皇帝ハイレ・セラシエ: エチオピア帝国最後の日々

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480852977

作品紹介・あらすじ

1974年、エチオピア革命。約半世紀にわたって君臨した皇帝が廃位されると、著者たちは現地へ飛び、隠れ暮らす宮廷の元召使たちにインタビューを重ねる。ドア番、足台係、皇帝の愛犬の小便係、忠臣の財布運び係…。彼らの素朴な言葉から、他人を誰も信用せず、自ら張りめぐらした諜報網の中、ひたすら権力に執着した独裁者の素顔が、浮き彫りにされてゆく。3000年の飢餓と貧困の上に立った独裁から革命への日々をよみがえらせる戦慄のドキュメント。

感想・レビュー・書評

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  • まるでおとぎ話を読んでいるような。

    エチオピア最後の皇帝ハイレ・ソラシエの身近に仕えた人々が主観のみで語っているため、
    私にはそれぐらい浮世離れした話だった。
    いや、現代離れか。

    全く学校教育を受けず、読書の習慣もなく、書類も読まず、驚異的な記憶力を持つ皇帝。
    口頭で物事を伝えさせ、聞きたいことだけを聞く。
    不明瞭な言葉で指示を出し、良い結果は皇帝の物に、悪い結果は書記大臣のせいに。
    帝国内の10ドル以上の支出はすべて承認が必要とし、
    早朝の散歩の最中に告げ口を聞き、
    能力よりも忠誠心、卑屈さをもって臣下とする。

    しかし、
    皇帝以前のエチオピアは、
    軽犯罪にも手足を切り落とし、殺人の告発には肉親による内臓えぐりだす、
    薬で酔っぱらった男の子に泥棒の指摘させ、
    軍隊で町ごと取り囲んでの違法行を摘発するといった
    残虐な習慣がはびこり、奴隷貿易が横行する前近代国家だったらしい。

    そこに、電気、自動車、銀行、新聞といった文明を持ち込み、
    若者を海外留学させたことが、帝国終焉の遠因となったあたりは、
    啓蒙主義によってパンドラの箱を開けたという
    ロシアの女帝エカチェリーナ2世を彷彿させる。

    そして、
    そんな皇帝を無条件に崇めていた語り手たちを、
    愚かだと決めつけることができない自分がいる。
    現人神を崇めていた戦前の日本人もこれに近かったのだろうか。
    私は、自分を取り巻く現状に、常識に、時代の流れに抗って、
    自己の頭で考えることはできているのだろうか。

    本当に側で世話をしていた人たちの言葉だけで、
    なんの解説も、なんの考察もないが、
    皇帝の横顔がくっきりと浮かび上がる不思議な作品だった。

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