ新劇にあるという人が多かったようだ。テレビがまだ珍しかったころの芸能界やインスタントコーヒーが庶民に普及し始める少し前からコーヒーに親しんでいたインテリ達の生活など、その時代の人達からも今の私達からもちょっと一般人とは違う世界の人達の世界のことが書かれていて、そこが新鮮かな。
あと、セリフがちょっと昔のチャキチャキした江戸弁?みたいで、昔テレビでたまに見た古い白黒時代のドラマや映画を思いだす。
古き良き時代というのか、文化を味わうつもりで読むのがいいかな?
でも、最後のモエ子はかっこいい!
今の芸能人も結婚だの離婚だのドロドロだらけだが、あんなに潔く自分のために旅立つことが出来る生き方は古くない。
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美人ではないが親しみのある見た目と演技で人気者の女優モエ子(43)
彼女と事実婚の状態にある年下の舞台装置家の勉(ツトム)くん
二人の中が新人女優の登場でこじれて
モエ子が所属するコーヒー愛好家の会「可否会」の会長菅や新人女優に惚れ込むマネージャーが出てきたりとドタバタする。七時間半よりは抑えめ。
同じような想いや企てを抱えて、人がすれ違っていくのは定番で面白いですね。
何というか、時代を感じるので「女性は家庭に入って云々」とか今だとちょっと受け入れてもらえなさそう。
主人公は女優で、そう言った形に違和感を持ってくれてるけれど周りの男性連中がね…こういう時代でしたね。って捉えて読めればいいけど引っかかるひとはそこ気になりそう。
珈琲について、私は安いインスタントかドリップパック派なので、可否会の方々のうんちくは面倒臭かったな。
でも、主人公の入れる珈琲は「そこいらの喫茶店より美味い」らしいので飲んでみたい。(本人はもういれたくないだろうけど)-
2021/08/11
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2021/08/11
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2021/08/11
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坂井モエ子 女優 43歳。8歳年下の夫塔之本勉が、19歳の新人女優丹野アンナの元へ去ろうとする所から物語が始まるのだが、ストーリー展開が実に面白い。
「可否会」というコーヒー愛好家たちの集まりに登場するオジサンたちのやり取りがまた面白くて、真面目なのか不真面目なのか、ユーモアのセンスも抜群です。
テレビがまだ新しかった昭和の頃を思い浮かべながら、楽しむことができました。
終盤のモエ子さんの気持ちに共感。
獅子文六の他の作品もぜひ読んでみたいです。 -
1963年に刊行された昭和の小説です。
主人公は、テレビタレントのモエ子さん。
ドラマの母親役やオバサン役で人気の女優です。
八つ年下の夫、ベンちゃんは、劇団の舞台装置家。
劇団の若い研究生アンナとベンちゃんの仲を疑って、モエ子さんはヤキモキしています。
モエ子さんはコーヒーを淹れる名手でもあり、コーヒーの同好会「可否会」の会員です。
「可否会」の会員は、モエ子さんの他に、真のコーヒー通の会長、洋画家、大学教授、落語家がいて、全部で5名。
この登場人物たちの滑稽なやりとりや、コーヒーについての多彩な会話やうん蓄が面白くて、楽しく読めました。
とにかくコーヒーの話がたくさん出てくるので、カフェで読むとより気持ちが入りそうです。
2回目を読む時は、カフェで読みたいと思いました。 -
面白かったんだけど、モヤモヤするー。
モエ子に感情移入して読むと、まわりの人たちが身勝手で腹立たしいなぁ、って感じるけどモエ子にも「そうじゃない!」って思うところもあって。50年以上の月日が流れて、技術や情報は進化しても人間の感情なんてそうそう進化するものじゃないんだとかんじた。 -
コーヒーがタイトルに入っている本を読もうと探して、見つけた本!
主人公は、お茶の間で人気のある少し歳のいった女優。その人の夫の不倫とか、人気商売である俳優業界の事とか、物語で出てくる珈琲道の話とか、色んな悩みがぽんぽんっと出てきて、SF小説とかの奇抜さはないものの、のらりくらりと進みながらも読んでいられる内容だった。
古い本だったが、古い本だからこそ、その時代のコーヒーの知識はもちろん、コーヒー以外の情報とか、言い回しが勉強出来て、その面でもとても良かった。
古い文学もどんどん読んで、自分の知識を増やすのも良いなと思った。 -
勉君のゆるゆるな感じが昭和の時代を思わせる。
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さっぱりとしている。中年女性の恋愛市場における、そこはかとない悲壮感のある立場と歳を重ねるごとに勝手に育つ母性のようなものがキッチリ描かれていて面白い。
少しずつ自分の女としての市場変化を身をもって体感してる今だからこそ、読んで面白い本だった。
「くれてやる」の言葉をこんな風に吐き捨てる醜態を晒したくなくて、若い頃のように嵌まり込む恋愛を遠ざけてる自分。若い女に取られたら悪態吐きながらもどこか納得するであろう、若さが与える恩恵を受けてきた自分。それがあるから読んでて、さっぱりしながらも芯があって面白いなぁと思えたんだろうな。
後書きで見た著者の経歴にも興味津々。他にも読んでみたいな。 -
コーヒーを愛する会の人たち
女優と年下の男
それらの人たちの日常と恋愛をコミカルに描いたもの。
年下の旦那に捨てられたときのモエ子の暴れっぷりや心の葛藤は昔も今も変わらないんだなあ・・つい笑ってしまったけどその寂しさもリアル。
でもラストは現代の女性に通じるものもあって読後感よし。