戦地の図書館 (海を越えた一億四千万冊)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488003845

感想・レビュー・書評

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  • 第二次世界大戦時、アメリカが行った戦地の兵士へ図書を送った活動「国家防衛図書活動」の詳細をレポートしたノンフィクション。
     その事実の興味深さ、深遠な意図と効果に驚かされるが、史実を淡々と綴っただけで、やや面白味に欠ける。洋の書物にありがちな、事実をひとつひとつ積み上げて全体論を構成する、学術論文的な内容。

     ナチス・ドイツが焚書を行うシーンで物語はスタートする。ヒトラーの命で一億冊を超える書物を葬り去ったナチスに対して、アメリカは、戦地の兵隊にpaperbackを送り続け、その数はナチスが燃やした冊数を超える一億四千万冊だったというのが大筋。
     その国家防衛図書活動がいかに立ち上がり、市民が賛同、やがて軍の正式プロジェクトになり、出版界も協力し行軍携行に適したpaperback“兵隊文庫”が生み出されていく経緯が史実を積み上げ記される。さらには、そうして戦場に送られた書物によって、兵士たちがいかに慰められたかというお話だ。

     面白いのは、焚書を行ったドイツ、いやヒトラーも、兵隊文庫を戦場に送り続けたアメリカも書物の力を理解していたという点か。「本は武器」と考えた時、どういう行動にでるか、その裏表を対比させて描き出したのは巧いところだろう。
     非ドイツ、非ナチスな書物、思想を封じ込めようとしたナチス、書物の力を信じ兵士の士気を高める手段に利用したアメリカ、まるで寓話の『北風と太陽』のような話だ。
     とは言え、アメリカの「兵隊文庫」にしても、それに採用すべき書、すべきでない書の選別は行われていたというから、両者とも根の所は同じというのも、ちょっと暗澹とするところか(しかしアメリカは、それが思想統制にあたるとし、出版界が選別を止めさせるという健全さがあったとは記されている。ま、アメリカ人の著者だからね)。

     戦地で兵隊文庫を回し読む様子、待ちきれず終わったページから破いて渡していったというエピソード。連合軍内で、米軍のこの兵隊文庫を羨ましがる英軍兵士の様子も可笑しい。
     さらには、徴兵され戦地に赴くまで書物など手にしなかった兵士が、戦場の過酷さの逃避行先として書物を手にするようになり、知識を得て、その後、復員後は就職の一助にもなるという効果のほども丁寧にフォローして調べ上げているところは本書のすごいところ。
     「兵隊文庫」は戦場での余暇以外に、兵士の教養を磨き、戦後の学習意欲や職業選択の幅を広げ社会復帰の助けになったとは、あまりの美談に鼻白むところもなきにしもあらずだが、ここは純粋に読書のすばらしさ、書物の尊さ、知識を得ることの大切さを「兵隊文庫」を通して示していると理解しておこう。
     なにより、書物の役割として、戦場で兵士の精神状態の平衡を保ったという点は大きい。この証言が印象深い。

    「兵士は人を殺す訓練を受け、前線では筆舌に尽くしがたいほど残忍な行為を目の当たりにした。しかし、「私たちの軍の兵士は、本を読むという行為をしているのだから、(まだ)人間なのだ、と思うことができました。」

     ならば、と考える。
     本を読んで人間性を取り戻せるなら、この「兵隊文庫」の活動は、各国、各軍がそれぞれに行うのでなく、国連が戦争当事国の両軍に対して書物を送り付け、殺し合いの愚かさ、浅はかさを気付かせるようにするべき行動じゃないのかな?
     「兵隊文庫」を、アメリカだけにさせておく理由はない。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784488003845

  • ナチスドイツは1億の書物を焼いたが、連合軍は1億2千万の書物を戦争に持ち込んだけど

    という題目から始まるノンフィクション作品。
    舞台は1940年代のアメリカ軍。

    題字の通り、ナチスドイツは軍事的侵攻のみならず文化を侵す思想戦も繰り広げられており、それによって生じたプロパガンダも一因となり、フランスも破れてしまった。
    それに対抗するため、アメリカの図書館司書を始め、市井の人々、そして軍、国家が立ち上がったというホントのお話。

    思想戦対策と言うこと以上に兵士からは貴重な癒しとして歓迎されていたようです。

  • 第二次世界大戦。それは各国の武力同士の衝突であり、そしてもうひとつ。思想と政治、社会、経済、精神の戦いでもあった。
    ナチスドイツは大戦終了までに焚書と発禁によってヨーロッパ中から一億冊以上もの書物を消し去り、憎悪と荒廃をもたらした。一方アメリカでは、国民から寄贈された書籍や、新たに発行したペーパーバックを世界中の戦地に送り続ける図書運動が展開された。
    ヨーロッパ戦線、アフリカ戦線、太平洋戦線。戦いに次ぐ戦いの中で、米軍兵士たちは、読書に慰めを見出す。
    戦友を失い、自身も負傷や病に倒れ、そうでないものは頭上で砲弾が飛び交うなか、塹壕で泥まみれとなる日々。故郷の記憶は遠く、家族の顔も思い出せずに、戦場で心を擦り切らせた若き兵士たちが書籍を開けば、そこに故郷を見出すことができた。

    書籍は思想や知識の宝庫であり、それが兵士、弾丸、航空機から原子爆弾まで投入された大戦の、もうひとつの武器となった。戦い続ける兵士の心を支え、平和を願う心を育てた。かくも大規模に展開されながら、戦後には忘れられた “図書作戦”の全貌、本が持つ力に光を当てたノンフィクション。

  • 第二次大戦中、米軍には兵隊文庫があったという。
    ナチスの焚書と対局にあるような体制。現在のペーパーバックの普及にもなったという。

    米国って、いろいろとすごいなあ。連合国の中でも特殊だったようです。

    ともあれ、対日本軍の戦いは米国にとっても過酷だったようです。
    いろいろと思いを馳せる本でした。

  • 第2次大戦中にアメリカ本国から最前線で戦う兵士たちへ向けて送られた本について調べられた労作。

    特に、「兵隊文庫」と言われる、兵士たちのためだけに編集された本は、アメリカの出版のあり方にも大きな影響を与えたといわれる。

    「戦場のコックたち」(深緑野分)にも出てくる「兵隊文庫」。その「兵隊文庫」がどんな経緯でできたもので、どういうものだったかがわかった。

  • 1933年ナチス・ドイツは最も大きな愚行を行った。焚書、ゲッペルスの指示で、非ドイツ的な思想で書かれた本を焼いたのだ。これは何度も行われ、町中や学校においても、多くの本が運ばれて来て炎の中に投じられた。ヒトラーが「我が闘争」という本を書いて、自らの思想を国民に訴え、国民を動かし、政治的に成功したにも関わらず、今度はその本を焼くことで、都合の悪い思想を抹殺できると考えたのだ。
    これにアメリカが真っ先に対抗した。
    アメリカ軍では戦地で戦う兵士たちが活字に飢え、本を読みたがっており、読書が戦地のひどい環境や、苦しい戦いのことを少しでも忘れさせてくれるため、士気の高揚に役立つことを知った。戦地において文字に親しむこと、それがナチス・ドイツに対抗する力になることがわかったのだ。
    初めは戦地の兵士たちに送る書籍の寄付を集めることからはじまった。しかし、普通のハードカバーがかさばり、ただでさえ荷物の多い兵士には適さないものだとわかると、兵士の胸ポケットや、尻のポケットに収まる大きさのペーパーバックが開発された。それは「兵隊文庫」と呼ばれ、無料で兵士たちに配られることになった。
    兵隊文庫はたちまち兵士たちの間で人気となり、兵士たちは塹壕の中で読み、負傷して横たわる野戦病院のベッドの上で読んだ・・・。
    第二次大戦におけるアメリカという国の懐の深さ、徹底ぶりをまた知る。

  •  一気に読み終えた本
     アメリカの兵士に書籍を送る活動が最初に行われたのは南北戦争の時だった.
    第二次世界大戦、1940年にはその本の数はずっと少なくなってた。そんな中、すべての訓練基地に図書館と娯楽施設を建設するという計画を立て、その計画を大きく動かしたのは、レイモンド・L・トラウマン中佐だった。
     1942年国家防衛図書活動が立ち上げられ、1947年に兵隊文庫プロジェクトは終了した。この間1億4000万もの本が米軍の兵士に届けられた。
     戦争中の兵士は、娯楽が必要であり、その有用性は政府も認めていた。このような中で兵隊文庫は大きな役割を持つことになる。あるものは家族にさえ示せなかった気持ちを本の著者に手紙で送り、著者から返信が来たり、蛸壺(塹壕)の上を戦車や銃弾の飛び越える中本を読むことで精神の安定をはかったりすることができた。
     また復員後の兵士には大学への進学が許され、彼らは熱心に勉強し、他の学生に平均点をあげる奴と揶揄されるほどだった。これは兵役中に読んだ本の影響が大きかった。
     一方、ドイツではヒットラーによる“書物大虐殺”が行われ、多くの本が灰と化した。ヒットラーは読書家で、本が及ぼす影響を知っていたからだとされた。
     
     本を読む時代・環境でその感想が違ってくる。いわゆる名作とよばれる本はどのような環境にあっても感動や感銘を受ける本なのだろうと感じた。又同時に本が作られ、どんな人たちがその本を読み語り継がれてきたのか――背景を知ることも重要だと感じた。
     第7章には日本の戦争が書かれており苦しかったが、兵隊文庫が兵士に対しどんな本がほしいかという、ご意見募集のくだりが書かれており救われた(引用参照)。
     この本を読んで知らないことが多々あるのを知った。ナチスの本の焼却、アメリカの世界各地への派兵、本国復員兵士の処遇、日本の兵隊文庫など。自分の無知さに少し凹んだ。
     改めてこの本を見てみて、表題の文字列が逆三角形になっているのに気がついた。きれいだなと思う。

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