十六夜橋 新版 (ちくま文庫 い-44-3)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480438607

作品紹介・あらすじ

不知火(しらぬい)の海辺に暮らす人びとの生と死、恋の道行き、うつつとまぼろしを描く石牟礼文学の重要作。第三回紫式部文学賞受賞。解説 米本浩二

感想・レビュー・書評

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  • 十六夜橋 新版 石牟礼 道子(著/文) - 筑摩書房 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784480438607

    筑摩書房 十六夜(いざよい)橋 / 石牟礼 道子 著
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480034854/

  • 不知火の海辺の町・葦野で土木業を営む直衛と精神を病む妻の志乃。
    海に抱かれた萩原家の記憶と生き様が重層的に織り成す美しい作品である。
    志乃の記憶は往時の親しき人達の死と彼岸に結び付き現在と行きつ戻りつ連なる。志乃が発する科白は、病のせいかそれとも過去の確かな記憶なのか。幻覚か現実なのか稀に掴めなくなり、がために夢とうつつの狭間に迷い込んだ不安と緊張を覚え幻惑的でさえあった。

    志乃にはお糸という大叔母がいた。意に染まぬ男と結婚させられたが、心に秘めた人と駆け落ちし舟の上で心中を遂げる。その叔母を血に染まった海から引き揚げ弔ったのは奉公人の重左。彼の記憶が志乃の往時を形造る。志乃と奉公人の重左の関係は、まるで輪廻転生のように志乃の孫娘である綾と石工の少年の三之助の関係に相似する。その三之助の姉の小夜は、心に秘めた薬問屋の奉公人である仙次郎と駆け落ちする。小夜と仙次郎の関係は、読む者にお糸の結末を想起させる不穏と相似の生の形を発見する。

    時を超えて繰り返す相似形の関係。人の恋と生き死と愚行の営み。輪廻が宿命であるとしても、その先に不知火の海がある。全てを受け入れる海がある。祈りや悲哀や呪詛を抱きしめる海がある。海に祈り抱かれることで萩原家の者たちは生きている。その海が存在するから人間はどこまでも生きていける。これを希望と言わずして何と評すればいいのか。
    文学は祈りではない。しかし叙情を湛えた自然描写で萩原一族の彼岸と此岸を分岐した物語に惹き込まれたならば、荘厳な寺院を前に感じる敬虔さで不知火の海を神々しく思う。

  • たいへん美しい小説です。すごいものを読みました。
    人びとの、はかりしれない巡り合わせ。この世とあの世を繋ぎながら、連綿とつづくいのちの哀しみと愛しみ。すべてを大きく抱く海。
    私たち一人ひとりのなかに、無数の名もなきいのちが溶けあい、そうして人は誰もが(たぶん生きものは皆)宿命的に生まれ、畏れながらもただただ生き、還っていく。
    真の文学だと思います。

  • 悲しみのあるうつつの物語
    お国言葉が効果的

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著者プロフィール

1927年、熊本県天草郡(現天草市)生まれ。
1969年、『苦海浄土―わが水俣病』(講談社)の刊行により注目される。
1973年、季刊誌「暗河」を渡辺京二、松浦豊敏らと創刊。マグサイサイ賞受賞。
1993年、『十六夜橋』(径書房)で紫式部賞受賞。
1996年、第一回水俣・東京展で、緒方正人が回航した打瀬船日月丸を舞台とした「出魂儀」が感動を呼んだ。
2001年、朝日賞受賞。2003年、『はにかみの国 石牟礼道子全詩集』(石風社)で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2014年、『石牟礼道子全集』全十七巻・別巻一(藤原書店)が完結。2018年二月、死去。

「2023年 『新装版 ヤポネシアの海辺から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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