新版 いっぱしの女 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 1052
感想 : 67
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480437556

作品紹介・あらすじ

時を経てなお生きる言葉のひとつひとつが、呼吸を楽にしてくれる――。大人気小説家・氷室冴子の名作エッセイ、待望の復刊! 解説 町田そのこ

感想・レビュー・書評

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  • 小説家である筆者のエッセイ。
    鋭い切り口で、読みごたえがある。

    現代からすると「えっ」というような、男尊女卑や結婚圧力といった、女性差別エピソードが満載。

    そもそも「セクシャル・ハラスメント」という言葉の登場に言及しているくらいなので、認識が始まる時代であり、過去エピソードはそれ以前ということなのだろう。

    町内会でゴミ袋を開けて中身を点検するなど、男女の問題以外にも、もろもろ時代の違いを感じた。

    同性愛、女性はもちろん、男性の在り方に対しても、現代だとしっくりくる発言というか、当たり前になりつつある感覚。
    彼女の考え方は、当時には先進的すぎたのだろう。

  • 十代前半、大好きだった氷室冴子さん。彼女のエッセイが復刊したとTwitterで知り、俄然読みたくなって購入。本書が発売されたのは1992年。随分と長い年月が経っている…はずなのに、女を取り巻く環境のこの変わらなさ、何なのだろう。そりゃ勿論、当時に比べればだいぶ改善されているところもあるとはいえ、何だかやりきれなさを感じたりもするのだった。「女」に生まれたってだけで、どうしてこんなに理不尽な思いをしなければならないのかと。
    結構深く心を抉ってくるエピソードもあるけれど、憂いたくなるような出来事も腹が立つ一言もままならない思いも、氷室さんは軽やかに笑い飛ばす。旅先で出会った、文句たれの「ンマーおばさん」。とことん不快な物言いしかしないバアサンはいつの時代どこにでもいるものだが、彼女に対しての反撃がまぁ見事で、溜飲が下がるとはこのことかと思うほど。(ま、でもこのエピソードのよさはこの後にあるんですけどね)
    とにかく痛快でテンポがよくて、思わず噴いちゃうほど笑えるのに何だか不思議と泣きたくなる。何だろうこの感情。久しぶりに読めた氷室さんの文章が懐かしいからだろうか。それだけじゃない、行間から滲んでくる「女」であるが故にプライドを傷つけられた悔しさや怒り、哀しさ。そこに、自分自身も経験した苦々しい思い出が重なる。
    そして、素晴らしいのが町田そのこさんによる解説!氷室さんへの愛があふれまくっている。
    「もっともっと、彼女の紡ぐ物語に触れたかったと思っている。物語でなくてもいい。彼女のまなざしの先や、そこにのった感情に触れたかった。」
    ここまで読んで、こらえきれず泣いた。自分でも驚くほど、氷室さんの不在が堪えられなかった。氷室さん…私ももっともっと、あなたの作品を読みたかった。このエッセイを読んだからこそ、そう思えてならない。
    でも、このタイミングでの新版の復刊は、本当に嬉しいことだと思っている。次々と降りかかる様々な困難にも負けずに今を生きる「いっぱしの女」たちを支え、励ましてくれる一冊となるに違いないから。

    • りまのさん
      メイプルマフィンさん

      おはようございます。
      私も、氷室冴子さんが、大好きだった、世代です。氷室さんの作品、とても面白かったですね!でも、阪...
      メイプルマフィンさん

      おはようございます。
      私も、氷室冴子さんが、大好きだった、世代です。氷室さんの作品、とても面白かったですね!でも、阪神の震災で、持っていた氷室さんの本を全部失いました。

      メイプルマフィンさんのレビューを読んで、とても懐かしくなり、この本を読みたくなりました。本棚登録します。
      素敵なレビュー、ありがとうございます!
      良い一日を、お過ごしくださいね (*^^*)
      2021/08/21
    • メイプルマフィンさん
      りまのさん:
      コメントありがとうございます!りまのさんも、世代なんですね(*^^*)お仲間でうれしいです~。
      実はこの本、20代前半で読...
      りまのさん:
      コメントありがとうございます!りまのさんも、世代なんですね(*^^*)お仲間でうれしいです~。
      実はこの本、20代前半で読んではいたのですが、内容をほとんど覚えておらず…当時の自分には意外にも刺さらなかったのだなと。本書執筆時の氷室さんの年齢をとうに越えている今の自分には刺さりまくりです。
      たまに出てくる90年代らしいエピソードも、「古いな」とは思わず、むしろ「懐かしい~!」と思えました。
      今更だけど、コバルト以降の氷室作品を読みたくなってきました。出版社さん、復刊大歓迎です♪(できれば文庫で)
      2021/08/21
    • りまのさん
      メイプルマフィンさん

      お返事ありがとうございます♪
      私が氷室冴子さんを読んでいたのは、ほとんどコバルト文庫でした。
      新井素子さんなども、と...
      メイプルマフィンさん

      お返事ありがとうございます♪
      私が氷室冴子さんを読んでいたのは、ほとんどコバルト文庫でした。
      新井素子さんなども、とても好きでした。
      そうですね。文庫で復刊してほしいです ♡
      2021/08/21
  • 私にとって氷室冴子さんといえば、『海がきこえる』。2冊を一晩で一気に読んだことを思い出す。あぁ、そうか。あの瑞々しい描写の背後には、こんな淋しさや、怒りや、そしてそれでも手放さなかったユーモアがあったのだな。

  • かつて少女だったわたしにとって、氷室冴子はある意味フィクションで実在しないかのような別世界の人だった。

    少女小説を読み漁っていたあの頃、作品の登場人物と同じように、氷室冴子というのは少女小説家であって生身の肉体を伴わないものとしてわたしの中に存在していたのだ。

    あれから数十年経った今、このエッセイを読んでようやくわたしの中の氷室冴子に血が通い、肉体を持ち、わたしと同じ『女』なのだと思えた。

    こんなにも愛に満ちていて、シニカルかと思えば情熱的で、なんて魅力に溢れた女性だろうか。
    『わかる』などと口にしてはいけないけれど、今も消えない女の生きづらさをかつてはもっと大きく感じていただろうことが、30年の時を超えてこんなにも伝わってくる。

    氷室さん、2021年のこの現状をあなたならどう言葉にしてくれたのでしょうか。

    今もなお残る女の生きづらさを、芸術の今の姿を、大量消費されるための安っぽいテンプレ物語の山を、あなたの目にはどう映るのか、叶うことなら聞いてみたかった。

    これを書いた時の彼女の年齢を越えてしまった今、わたしは『いっぱしの女』だろうか。
    わからないけれど、自信や余裕をなくしたときはわたしもおまじないのように自分に言ってみようとおもう。
    もう、いっぱしの女なんだから。

    しかし、少女小説を『処女でなければ書けない』とはどういう根拠というかどういう方程式なのだろう。
    むかしから『処女』というものに理想とか聖性を押し付けすぎてるよな。
    男を知ったからなんなんだっつーのと声を大にして言いたいね。
    知って何かがかわるほど男というものが偉大な何かだとでも言いたいのだろうかと、訝しんでしまう程度に男性的な勘違いだよね。
    かつて処女だったことがあるからわかるけど、人生変わるわけでも悟りが開くわけでも物語が書けなくなるわけでもねえよ。男に(あるいはセックスに)そんな大きな力はない。思いあがってんじゃねーよバァカと発言者には言ってやりたいものだ。

  • なんだか「女である」ということに疲れていた、そんな時に出会った一冊。

    20代の頃は結婚しなきゃと焦りを感じていた。
    そして結婚して5年経つ今、私は出産に対して焦りを感じている。
    周りからの「子どもはまだ?」という言葉にひっそりと傷つき、プレッシャーを感じ、勝手に後ろめたさと劣等感を感じている。
    子どもはほしい。でもその私自身の気持ちの他に、他者からの重圧から逃れたい、という気持ちがあることがはっきり否定できない。それが悲しい。
    周りも私自身も、「この年頃の女はかくあるべき」という過去の価値観の呪いから脱し切れていないのだ。

    こんなこともあった。

    職場でわたしはある役員の書いた原稿の校正作業をした。特に命じられたわけではないが、私がやらなければ誰もやらず、そのまま世間に出版されてしまう。原稿を書いた役員の意図を損なわないよう、連絡を取りながら、通常業務の合間を縫ってやった。役員の方はその仕事を評価してとても感謝してくれた。
    でもその後、私の直属の上司と私とで2人で話していた時に言われたことが忘れられない。
    「あの人は女性に優しいからな。女性は得だね」

    あの言葉にどんな意味が込められていたのかはわからない。もしかしたら嫉妬があったのかもしれない(ちなみにその役員の方は性別の差で態度を変えるよな人ではなかった)。

    あの上司の言葉は、私のした仕事や私個人の存在を否定し、この本の言葉を借りるなら、逃れようのない私の〝女(性別)〟の部分だけを切り取って、かつ女性というものを見下したニュアンスを含ませて放たれた言葉だった。

    奇しくも、そんな33歳(このエッセイを書いていた氷室さんと同じ歳)の今、エッセイを読み、私は幾分か救われた想いがした。著者は私が普段違和感を感じる〝女〟を取り巻く状況を冷静に言語化し、不条理なものを断じてくれていたから。

    この本がリアルタイムで出版されてから数十年が経ち、女性(に限らず性別に関する意識や固定概念)を取り巻く環境は少しずつ変わっていると思う。
    (特に若い世代は。上の世代はまだまだ変わっていない部分がたくさんあると思う。)

    女性(に限らずすべての人)が、押し付けられるジェンダー観に傷ついたり違和感を感じることなく、〝いっぱしの女〟と意気込まず〝いっぱしの大人〟と言えるような、そんな世の中になってほしいし、私自身も変えていきたいな。

     

  • 中学生の頃にまわりで大ブームだったけれど、ちょっと遅れて高校生になってからあれこれコバルト文庫で読んでいた(そのせいか、「クララ白書」や「なんて素敵にジャパネスク」シリーズのような代表作は実は読んでない。最初は「シンデレラ迷宮」だったかな?)。そのあと、愛あふれる翻訳少女小説ブックガイド「マイ・ディア」と復刊された角川マイ・ディア文庫にどっぷりはまったのは大学生のときか。

    そんな少女小説のパイオニア氷室冴子さんのエッセイ。
    中高生のわたしたちを夢中にさせていた80年代後半から90年代はじめ、ちょうど30代にさしかかった頃の氷室さんの考えていたこと感じていたことは、30年経った今読んでも古びないどころか、あ、わかるな、と思うことばかりで(かんたんに「わかる」ですませてはいけない、と氷室さんには叱られてしまうが)、今の自分はそのころの氷室さんよりずっと年上になってしまって読んでいるのが不思議な気がする。
    引用したくなるような文章ばかりだったが、なかでも「とてもすばらしかった旅行について」が印象深く、「やっぱり評論もよみたい」には打ちのめされた。

    わたしより15歳年上で、親や世間からの結婚への圧もいまに比べたらずっとずっと強かった30代独身の彼女が、あるいはいま以上にマチズモに支配されて「女」が不自由だった中で彼女が感じていた理不尽や無力感、辟易、憤懣、自戒、そしていまの言葉で言えばシスターフッドが痛いぐらい感じられて、そうしたものが当時読んでいた作品からもにじみ出ていて、自分をとりこにしていたのかもしれない…もう一度あれこれ読み直してみたくなった。

    1957年生まれ、もしご存命でこの世界を見ていたらどう感じただろう…と考えずにはいられず、ちょっと調べたところ、ちょうど同じ年頃といえば、高橋留美子、柴門ふみ、そして斎藤美奈子がいるとわかった。斎藤美奈子といえば、氷室冴子も愛してやまなかった翻訳少女小説をあらためて読み解く「挑発する少女小説」をちょうどだしたところなのが奇遇。斎藤美奈子にこの本の感想を聞いてみたい。

  • 【書評】氷室冴子:いっぱしの女【ブックレビューサイト・ブックジャパン】
    http://bookjapan.jp/search/review/200804/kuwahara_satoko_02/review.html

    筑摩書房 いっぱしの女 / 氷室 冴子 著
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480030818/

    筑摩書房 新版 いっぱしの女 / 氷室 冴子 著
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480437556/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ああいう小説は処女でないと書けないんでしょ」少女小説の旗手・氷室冴子が立ち向かったもの(嵯峨 景子) | FRaU
      https://g...
      「ああいう小説は処女でないと書けないんでしょ」少女小説の旗手・氷室冴子が立ち向かったもの(嵯峨 景子) | FRaU
      https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85381?page=1&imp=0
      2021/07/22
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【GoTo書店!!わたしの一冊】第31回『新版 いっぱしの女』氷室冴子著/三宅 香帆 |書評|労働新聞社
      https://www.rodo....
      【GoTo書店!!わたしの一冊】第31回『新版 いっぱしの女』氷室冴子著/三宅 香帆 |書評|労働新聞社
      https://www.rodo.co.jp/column/112034/
      2021/09/02
  • 女性読者向けと思いますが、男でも面白く読ませてもらいました。特に「とても素晴らしかった旅行について」は最高でした。

  • 1992年発行の単行本を新版として再刊行。

    懐かしい。私にとっては『なんて素敵にジャパネスク』の原作者さん。小説は原作として読んだかな?というぐらいの記憶しかないのが申し訳ない(;'∀')

    「詠嘆なんか大嫌い」…昔の女友達にたまに会うとこういう感じ(現在の愚痴をずーっと言う)になるのかなぁ。もう会ってないのでなんとも言えない。

    「一番とおい他人について」…女性の「それ分かる(共感)」について。

    「レズについて」…女が女にあこがれること、について。女性が「こうなりたい」と思うときの対象って女性なのが普通なのでは?

    「なるほど」…セクハラについて。この時代の一部の男性は気持ち悪かったなぁ。今も一定数いるかな?ああ気持ち悪い。

    「やっぱり評論も読みたい」…「ベルばら」とか「ポーの一族」とか。ベルばらからツヴァイク、一条ゆかりからサガンを読む読者たち。的外れなオジサン評論家たちから評されることに傷つきはしたけれど、評論がないと世界がどんづまりになってしまう、と思う、と。

    15年ほど生まれ年が違うので少しジェネレーションギャップを感じた。でもそれは好いこと。15年でギャップがなかったら令和でも変わってなくて恐ろしいことになっていると思う。

    「まえがきにかえて」や「なるほど」で女性に対して「処女かどうか」などという質問をするおっさん、私も遭遇したことあります、19歳のとき。学生なので激怒してガン無視できたけど、社会人なら受け流したんだろうなぁ~。ああいやだぁ。嫌な記憶。

  • もう先生が執筆した年齢をはるかに超えましたが、読んでいると10代20代に自然と戻ります。
    いつまでも繰り返し読んでも飽きない。

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著者プロフィール

氷室冴子(ひむろ・さえこ)
1957年、北海道岩見沢市生まれ。 1977年、「さようならアルルカン」で第10回小説ジュニア青春小説新人賞佳作を受賞し、デビュー。集英社コバルト文庫で人気を博した『クララ白書』『ざ・ちぇんじ!』『なんて素敵にジャパネスク』『銀の海 金の大地』シリーズや、『レディ・アンをさがして』『いもうと物語』、1993年にスタジオジブリによってアニメ化された『海がきこえる』など多数の小説作品がある。ほか、エッセイに『冴子の東京物語』『冴子の母娘草』『ホンの幸せ』など。 2008年、逝去。

「2021年 『新版 いっぱしの女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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