ねにもつタイプ

著者 :
  • 筑摩書房
3.85
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本棚登録 : 896
感想 : 178
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480814845

作品紹介・あらすじ

観察と妄想と思索が渾然一体となったエッセイ・ワールド。ショートショートのような、とびっきり不思議な文章を読み進むうちに、ふつふつと笑いがこみあげてくる。

感想・レビュー・書評

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  • 岸本さんのエッセイ最新作の『ひみつのしつもん』(筑摩書房)を読むのがとても楽しみで、そのわくわく感を高めるために前2作のエッセイ集を再読することに。
    以前は文庫で読みましたが、今回はハードカバー。

    幼少期の思い出を綴ったエッセイは、子供ならではの感覚と岸本さんならではの妄想力ににやり。
    ときどき、心のノスタルジックな部分をくすぐられて、ちょっとだけ切なくなったりもするのです。
    大人になってからの出来事を綴ったエッセイも、頭の中で繰り広げられるシュールな展開に笑わされます。
    トイレットペーパーを補充するときに、戸棚に残った最後の1つを奥に置いたままにするか、手前に出して新しいものを奥からつめるか…という日常の一コマがなんでこんなにおもしろくなっちゃうのか!
    しかもそのエッセイに「生きる」というタイトルをつけるセンスに、またまたにやり。

    1つ1つのエッセイに添えられた、美麗かつシュールなクラフト・エヴィング商會の挿画もすばらしいです。
    余白までも魅せる感じがたまりません。

  • またしてもくせになりそうな作家さんに出会えました。
    最初の数節は、なんてことのない日常をおもしろく切り取るエッセイストってやっぱりすごいな、程度のありきたりな感想だった。
    次第にそのひねくれた発想、とめどない妄想、良い意味でくだらないことば遊びの虜に。
    また、奇遇なことに挿絵がクラフトエヴィング商會さん。

    読み終わって思い返すとほとんど何も思い出せない(それぐらいどうでもよくて中身のない話)のだが、読んでいるその一時は含み笑いを堪えられないくらいの心の潤いを与えてくれる。
    まるで一人漫才。

    こういう誰も傷つけない(けど自虐で自分は傷ついているのかな?だとしたらごめんなさい)笑いのテイストはものすごく好き。

  • ショート・ショートと呼べるくらいの3ページの短いエッセイが約50編。クラフト・エヴィング商會が挿絵を書いている。エッセイの内容は、妄想である。他の人にとってはどうでも良い、時に意味不明の内容。しかし、なぜか、後をひくような面白さで、つい読み進めてしまう。感想はほとんど書きようがない。

    「かげもかたちも」という題のエッセイに出てくる、Oという私鉄は小田急のことだ。小田急とはどこにも書いていないけれども、新宿から遠く箱根の方まで延びているO線、という表現がある。筆者は幼稚園に上がった年からこのエッセイを書いた時まで、数年間を除いて、ずっと小田急沿線に住んでいたと、このエッセイに書いている。このこと自体が妄想という可能性はあるが、Wikiによれば、岸本佐知子さんは、世田谷区の社宅で育ったと書いたあったので、この部分は事実なのだろう(もちろん、京王線や田園都市線や、あるいは、私鉄沿線に住んでいたこと自体が妄想という可能性は残るが)。
    S駅近くの線路際にボクシング・ジムがあり、電車に乗るたびに、それがとても気になったと書かれている。
    私も通勤に小田急線を利用している。今はコロナ禍で在宅勤務も多くなったが、その前は基本的に毎日小田急線を利用しており、都合15年くらいは使っていたはずである。しかし、そのボクシング・ジムがどこか思い浮かばない。あったような気もする。「S駅」の近くであると書いている。新宿から言えば、参宮橋・下北沢・祖師ヶ谷大蔵がS駅、それを過ぎたS駅(例えば相模大野駅)は既に世田谷区ではない。とても気になる。何だか、次に通勤で小田急線に乗った際には、3つの駅それぞれでボクシング・ジムを認める、という妄想を見る気がする。

  • 『ねにもつタイプ』読了。
    翻訳家、岸本佐知子氏の初のエッセイ集。やっと1巻目に辿り着いた(誤って3巻目から読んでしまったので過去に戻る形で読み続けていた)面白かった。あらゆるものを擬人化し綴られる妄想のようなエッセイ。そして1巻目からオリンピック嫌いが綴られていてめちゃくちゃ笑った。

    2022.9.10(1回目)

  • 以前から気になっていた岸本佐知子さん。
    やっと手にとりました。いやぁこの感性!たまりませんね。

    何か目の前にやらなければならないことがある時、我知らずして勝手にアタマが何度も何度も逃避してしまうことはみんな多々ありますでしょうが、その現象をこんなにもいっぺんのドラマのようにこと細かく記述し広がりを見せてくれる人はそういないでしょうね。他のエッセイも読んでみたくなりました。

    文章の味わいがちょっと北大路公子さんを彷彿とさせます。
    こちらは酔いどれていらっしゃいませんが、変人振りでは相当いい勝負になると思います。

    挿絵も装丁もとっても素敵。文章の雰囲気にとても合っていて内容を盛り上げてくれます。

    • 九月猫さん
      ruko-uさん、こんばんは♪

      私も気になっているんです、岸本佐知子さんのエッセイ。
      読みたいと思いながら、なかなか(^^;)
      ア...
      ruko-uさん、こんばんは♪

      私も気になっているんです、岸本佐知子さんのエッセイ。
      読みたいと思いながら、なかなか(^^;)
      アンソロジーで読んだときに北大路公子さんみたい?と思ったのですが、
      ruko-uさんのレビューで、印象に間違いなしと安心しました(笑)
      ありがとうございます♪
      あっ、でも酔いどれてはいらっしゃらないのですね(≧▽≦)
      2014/03/27
    • ruko-uさん
      nyancomaruさん、コメントありがとうございます。

      nyancomaruさんはきっと岸本さんの訳書や他のエッセイも読まれたことが...
      nyancomaruさん、コメントありがとうございます。

      nyancomaruさんはきっと岸本さんの訳書や他のエッセイも読まれたことがあるのですね。
      機会があったら他のエッセイも読んでみたいと思う楽しみな作家さんを見つけられて嬉しいです。
      2014/03/27
    • ruko-uさん
      九月猫さん、コメントありがとうございます。

      九月猫さんも北大路公子さんみたい、と思いましたか!仲間がいて嬉しいです♪
      ちょっともしか...
      九月猫さん、コメントありがとうございます。

      九月猫さんも北大路公子さんみたい、と思いましたか!仲間がいて嬉しいです♪
      ちょっともしかすると私と九月猫さんは感じ方も似ているのでしょうか?

      こうなったら酔いどれた?岸本さんの文章も読んでみたいものですね(笑)
      2014/03/27
  • んもー、すっごくよかった。これがエッセイなら、今まで読んだ「エッセイ」の中でベストかもしらん。
    日常を描いている普通のエッセイではなく、ほぼ妄想。
    第一話(ってあえていいたい)は、幼いころ手放せなかった毛布のことを書いた「ニグのこと」。
    これでもういきなりやられました。
    ライナスの毛布的な話ってよく見かけるけど、「ニグ」との交流のなまなましさは、もう読んでて自分が子どもの頃に戻ってしまったような気になる。
    ほかも、ほとんどが子どものまんまのような、鋭くて些末でバカバカしくて美しい感性全開。
    しかもどこかドライでユーモアがあって。
    クラフト・エヴィング商會の挿絵もとてもぴったり。
    読んでるとなんだか知らないけど妙に落ち着いて、ちょっとだけ楽しい気持ちになる。
    手元に置いておいて、時々ぱらぱらめくりたい、と思うふしぎな本でした。

    不勉強なもんで、なんとなく名前に見覚えがある、というくらいの認識でしたが、ショーン・タンとかの翻訳家の方なんですね。
    エッセイの棚にあると岸本葉子さんとうっすら混同してたりしてオレのバカ。
    いやー、久々にすっごい好きな感性の人を見つけてしまいました。うれしい。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ほぼ妄想。」
      人って多かれ少なかれ、何かチョッと外れてしまってる部分が有るとは思うけど、、、この方は←これに続けく褒め言葉が思いつかない、...
      「ほぼ妄想。」
      人って多かれ少なかれ、何かチョッと外れてしまってる部分が有るとは思うけど、、、この方は←これに続けく褒め言葉が思いつかない、、、サイコーです。そんな訳で岸本佐知子が訳す本にも目がありません。。。
      2013/08/17
  • 翻訳家の岸本佐知子さんのエッセイ。

    岸本さんの訳す海外小説が風変わりで面白いものばかりなので、そんな彼女の書くエッセイは面白いに違いないと、読んでみました。

    予想どおり、抱腹絶倒の面白さ。
    創作小説のような脳内妄想に爆笑し、鋭い洞察力に脱帽する。
    さすが翻訳家だけあって言葉の扱いが巧みで、するするとあっという間に読了。

    読後感は、夢の残滓が脳みそにまとわりつく感じ。
    今見たばかりなのに内容を忘れてしまった夢に似て、もやもや感が残るような心地がたまりません。

    脱力系のへんてこな味わいがお好きな方に、お薦めです。

  • 岸本さん二冊目。気になる部分を読んだときも衝撃を受けたけど、相変わらず面白い。しかし彼女のエッセイを読んでいると、まともな社会生活が送れているのかしらとはらはらする。あまりにもシュールなので(彼女ほど「シュール」の言葉が正しく当てはまる話は書けまい。ノンフィクションなのに)後にひかず、漠然と面白かった、の印象しか残らないのもすごい。というか怖い。本当に別世界で生きているのかもしれないね。そこにないものについて語りまくり、何のフォローもなく話が終わるのでぞっとする。といいつつもはや怖いもの見たさで読んでしまう魅力(?)が。某月某日で始まる日記のエピソードでなにかじわじわくるものがあったんだけどなんだったかなあ……

  • 最高。最高のエッセイ。笑えてちょっと不気味。たまらん。買います。
    「ゴンズイ玉」「夏の逆襲」「フェアリーランドの陰謀」「毎日がエブリデイ」あたり、たまらんです。
    「夏の逆襲」冒頭、「夏が好きだ。夏でなければ嫌だ。」でノックアウトされました。最高。

  • 岸本さんのエッセイのことを知った。ちょうど「中二階」を2/3ほど読んで、梃子摺って居たので、コレを訳した人って、という好奇心が、やっぱりねと言う嬉しい納得。
    「中二階」は1ポイント小さくした注釈が本文に挟まって、その短いのやら長いのやらの終わりまで読んでいると、前の文章の尻尾をやっと捕まえる、そうしているうちに何か気がそれて、読み終わらないままになっている。この面白い内容と形を岸本さんが訳したのか。そういえばウィンターソンも三冊読んだ、この訳もそうなのか、ぶっ飛んでいながら、なにしろ深くおもしろかった。
    そこで岸本さん研究にまとめて三冊積んでみた。すぐに読んでしまったので記録をと思ったら。、どうも長くなりそうなので 一冊ずつにした。
    面白くておかしくて、読んでいるとお腹の皮がひくひくしてくる。それが胸から喉元に来て、声に出たときは実にやばい。

    翻訳中に文字が気になってくる「人間」、、人の間って?
    身近なものに名前をつけて友達になる冒頭の「ニグ」
    足踏み式のミシンを見つけその構造を探る「マシン」、、、「中二階」のホチキスやエスカレーターの詳細描写を思い出す。
    ロープウエイが風呂だった、雄大な風景を見ながらすれ違う箱に手を振る。
    「ちょんまげ」と「月代」考 殿様のはげ隠しに家来が倣ったのかも、と言うのがおかしい。わはは
    「Don’t Drean]を訳さないといけないのに「コアラの鼻」が気になって、アレは湿っているのか、新幹線の先に似ていてどちらもねじれば外れるだろうか。云々かんぬん コレは最高!
    「生きる」、、、新しいトイレットペーパーが来て積み上げようとした、ひとつだけ残っていたのが奥に押しやられそうになった、そのときの先住のトイレットペーパーの嘆き。
    翻訳家になりたいと言う人に「とりあえず普通に」という。会社勤めの数々の失敗や笑えない悩み、コレは経験しておいたほうがいい、とりあえず。
    事件のづきは何で判で押したように「むしゃくしゃして」なんだろう。尋問中の刑事は最後にむしゃくしゃしてと記入。犯人は「いや」「そのうむしゃくしゃして?」などと言葉に詰まったら、訳の判らないことを話しており、と記入。訳のわからない、そこのところが知りたくなる。

    などなど、読んでいても脳みそのシナプスがあっちへへろへろ、こっちへへろへろ伸びて揺れて引っ付いて、現実が過去の思い出に通じたり行き詰ったり、よじれていても暖かい気持がふんわり膨らんだり。日ごろからの疑問の回答はこんな形でもよかったのかと深くうなずいたり。気持ちよくなったりちょっと変になったり、入ってしまったが出口に迷ったり。面白くてやめられない岸本言語。そして、とどめの一言で我に返ったり帰らなかったりする。

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著者プロフィール

岸本 佐知子(きしもと・さちこ):上智大学文学部英文学科卒業。翻訳家。主な訳書にルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』、ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』、ニコルソン・ベイカー『中二階』、ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』、リディア・デイヴィス『話の終わり』、スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』、ジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』、ショーン・タン『セミ』、アリ・スミス『五月 その他の短篇』。編訳書に『変愛小説集』、『楽しい夜』、『コドモノセカイ』など。著書に『気になる部分』、『ねにもつタイプ』(講談社エッセイ賞)、『なんらかの事情』、『死ぬまでに行きたい海』など。

「2023年 『ひみつのしつもん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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