夜の終る時/熱い死角 (ちくま文庫)

著者 :
制作 : 日下 三蔵 
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 45
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480435149

感想・レビュー・書評

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  • 2020/12/26購入
    2021/1/24読了

  • 初期の警察小説。時代の空気は古いものの、懐かしいさを感じさせるが、展開は、かっこいい。アメリカの警察ものに通じる。

  • 1963年かー、「夜終わる時」。
    さすがにそんな頃の昭和は知らない。でも、読んでいて、昭和のあの夜の暗さがじんわり迫ってくる感じがよかった。
    だからさ、夜が蛍光灯の白くまばゆい明かりでなく、白熱電球の赤みがかった灯りだった頃…

    と、なんだか前に片岡義男を読んだせいなのかw、妙に文章を飾っているようで自分で笑っちゃうんだけど、それはそれとしてストーリーといい、登場人物といい何とも言えない哀感があって。妙にメランコリックになってしまうというか、ついそういう文章になってしまうというか、そういう本だったなぁーと。

    とはいえ、たかが本の感想なわけで、とりあえず本のタイトルになている「夜の終わる時」は現在進行的なストーリー展開がゾクゾクしてくるような緊迫感を出しているなーと思った。
    「夜の終わる時」は2部構成になっているんだけど、特に1部の冒頭、徳持刑事がどうなったかわかるまでと、菅井部長目線でストーリーが進む2部の緊迫感は圧巻だった。
    本の裏表紙にある内容紹介で、徳持が殺されちゃうことが書かれているんだけど、冒頭の緊迫感を思うと、なんとかそれを明かさずには出来ないものなのかなーと。
    それくらいこの現在進行的な展開はいい効果をもたらしていると思った。

    ただ、2部についてはちょっと不満も。
    安田の後をつける菅井を密かに腰木が尾行していることは、読者としてはなんとなく気づいちゃうわけだ。
    なら、尾行のまま展開させて、最後の最後安田が確証を掴んだところで、後ろから腰木が声をかける、みたいな感じの方がよかったんじゃないのかなーと思うのだ。
    ただ、それはすれっからしの現在の読者だからそう思うのであって。
    当時の読者は今みたいに色々読んでいるわけではないから、素直に「おぉー」となったのかな?
    うーん…、ていうか、もしかしたら、そんな風にサスペンスな展開を望んじゃうのは現在の読者の悲しい性(悲しいかどうかはともかくw)ってことで。著者(orその頃の読者)としては、菅井(の、そして当時の人たち)の哀しさが描かれることの方が、そんな陳腐なサスペンスなんかより大事だったのかもしれない。
    そんな風に考えると、横溝正史(の長編)にある、あのなんとも言えない哀感は横溝正史独自のものではなくて。昭和の初めや中頃を生きた人たちの日常に普通にあったものなのかもしれないなぁ…。

    と、そんな風に考えてしまうくらい、この話に出てくる人は、刑事たちもやくざ者たちも誰もが哀しくて夜が暗い。
    1963年といえば、東京オリンピックの前の年。たまたま来年またオリンピックが開催されるわけだけどどうなんだろう?その頃と現在の世情って…。
    とか言ったって、1963年といえば例の「こんにちは赤ちゃん」がヒットした年だ。つまり、ここで描かれたような生活もありつつ、でも映画の「三丁目の夕日」みたいな、つつましくも幸せな暮らしもあったわけだ。
    そう考えると、どんな時代も日常は大変で、だけど人はそれぞれそこに何かしらの幸せを見つけるということで。つまり、1963年だろうが現在だろうが、人の営みに大きな違いはないということなんだろう。
    ま、殺された徳持刑事を同僚の刑事が「童貞のまま死んだんだとしたら、可哀そうだからな」なんて哀れむ辺りは、世の中相当変わったよなぁーと思っちゃうんだけどさ(笑)
    ただ、日常全体で見れば多少は変わったという程度(ま、白熱電球よりLED電球は明るいくらい?w)で、それは誤差の範囲みたいなもんってことなんだろう(1963年にボウリング場があって。しかも深夜営業していたというのには驚いた)。
    ていうか、たかだか50年ちょっと前と比べて、何が違うからどうだとかこうとかグチを言うのは意味のないことなんだろうな。

    この「夜の終わる時」は2部構成にしたことの妙を評価されることが多いらしい。
    確かに、それは実際成功していると思う。
    ただ、そういう形式の小説って、今はあまり見かけない気がような?
    ただ、現在はそれを1部2部ではなく、1部の視点と2部の視点を交互に出して話が進んでいくみたいな風に書かれることが多くなっているのかな?
    確かに、視点を交互に出して進める形式の方がなんとなくスマートな気はする。ただ、1部2部と分ける形式はぶっきら棒である反面、2部に変わった瞬間の段差が激しいせいか、すごく劇的な効果を生んでいるように思う。
    ただ、視点を交互に出して進めていく方が、展開を次々に変えていくことで話を長く出来るメリットがあるのかなーと。
    また、この話で言えば菅井側の視点を誰の視点かわからないように書けば、ミステリー(謎)が読ませるエンジンになるという点もあるだろう。
    つまり、今の小説が“すらすら読める”ということを求められる傾向を考えると、視点を交互に出して物語を進めるという書き方の方が読者にウケやすいということで。
    その辺りがこの「夜が終わる時」みたいな形式の小説を見かけない理由なのかもしれないな。


    続く短編4つは、読むからに雑誌に連載された小説なんだろうなという感じ。どれもあっけなく終わる。
    最初の「殺意の背景」もまさにそんな感じの話。
    ただ、読み終わってみると、妙に今っぽい事件の話だったなぁーと。
    これ、舞台を現代にして。小説では語られていないこの事件の前にあった出来事を例の『火車』みたいなストーリーにして、本編と同時並行で走らせたら、今でも結構いけるんじゃない?w
    ていうか、そんな風にこういう埋もれてしまった短編を今の作家が視点を入れ替えたり、話を膨らませたり、今風のストーリー展開にして小説を書いたりしてるってことは結構あるんだろうな。

    あっけないといえば、2つ目の「熱い死角」はもっとあっけない。
    そのあっけなさは、いつも通り家の駐車場に車を停め、ドアを開けて足を出したら断崖絶壁……、みたいな感じ。

    3つ目の「汚れた刑事」は読ませる。
    読みだしてすぐ、なんだ?何が起きたんだ?と一気に引き込まれる。
    やっぱりあっけなく終わるのだが、登場人物それぞれに魅力があって、ちょっともったいない感じ。
    暴力事件を起こした刑事の周りにいる人、3人とか4人ピックアップ、もちろん病気の娘さんも登場させて、それぞれのパートで語らせて長編にしたら読ませる話になった気がする。

    あっけないのは、最期の「裏切りの夜」も同じ。
    ていうか、これはあっけなさすぎw
    ただ、その結末をあっけないと感じるわりにやっつけ仕事感がないのは、前半がじっくり描かれているからなんだろう。
    ていうかコレ、後味がいい。これを最後に持ってきたのは編者の妙。

    この作家は初めて読んだけど、短編も読ませてくれるのでよかった。
    ま、書かれたのが「夜が終わる時」が1963年、他は1970年前後と昔なので、現在の至れり尽くせり小説と比べるとさすがにぶっきら棒な感じがするんだけど、それを補って余りある物語の深み…、というよりは、やっぱり“昭和の夜の暗さ”ってことかなぁ…。
    昭和の夜の暗さとまだまだ日本人が貧しかったゆえの哀しさが、短編であっても話に深い陰影をつけているように思う。

  • 実直な刑事の徳持が捜査に出たきり行方不明になった。捜査係は総力をあげて事件の解決に乗りだすが、彼とやくざについての噂が同僚のあいだに疑念を呼び起こす。そんな中、徳持はホテルで扼殺死体となって見つかる(『夜の終る時』)。二部構成の鮮やかさと乾いた筆致で描かれる警察組織の歪みのリアルさは今なお色あせない。日本推理作家協会賞を受賞した警察小説の金字塔に4作の傑作短篇を増補。

    「裏切りの明日」は読んだような気がするが、こちらは初めてだと思う。長編ももちろんいいが、短編がいずれも切れ味があり、読ませる。

  • 火曜サスペンス劇場の再放送を楽しんだという感じ。
    ♪さあ~、眠りなさい~とエンディングテーマが流れてきそうだった。♪いつか~来た道~な方かな?

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著者プロフィール

結城昌治

一九二七(昭和二)年、東京に生まれる。四九年、早稲田専門学校を卒業し、東京地検に勤務したが、結核が発病し三年間の療養生活を送った。五九年、短篇「寒中水泳」によって認められ、『ひげのある男たち』『ゴメスの名はゴメス』等を執筆し、ユニークな推理作家として注目された。七〇年、「中央公論」に連載した『軍旗はためく下に』で第六十三回直木賞を受賞。ほか『夜の終る時』『志ん生一代』など著作多数、「結城昌治作品集」(全八冊)がある。九六(平成八)年一月没。

「2020年 『軍旗はためく下に 増補新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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