従順さのどこがいけないのか (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480684103

作品紹介・あらすじ

「みんな、そうしているよ」「ルールだから、しかたがない」「先生がいってるんだから」この発想がいかに危険なものなのか、政治、思想、歴史から解明します。

感想・レビュー・書評

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  • 「服従と不服従に論述の焦点を絞ることで、政治と関わることはまさに人生を生き抜くこと」を伝える若者向けの新書。

    序盤は従順であること、服従することのメカニズムとそれがもたらす利益を説明すると同時に、抵抗することの意義を唱える。第二章では儒教の「諫言」と『葉隠』の教えを対比することで同じ「忠誠心」でもその対象によって大きくあり方が変わることを指摘する。次に現代の「環境問題」「富裕層と貧困層の二極化」「自由の危機」といった社会問題を挙げたうえで、見て見ぬ振りをするという「消極的不正」が公共にとっていかに大きな害となりうるかを指摘する。後半は服従しない根拠(「良心」「共通善」)と抵抗するための術を示すとともに、「不服従の覚悟」が人としてのアイデンティティに繋がり、逆に「権威や多数派に従順であり服従することを貫」くことは"精神的奴隷状態"だと諭す。

    全体に映画、文学、歴史的な哲学者や社会学者たちの言葉や心理学実験の例、そして歴史的な事件や現代の出来事などがふんだんに取り入れられており、理解への大きな手助けになる。個人的には『七人の侍』に登場する島田勘兵衛(志村喬)の「他人を守ってこそ、自分も守れる。己のことばかり考えるやつは、己をも滅ぼすやつだ」という言葉が、昨今の「自己責任」「自助」と効果的に対置されていて印象に残る。また、先述の儒教の教えと『葉隠』との重要な違いについても、主君との関係そのものを重視する日本人らしい思考の好例として興味深い。

    本書が指摘する「不服従」の欠如は、主に現代の日本人に対して向けられていて「政治」に対して消極的な日本社会批判でもある。著者が「同調圧力」「空気」に囚われがだと日本人のありようを糾弾する姿勢は、『津波の霊たち』の著者である外国人記者が感じた従順な日本人への苛立ちと相通じる。また、村上春樹のエルサレム賞授賞式典スピーチ「卵と壁」にある「私は(壁=システムではなく)常に卵の側に立つ」という言葉も思い返される。ある批評家が「壁の側に立つなどと言う人間はいない」といった否定的な見解を述べていたが、例えば日本の現代のさまざまな事件についてネット上に溢れる意見を見る限りは、喜んで「壁=システム」の側に立つ人びとは後を絶たない。

    "精神的奴隷状態"を拒んで「私自身」として生きる苦難を選べきだとする著者の言葉は一部の読み手には活力と誇りを与えるだろう。ただし、本書の5章で例示されるようにナチス・ドイツのような組織に対して抵抗を試みた人びとは、手段を選んでいても最終的には免職や場合によっては命を落とすなど、その多くは現実的に多大な不利益を被っている。著者がいう同調圧力の強い日本社会ならなおのこと、会社のような組織のなかで「不服従」を貫くことも様々な現実的な労苦を伴うことは想像に難くない。場合によっては組織に居づらくなったり、さらに最悪なケース(例えば公文書改ざん事件)も考えられる。それを措いても公共的な「共通善」のために必要な抵抗を行動に移す人びとが少しでも増えること以外、社会全体が変わることはありえないのだろう。若者向けの新書だが求めるところは重い。

  • バ先の教室長に反抗しようと思って読みました笑。行動が重要なことはよくわかった。けど、リスクは伴うよねえ。

  • 従順に考えて行動していくと生じるデメリットに関して「なるほど」と思う内容が参考になりました。

  • 一気に読めるくらい読みやすく、面白く、しかも頭の中を整理できる。
    私個人は「わきまえない女」なので、上にも人事にもずいぶん睨まれてるけど、勲章ぐらいにしか思ってない。そういう人間が組織には必要だから。ただ、なぜそうすることに意味があるのかを、筋道立てて子どもにわかるように説明するのは難しいなぁと思っていた。この本は、ちょうどそのニーズにはまった。
    取り上げられている映画や小説、ドラマも(「必殺仕事人」とか。菅江きんさんが好きで見てた。懐かしい。)面白そうで興味を惹かれる。
    直接の内容からは逸れるけれど、『日の名残り』の説明は「そうかー、そういう話だったかー」と納得。というくらい、自分が読みこなせてなかったことに気づいた。恥ずかしい。後でもう一回読んでみよう。そして『浮世の画家』と読み比べてみよう。

  • いろいろ気をつけて生きよう。

  • 長い物には巻かれたい主義の自分にとっては、かなり耳痛い内容だった。全ての主張に同意できる訳ではないが、少なくとも「現状維持のために思考停止に陥らないこと」「己の良心や『共通善』について(正解はないとしても)考え続けること」は有権者として心に留めておきたいと思った。

  • 面白かった。
    従順でいることのデメリットや社会的影響を説きつつ、本題は政治に興味を持ち参加しよう、という話だった。
    たしかに、大人しくしておけば面倒なことにならずに場が収まるのに…とか、黙って従ってればいいのに…とか、悪いことが起こっても見て見ぬふりをすることはよくある。小さいことなら仕事でモヤモヤしつつ発言しないとかがある。そうすると望まない方向に決まってしまうし、発言しなかった自分が悪いと思う。

    本書では、何に従うのかという文脈で、神の声、自分の良心、共通善という3つをあげているが、結局神は人間が作り出したものであるし、自分の良心はその時々の時代によっても考え方が異なると思うから、本当にその時の判断や従うものが自分にとって、世界にとって良いことであるのかは分からないなと思った。アイヒマンだって戦争の結果が違ったら英雄とされていた可能性はないのか?
    また、この本では服従しないことを勧められているが、過去の例を見ると服従しないということは命の危険に晒される場合が多いということ。果たして権力に服従して生きながらえるのか、権力に服従せず死ぬのか、どちらが良いのだろうか。

    ただ、小さなところから始められることとして、仕事の会議で恥ずかしがらずに自分の意見を言うことから始めたい。
    意見を言うこと、服従しないとこは恥ずかしいことではない。

  • 自身の良心に従い、自身の意見を表明することの大切さを説く本。

    歴史的事実や映画などを題材に自分の意見を述べることで事態が好転していく可能性があることを力説している。筆者の膨大な知識量に圧倒されて、個人的にはかなり勉強になった。歴史を単に事実の集合体ではなく、筆者のように立体的に捉えられたら良いと思う。巻末に書いてあるが、ここで触れられている映画は近々見てみたいと思った。

  • 耳が痛いけれど読んでおくべき本(すべてに賛同する必要はないが)。御しやすい子供やおとなしい人というのは周りの人間にとって便利で褒められたりするけれど、それが本人にとって…または社会全体にとって良いこととは限らない。何に忠実でいるべきかを自分に問い続けなければならない。

    アリストテレスが「適切な対象に対して、適切な時に怒りの感情を持つことは称賛に値する」と論じているのは初めて知った。

  • コロナ禍の現代、同調圧力の強さをあらゆる場面で見聞きすることが多くなり、自分の考えを表に出すことが何故か不遜なことだとする風潮がある.政治について語ることも少なくなってきており、団塊世代の小生としては学生時代に戻って語り合いたいと思うこの頃です.問題意識を常に持つことの重要性を教えてくれる好著です.

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著者プロフィール

1967年神奈川県横浜市生まれ。ニュージーランド・オタゴ大学教授。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。シェフィールド大学大学院歴史学博士課程修了(Ph.D)。ケンブリッジ大学クレア・ホール・リサーチフェロー、英国学士院中世テキスト編集委員会専属研究員等を歴任。専門は政治思想史。著書にOckham and Political Discourse in the Late Middle Ages(Cambridge University Press)、『ヨーロッパ政治思想の誕生』(名古屋大学出版会、サントリー学芸賞)、『言論抑圧』(中公新書)、『愛国の構造』(岩波書店)、『日本国民のための愛国の教科書』(百万年書房)、『従順さのどこがいけないのか』(ちくまプリマ―新書)等がある。

「2022年 『愛国の起源』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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