インド文化入門 (ちくま学芸文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480510259

作品紹介・あらすじ

異なる宗教・言語・文化が、多様なまま統一された稀有な国インド。なぜ多様性は排除されなかったのか。共存の思想をインドに学ぶ。解説 竹中千春

感想・レビュー・書評

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  • インドの多様なトピックが15章に分けて書かれていますが、どれも分かりやすくて面白いです。民族、カースト、宗教、結婚、歴史研究、カレー、芸術など、気になる話題が少し変わった視点から解説されるので引き込まれます。

    以下、個人的に気になったトピック。

    事前にラーマーヤナの再話本を読んで、地域や時代によるバリエーションの多さについては知っていました。そのように固定した解釈がないことから、宗教対立における主張への見方が変わるよね、という視点が面白かったです。

    カースト制度はいろんなところで解説されていて、理屈ではなんとなく理解しているつもりですが、実際にインド人の生活にどう影響しているのかは見えにくいものです。本書では結婚相手募集広告の調査という形で、その一端を見せてくれるが興味深かったです。

    インドでは多数の宗教がありますが、実際の歴史では異教の要素も文化として吸収してきたことがよくわかりました。宗教が対立を生むのではなく、現実の利害関係が先にあって、それが宗教と結びつくという逆の視点を与えてもらいました。

    カレーがいつできたのか。インドといえばカレーというイメージがありますが、最古の記録でも9世紀だというのは意外でした。14世紀のイヴン・バットゥータの記録にも混合スパイスの記述がないなんて予想外です。また、カレー味が南インドから北に伝わったというのも、新しい視点でした。

  • 伝説、宗教、カースト制、食文化、映画等々、誰もがインドを連想し易いトピックを手がかりに、南アジアの文化を紐解く。各章はコンパクトなものの、テーマはそれぞれ明確、知っているようで知っていない事の多さに気付かされる。例えば、近代の反バラモン運動が民族運動に転化した経緯にあって、人々をまとめたのは、階級や民族といった本質的に曖昧な要素より、むしろ言語だったという事情などは、なるほどと思わされた。広大かつ奥深いインド亜大陸を俯瞰する取っ掛かりとして、手に取る価値あり。

  •  まさしくインドを知るためのとっかかりとしては良い本だ。
     インドは海のシルクロードの中心に位置し世界から集まったスパイスがカレーとして南インドから北部に広まり、北からインドに入った遊牧であるアーリア民族が乳製品を持込んだそうだ。菓子やスナックの名称にその名残が残されており、辛いものはドラヴィダ語、甘いものはアーリア語に由来すると。遊牧民であるアーリア人がインドに入ったのが紀元前1500年頃、海のシルクロードは紀元13世紀以降(マルコ・ポーロ以降)だ、なんとも気の遠くなる話だ。
     さて、インドもイギリスとフランス、当時の帝国主義の争いに翻弄される。そんな祖国を憂い、マハトマ・ガンディーが立ち上がる。1947年にインドとパキスタンに分かれて独立が達成されるが、彼の姿はそこにはない。
     二百以上の言語がありまだカースト制が殘るインド、2020年からのコロナ禍、2021年1月から国産ワクチンの接種を開始した。なんとも面白い魅力的な国だ。
     

  • 放送大学のテキストをそのまま文庫化したそうだが、文章だけでも非常にわかりやすく読みやすい。放送大学は働いたり子育てしながらの学生さんが多いだろうし、うっかり放送を見そびれてもきちんと読めば判るような教科書を作るようにしているのだろう。

    南インドを中心にインドの文化について語られる。結婚相手を探す新聞広告から現代の身分制度を考え、その次の章(回)ではインダス文明の話と、章ごとに完結しており様々な観点で飽きない。一章=講義一回分とボリュームが定まっていて、疲れない程度でひとつの話題が納まる。空いた時間に少しずつ読むのにも向いていると思う。
    映画産業と政治のつながりも予想外だったし、ローマ帝国の滅亡により国際交易が盛り下がった結果、インドでは商人などパトロンを必要とする仏教の伝播に大打撃だなんて想像だにしてなかった。とても楽しく読むことができた。

  •  インドについて、主として文化面からトピックを取り上げ、その多面性を語った入門書である。

     『ラーマーヤナ』について考察する第1章から始まり、続く各章では、多言語国家インドにおける言語と民族の関係、カースト制度の具体的内実の解説、新聞の求婚広告から窺えるバラモン社会の流動化の様相が説明される。第5章からは、インダス文字とその解読作業について、寺院壁の刻文研究、インドとスリランカの仏教の歴史、デリー・スルタン朝とムスリムについて、それぞれ論じられる。
     第9章は、東西交流の海上ルートの中継地として発展した南インドについて、第10章はカレー、第11章は西洋画の衝撃への反応として共通の環境下にあったインドと日本の天心その他の画家の交流、第12章は映画に見るインド社会、第13 章はイギリスの侵攻に戦ったマイソール王の奮戦、第14章はインド社会における女性の置かれた位置について、そして最終章はガンディーの独立を巡る運動と理想を論じて幕を閉じる。

     深い研究の成果を平易な語り口で論じた内容はとても興味深く、民族、文化、言語、宗教、歴史等多様性に富んだインド社会における人々の共存はいかにして可能となるのかという問題意識が貫かれている。

     あまり知られることのないインド社会・文化への良き導きとなってくれるだろうと思う。

  • 2023年11-12月期展示本です。
    最新の所在はOPACを確認してください。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00552273

  • 放送大学の講座をテキスト化したものらしいので、一章ごとが簡潔にまとまっておりとても読みやすい。内容も歴史あり民族あり宗教ありカレーあり映画ありガンジーありで入門という名に相応しく、興味あるとこに関する本をもっと読みたいと思えた。

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著者プロフィール

1933年生まれ、東京大学名誉教授、大正大学名誉教授。専門は南アジア史。タミル語刻文研究やカレーの研究で知られ、History and Society in South india(Oxford University Press)によって日本学士院賞を受賞。『インド・カレー紀行』(岩波ジュニア新書)、『インド文化入門』(ちくま学芸文庫)など多数の著作がある。2015年、没。

「2021年 『インド史 南アジアの歴史と文化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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