ポラリスが降り注ぐ夜 (ちくま文庫 りー 9-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480438249

作品紹介・あらすじ

多様な性的アイデンティティを持つ女たちが集う二丁目のバー「ポラリス」。国も歴史も超えて思い合う気持ちが繋がる7つの恋の物語。解説 桜庭一樹

レズビアン、トランスジェンダー、アロマンティック/アセクシュアル、バイセクシュアル、パンセクシュアルetc.多様な性的アイデンティティを持つ女たちが集う二丁目のバー「ポラリス」。国も歴史も超えて思い合う気持ちが繫がる7つの恋の物語。台湾人で初めて芥川賞を受賞した著者の代表作にして芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞作が待望の文庫化!
解説 桜庭一樹

感想・レビュー・書評

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  • 最初のページを開いた時、「これは私の物語だ」と思った。
    私自身、女性も恋愛対象である。
    最初の掲示板投稿の文章は、まだスマートフォンがそこまで普及していなかった頃、レズビアンの掲示板でよく目にした懐かしい文章だ。(今も使われているかもしれないが)
    「ネコ寄りフェムリバ」「金銭面自立」「セクにタチがつく」どれも私の黒歴史を抉ってくる。
    でもこの投稿が黒歴史となっているのは、私だけではないはずだ。
    最初の「日暮れ」の章での主人公「ゆー」は全てが人任せでただ「慰めてほしい」「甘えたい」と態度で示している。
    おそらく、ゆーは大人になった時、この時のことを自分の精神が幼かった頃の黒歴史と思うのではないか。
    大人になった私にはかりんのイライラがよく分かる。

    「太陽花たちの旅」の章は「日暮れ」の章とか打って変わって、日本人の私には全く体験をしたことのない物語だ。
    台湾のひまわり運動についてはニュースで知っていたが、他人事としか捉えていなかった。
    しかしこの章を読んでいる私はひまわり運動の中の議場にいた。
    このような運動は混乱を極めているものだと思い込んでいたが、最中でも整然と様々な体制が整えられているのだと知った。
    それを知ったことで、ひまわり運動というものが身近に感じる。

    「蝶々や鳥になれるわけでも」はAセクシャルの女性のお話。
    私自身、恋に生きてきて、恋を生き甲斐としてきた人間なので、誰にも恋愛感情が向かないAセクシャルの感覚は分からない。
    ただ、ここに書かれているように、どこにいても居心地の悪さが付き纏うものだとは想像がつく。
    それをリアルに物語として追体験できるような章だった。
    恋愛をしても蝶々や鳥になれるわけでもなければ、空を飛べるわけでもない。
    むしろ、恋愛は泥臭く、どこにも行けなくなり、自由を奪われるようなものだとさえ思う。
    そんな風に感じる私でも、なぜ恋愛にこだわるのか分からなくなるような物語だった。

    「夏の白鳥」はポラリス店主の夏子の物語。
    私にとってはとてと美しい物語だ。
    まさに劇中に出てくる夜空が相応しい物語。
    新宿二丁目という街は人よりも経験豊富な人が集まる。
    現実の新宿二丁目もこのような物語のような恋愛を経験した方もいる。
    その一方で生きづらさをノンケ社会で感じ、夜な夜な自己の解放とそれを手助けするアルコールを求めてやってくる。
    それを迎え入れるポラリスにいるような店員(新宿二丁目では店子と呼ぶ)の方々。
    店主ともなれば、現実でもこのような物語を秘めているのだろうか。

    「深い縦穴」は「日暮れ」の章のかりんの物語。
    私自身、バイセクシャル(正確にはパンセクシャルだが)なので、このかりんのように幾度となく「完ビではない」「バイセクシュアルなんて信用できない」と言われた。
    バイセクシャルはレズビアンにもなれず、ヘテロセクシャルにもなれず、どちらにも嫌悪感を露わにされることがある。
    セクシャルマイノリティ当事者ではないと分からないこの現実を書いたこの章は、作者が当事者だからこそ描けたのだと強く思う。
    しかし、それを「信用できない」と突き放す側の背景も描き、共に生きる道を探す2人の姿は、とても尊く感じた。

    「五つの災い」の章は男性から女性になる時の苦しみを描いた物語。
    私はトランスジェンダーではないが、この章を読むのはとても辛かった。
    私自身、前述したようにパンセクシャルである。
    パンセクシャルとは性別を関係なく人を好きになるセクシャリティであり、男女のどちらでもない人や、この章に出てくるような性別を移行した、移行したい人も恋愛対象である。
    現に身体的には男性だが、女性として生きている人とも、お付き合いを前提としたデートをしたことがある。(お付き合いには至らなかったが)
    その女性のことを思い出した。
    ひたすらに読み進めるのが辛かった。

    最後の「夜明け」の章は、新宿二丁目で朝を迎えたような感覚に陥る。
    スピード感たっぷりに新宿二丁目を歴史が描かれており、新宿二丁目に幾度となく通った私でも知らないことばかりだった。

    この本は新宿二丁目のレズビアンバーで一晩を過ごしたような気分になる、とても優れた本だと感じる。
    この本を読んでいる最中、私はポラリスのカウンターにいた。
    読み終わったあと、ポラリスのモデルになったと思われる、行きつけのレズビアンバーを訪ね、さらにこの物語のリアルさを実感した。

    あとがきも物語の延長にある。
    ぜひこの小説を読むときはあとがきまでじっくりと楽しんでほしい。

    また、私が敬愛する桜庭一樹先生が解説を書いている。
    そこでは物語の構造を解説しており、自分感じた構造的な秀逸さは間違いではなかったのだとかんじた。

    あとがき、解説まで余す所なく楽しめる作品だった。
    これは私たちの物語。

  • 人間の在り方に名前を付けるとき。

    李さんだから書けた作品、としか説明のしようがない。短篇7作品。芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞作。

    二丁目のバー「ポラリス」に集うセクシャルマイノリティの女性たち。

    レズビアン、トランスジェンダー、アロマンティック/アセクシュアル、バイセクシュアル、パンセクシュアルetc.

    エトセトラまで受け入れられる社会になってほしい。

    *****************************************
    7作のうちからいくつかの感想。感想を書くのがなかなか難しかったです。

    太陽花たちの旅
    強い想いを持つ人たちによって大きなうねりが作られていく。でも、少数のグループ同士はは必ずしもパーフェクトに協力しあえるわけでもなく…。

    学生運動という今の日本ではなかなか発生しないことなので自分事として取り込んでいくことが少し難しかったけれど読み応えがあった。同性婚などの法律は台湾のほうが日本より進んでるなぁ。

    蝶々や鳥になれるわけでも
    本書の作品の個人的NO.1。カテゴライズから得られる安心感。可能性がないことを分かってもらえない苛立ちと寂しさ。「あなたのことは好きになれない。」と告げるのは異性愛でもしんどい。蘇雪が幸せになれますように。

    夏の白鳥
    いつの時代もおっさんはなぜ女子を付け回すのか(怒

    深い縦穴
    皆、生きている限り縦穴にいるのかもしれない。私が世間知らずというのもあって「そうか、こういうこともあるのか」という新しい気づきを得た。

    五つの災い
    望む姿で死ぬことさえ許されないのなら(P235)


    なんだかまとめきれませんでした。読み返すときにはまた感想が変わりそう。

    *****************************************
    今回は政治的な内容も書かれていますが、ちょっとしたところに

    「瞳の縁から中心にかけて次第にその黒が濃厚さを増していき、一番濃いところは鬱蒼とした森に囲まれた月のない夜の湖のような、あらゆる光の不在によって作られた黒だった。」(P165)

    という表現があったりして、小説でしか見られない黒い瞳、こういうの本当に好き。

    *****************************************

    バーって、二丁目ほどではないにしても日常と切り離されたちょっと不思議な場所ですよね。夜、ありのままの自分を出しても大丈夫なような、そして朝が来たらその夜がまるで夢だったかのような錯覚をくれる、そんな場所。また行きたいな。

  • ひとつの海に編み込まれて行くような、深い広がりを持った連作短篇集に感じた。読み終えるとなぜかしら、安心するような、却って泣き叫びたくなるような衝動に駆られ、こころが綯い交ぜになってしまったから。女性の経済格差について、もう少しだけ触れられていれば嬉しかったな、とも思うけれど。

  • 女という入れ物を持つ私は、客観視された性と合致した、正解とされる性を持つ。しかし、それぞれの人が生きていく中、私たちは誰一人残らず誰かを愛し、愛されたいと願い、純粋に、愛にひたむきに生きてきた。
    それが許されない世界づくりに加担していることが虚しい。

  • 群像劇。新宿二丁目のとある女性限定バーに居合わせた何人かの女性のそれぞれを描く物語。解説(桜庭一樹さん!)にある通り、とにもかくにもとても”真摯”。レインボー/虹、というけれど、実際はもっともっと細かいグラデーションなのだ。とてもよかった。

  • 様々なセクシャリティの女性たちが綴られている 自分のセクシャリティがカテゴライズされる安心感とグラデーションのようにその濃淡は個人によって異なるのにそこに押し込められる違和感 新宿に生きる個人の物語だ この本を手に取れる今の若い人は幸運だと思う

    物語の効用は自分とは異なると思っていた人を知るきっかけになることだと思う 異なると思っていても同じところもあるし、共感は出来なくても理解は出来ることもある 自分の欠片を見出すこともある

  • ここで描かれるのは、性的自認に悩み生きづらさを感じているセクシャルマイノリティのストーリー。
    けどそれ以上に考えたいのは、多数者が生み出す社会的弱者のこと。多数であることが誰かを傷つけることがあることに自覚的になりたい。
    なぜか「我が名はレギオン。我々は大勢であるが故に」を思い出した。

  • 最初の章でポラリスに居合わせた登場人物それぞれが主人公になって個々人の目線と背景からマイノリティに対する思い・考えを展開していく。
    世間から押し付けられ、一部は自ら身に纏っている常識に窮屈さを感じている点では形や程度は違えどみな同じように悩んでいるのだ。その悩みをどれくらい大きく捉えるか、言語化したりカテゴライズするかはそれぞれがどう折り合いをつけれるかによるのだろうが。

  • ヘテロセクシュアル、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、Aセクシュアル、ノンセクシュアル、デミセクシュアル、パンセクシュアル、クェスチョニング、Xジェンダー などなど.一般の男と女の関係以外に様々な形態があることを描写した短編が7つ.台湾のひまわり学生運動が出てくる「太陽花たちの旅」が面白かった.学生たちの熱気が伝わってくるようだ.人と違う性感覚を持っていること自体、特異なこととは思わないが、周囲との軋轢が一番の問題だと感じた.

  • 新宿二丁目のバー「ポラリス」の一晩に、国も越え、時間も超え、交差する、女達の群像劇。
    性的アイデンティティは多様で、グラデーション。
    それぞれの抱える苦難や悲哀に、簡単に理解したとは言えないなと思っていたら、あとがきの言葉が刺さる。
    群像劇の構造がとても好き。
    解説の桜庭一樹さん曰く「例えようもない誠実さ」で書かれたことが感じられるのも良い。

    物語に酔いしれてから、あとがきで作者も好きになる一作。

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著者プロフィール

1989年生まれ。中国語を第一言語としながら、15歳より日本語を学習。また、その頃から中国語で小説創作を試みる。2013年、台湾大学卒業後に来日。15年に早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程を修了。17年、「独舞」にて第60回群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー(『独り舞』と改題し18年に刊行)。20年に刊行した『ポラリスが降り注ぐ夜』で第71回芸術選奨新人賞(文学部門)を受賞。21年、「彼岸花が咲く島」で第165回芥川賞を受賞。その他の作品に『五つ数えれば三日月が』『星月夜』『生を祝う』などがある。

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