- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480439352
作品紹介・あらすじ
つれづれから掬い上げた慎ましい日常の中にこそ揺らぎない生の本質が潜んでいる、とその人は知っていた。美しくゆかしい随筆と短歌を集めた一冊。
感想・レビュー・書評
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歌人でアイルランド文学翻訳家の片山廣子の晩年の随筆集。疲れてささくれだった心に寄り添ってくれた一冊。この方のような生活や考え方が「丁寧な暮らし」なのかもしれないと感じた。
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歌人でアイルランド文学の翻訳も手がけた片山廣子の名前は村岡花子が朝ドラになった頃に覚えた。東洋英和女学校の大先輩で村岡花子を文学の道にいざなった恩人らしいが、朝ドラには登場しなかった。
なにか読んでみたいとずっと思っていたら、ついに文庫オリジナルアンソロジーが出たのでうれしく手にとった。暮しの手帖社から出て第3回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した「燈火節」を底本として選んだ作品に、単行本未収録の随筆二編を加えたもの。文字づかいは底本の表記(旧仮名づかい)に従いつつ、正字(漢字の旧書体)は新字にしてふりがなを補ったとのこと。 -
※本稿は「北海道新聞」日曜版2024年4月14日付のコラム「書棚から歌を」の全文です。
・風立ちてまだ春わかきわが庭にいちごは白き花もちてゐる
片山廣子
「まどはしの四月」。そんな魅力的なタイトルの小説がイギリスにあったらしい。片山廣子の戦後のエッセーで知ることができた。
片山廣子は、1878年(明治11年)、東京生まれ。父は外交官であり、東洋英和女学校で学び、歌人の佐佐木信綱に入門。「心の花」に短歌を発表し、21歳で結婚後も翻訳などを発表。アイルランド文学の翻訳者としては、「松村みね子」の筆名がある。
「まどはしの四月」はこんな内容である。イギリスの中流家庭の主婦二人が、新聞でイタリアの古城を1カ月借りられると知り、いそいそと計画する。けれどもどうしてもお金が足りない。そこで、社交界の花形の侯爵令嬢に相談すると、気前よく資金を提供してくれることに。令嬢も一緒に立派な古城に行くことになり、夢のような四月を過ごす―。
そんな小説を紹介しながら、片山は、年代もさまざまな女性たちがふらっと立ち寄って新聞を読み、魅惑的な情報を入手できるような場所が欲しい、と述べている。
「むづかしい本と軽いよみ物と交ぜて気分次第に読む。さういふ処で若い人と年寄とが親しくなつて、各【おのおの】の世界は無限にひろがつて行くこともあるだらう」。
芥川龍之介や堀辰雄らとも親交があった片山は、つねに知的な空間で暮らしていた。だからこそ、すべての女性たちが魅力ある情報に出合える場も欲していたのだろう。
(2024年4月14日掲載) -
晩年に書かれた随筆を中心に編集された文庫本。アイルランド文学の専門家であることもあるのか、著者の好む季節の植物や食べ物などが記された文は、国内のこと(もっというと家の中のこと)であるのに、どこか果てしなく遠くのほうから眺めているような客観的で冷静な筆致だ。だが、敗戦前後のことが書かれた文章には、感情がほとばしる瞬間があり、著者の感情が抑圧されざるを得なかった時代背景も感じ取れる。それだけに、編者解説での早川茉莉による「何とすてきなものをたっぷりと包含していたのだろう、明治という時代は」(p325)というような意見には全く賛同できない。この人の編集した本にはいつも違和感がつきまとう。