張形と江戸女 (ちくま文庫 た 98-4)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480430564

感想・レビュー・書評

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  • 「女に性欲はない」「ポルノは女性差別の産物」といった通念をもののみごとにひっくりかえす、痛快にして奥深い研究書だ。
    張型は、遅くとも平安時代末期には使われ始め、江戸時代には、高価なものとはいえ、かなりポピュラーな存在となっていたらしい(作蔵さんが妻にあたえたところから「作蔵」って呼ばれてたというのが可愛い)。それを使用する女の姿態を描いた春画の多くは、男たちが想像をたくましくして描いたものとはいえ、必ずしも男による消費を前提としていたわけではない。
    当時、春画は女性の嫁入り道具のひとつや魔よけとされており、初潮をむかえた少女が性欲の高まりをおぼえるのは当然のこと、マスターベーションは「健康にいい」と推奨されていたというのだから、おかしな性規範にがんじがらめになった現在よりもよっぽど健康的だ。春画では男女の性器や性具がたいへん大げさに描かれることが多いが、おかしみがあって初めて春画、という見方を示してもらったことで、はじめて楽しみ方がわかった気がする。
    筆者のあとがきもまた、たいへん読みごたえがある。当時の春画が、裸体の女性を単体で描いたものよりも、カップルのセックスを描いたものがほとんどであることに注目し、女性を対象として男が楽しむ現在の主流ポルノとは異なり、女性たちもまた春画を楽しむ主体であったはず、遊女たちが春画の構図の考案に関わっていたのではないか、という指摘から、「男性の願望」をつくりだす過程に女性たちもまた関わっているという指摘に、なるほど!と膝をうちました。女のマスターベーションがいけないという根拠をみいだせない男の学者たちの「ヒステリー」を皮肉るあたりもかっこいい。自らも春画の研究者で、菱川師宣の希観本を発見し、田中優子さんに執筆を依頼した編集者の白倉敬彦さんもすごいな。

  • 幕末おたくが高じてそこから浮世絵だの読み本だのもろもろ江戸文化そのものにも興味を持つようになり、その延長で八犬伝おたくになってしまった過去があるんですが、今もう手許にないんだけど、春画の復刻シリーズみたいなので、八犬伝のパロディものがあって(伏姫と犬の八房がホントにデキてたという、いわゆる獣姦もの)、それを読んだときに、エログロといえばエログロだけど、やたらと誇張されたありえないサイズの局部のディティールやら、どこか「可笑しみ」というか、クスっと笑っちゃえるような滑稽さがあって、あの時代はなんというか、性的なことが今よりずっと開放的だったんだなあと思ったのですが。

    本書ももれなくそんな感じです。今でこそananとかが、結構過激な特集を組んだりしていますが、明治維新以降の西洋化=キリスト教が持ち込んだタブーのせいで、性的な話題はNGになっちゃった部分が多くあり、もともと江戸時代までは、結構あっけらかんと男色も女性の自慰も肯定されていたりしたんですよね。ホモが駄目とかマスターベーションが駄目とかってのはキリスト教が持ち込んだ宗教的禁忌で、日本人はもともとそんなもん気にしてなかったんじゃないかっていう(笑)。

    あとがきで著者が「春画を読むことは単に鑑賞することなのではなく、 ある時代の文化の中での性のあり方を発見することであり、 それは現代の性に対する固定概念を破ることである」と書いていて、なるほど、と思いました。

  • かなり露骨な内容になっているが、そもそも今から150年ほど前までは、枕絵は嫁入り道具だった訳だ。その頃までは日本も北欧やオランダ並みの先進国だったといえるのではないか。もっとも、当時日本へ来た外国人は、日本は性的に奔放であり、野蛮だと云われたそうである。面白いものだ。

  • 図書館の返却されたばかりの本の棚にあったのでつい手に取ってしまった(という言い訳)。

    春画ってユーモラスなものだったそうで。今日の即物的な変態プレイは、江戸時代までにほとんど出尽くしているのではないかと思うくらい多彩な技(?)です。

  • 図版が豊富で非常に興味深く読んだ。
    人間の本質的な部分でありながら、決して教科書に載ることはない世界を身近に届けてくれる本書のような存在はとてもありがたい。

  • ・やっぱり日本の春画は描写がリアルすぎる。
    ・イラスト化するとどこまでも誇張できるものだな、と。
    ・すでにマニュアル化されてるあたり、日本人である事を実感。
    ・張型とはちがうが「蛸と海女」の書き入れは「ねーよwww」となるくらい擬音が激しい。

  • 春画の中で描かれた張形に注目した、なかなか面白い本。

    上方から江戸に伝わった張形は、当初、女性の自慰の道具として描かれたが、次第に男が女性へと使う道具として描かれることが多くなった。その中には、カタログ的なものや取説的なものなどもある。
    張形を使った春画には、自分のかかとに結びつけて使う「きびすがけ」や、男性が後ろに付け、前後に女性を抱く図など、今のポルノグラフィの中で見たことのないようなエキセントリックな構図も出てくる。

    小さいながら図版も多く面白いんだけど、どうも鼻息が荒い。
    たとえば、

    …張形は男たちの空想のみによって作り上げられたものではなく、その存在の物質性によって女たちの性的欲望の所在を証すものでもある。

    …張形は男をも知らぬ乙女たちの夜の遊び道具であったことによって、「女は男に貫かれることで初めて自然に性にめざめ性欲を知る」という迷妄(うそ)を正してくれる。

    …とすれば,春画における男根主義というのもこの程度のことである。つまりは、女の立場に立った取り替え自由の男根主義なのだ。

    など、女性のセクシャリティの開放という点からの考察なのだ。
    もちろん、春画のファンタジー性を十分差し引いての考察ではあるのだが、うーん、今のAVだけで、女性の性を論じるようなものじゃないの?と思ってしまう。

    また、性を勝ち負け、支配という対立の構図(フーコー的?)でしか見ておらず、性における支配関係は、遊戯的で交換可能である、という点を忘れているような…。

    直接、主題とは関係ないが、北斎の有名な「蛸と海女」の余白いっぱいに書き込まれたオノマトペ(擬音)だらけの書き入れ(春画に添えられたテキスト)が面白かった。

  • 新書(洋泉社)から文庫(筑摩書房)に、、、犬張子や、張子の虎じゃありません。

    洋泉社のPR(新書)
    「現在の日本人がイメージする「張形」は、男性が女性に対して使う好事家的な性具(バイブレータ)であろう。しかし著者は、そうした意識の背景には女性には欲望はなく受身で、自慰もしないという「西欧近代的な性神話」が影を落としているという。一方、浮世絵春画の世界では、女たちは自らの性欲の解消に張形を積極的に使っている。だがこの世界でも、張形は女性への攻め具に変わっていく。本書は世界的にも稀有な江戸期の張形文化の変遷を、女性の視点で春画の図像・詞書を通じて読み解く性文化論である。 」

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著者プロフィール

1952 年神奈川県横浜市生まれ。江戸文化研究者、エッセイスト、法政大学第19 代総長、同大名誉教授。2005 年紫綬褒章受章。『江戸の想像力』( 筑摩書房) で芸術選奨文部大臣新人賞受賞、『江戸百夢 近世図像学の楽しみ』( 筑摩書房) で芸術選奨文部科学大臣賞、サントリー学芸賞を受賞。近著に『遊郭と日本人』(講談社)、
『江戸問答』( 岩波書店・松岡正剛との対談) など

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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