湖畔荘〈上〉

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010713

作品紹介・あらすじ

ロンドン警視庁の女性刑事が、女児を置き去りにして母親が失踪というネグレクト事件に関わり問題を起こし、謹慎中にコーンウォールの祖父の家近くで、打ち捨てられた屋敷?湖畔荘を偶然発見する。そして70年前にそこで赤ん坊が消える事件があり、迷宮入りになっていると知る。興味を抱いた刑事は謎の赤ん坊消失事件を調べ始めた。かつてそこで何があったのか? 仕事上の失敗と自身の問題と70年前の事件が交錯し、謎は深まる!

感想・レビュー・書評

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  • ケイト・モートンの魅力的な作品、4作目。
    女刑事が見つけた古いお屋敷には‥?
    70年前の事件が紐解かれます。

    ロンドン警視庁の刑事セイディは、担当事件でルールを逸脱して謹慎となり、コーンウォールの祖父の元を訪れます。
    森の奥を散歩していて、湖の畔に、忘れられて眠っているような美しい家を見つけました。
    かってエダヴェイン一家が暮らし、末っ子の乳児が行方不明になって、未解決のままだという。

    エダヴェイン家の主アンソニーは学者肌の男性。
    1910年代、妻のエリナの娘時代にまで話はさかのぼり、生き生きした少女が現れます。
    時代を行き来するように描くのは、モートンの真骨頂、ややこしい展開もうまく繋げています。

    1930年代、長じてすっかりレディになったエリナが取り仕切る館には、デボラ、アリス、クレミーという3人の娘と、末っ子の幼い男の子セオがいました。
    エリナの口うるさい母親や、亡き父の友人である作家、若い庭師や乳母など。さらに、年に一度だけ大きなパーティーを催すその日には、大勢のお客が集まってきます。
    そこで、事件が‥
    次女のアリスは多感な文学少女。すべてを見通していたつもりでしたが、高齢になってから、思わぬことを知らされ‥?

    事態は動き出します。
    上巻の手がかりから予想されることは、どう覆され、どう繋がるのか。
    シーンごとの丁寧な描写が美しく、時には夢のよう。
    うっとり堪能しつつ、真相はさっぱりわからないまま、下巻に突入ですよ。

  • <上下巻併せての評です>

    とにかく再読すること。一度目は語り手の語るまま素直に読めばいい。二度目は、事件の真相を知った上で、語り手がいかにフェアに叙述していたかに驚嘆しつつ読む。ある意味で詐術的な書き方ではあるのだが、両義性を帯びた書き方で書かれているため、初読時はミスディレクションが効果的に働き、よほどひねくれた心根の持ち主でなければ、正解にはたどり着けないように仕組まてれいる。しかし再読すれば、いくつもの目配せがあり、伏線が敷かれていて、読もうと思えば正しく読めたことをことごとく確認できる。ここまで、フェアに読者を欺く書き手にあったことがない。

    ウェルメイド・ミステリという呼び名があったら是非進呈したい。最初から最後までしっかり考え抜かれ、最後にあっと驚かせるしかけが凝らされている。上下二巻という長丁場だが、二つの大戦をはさむ1930年代と2003年、ロンドンとコーンウォールという二つの時間と空間に魅力的な人物を配置し、失意の恋もあれば道ならぬ恋もあって、最後まで飽きさせない。特に上巻末尾には、絶対に下巻を読まさずにおくものかという気迫に満ちた告白の予告が待ち受けており、これを読まずにすますことのできる読者はいないだろう。

    主たる舞台となるのは、コーンウォールの谷間に広がる森に囲まれた土地に建つ、土地の方言で「湖の家」という意味の<ローアンネス>と呼ばれる館。もとはジェントリーが所有する広壮なマナーハウスの一部であったが、本館が火事に遭い、残った庭師頭の住居を修復して子孫が住むようになったものだ。1933年当時そこに住んでいたのは、アンソニーとエリナ夫妻に、デボラ、アリス、クレメンタインの三人姉妹、末っ子のセオドア、エリナの母であるコンスタンスというエダヴェイン一族。夏の間は祖父の旧友でルウェリンという物語作家が滞在している。

    ミッド・サマー・パーティーの夜、皆に愛されていた弟のセオがいなくなる。まだ歩きはじめたばかりの赤ん坊が一人でいなくなるはずがない。事故か誘拐か、地元警察はもとより、スコットランド・ヤードの刑事も加わって捜査されたにもかかわらず、セオは見つからずじまい。以後悲劇の舞台となった<ローアンネス>は封印され、一家はロンドンに引っ越す。もともと森の中にあった敷地は訪れる者とてないまま、繁り放題の樹々に囲まれて静かに眠り込んでいた。

    その眠りを妨げたのがロンドンから来た女性刑事セイディ。個人的事情から担当中の事件に感情的移入してルールを犯し、ほとぼりがさめるまで祖父バーティの住むコーンウォールに長期休暇中だった。日課となった犬とのランニングの途中、敷地内に残る古い桟橋に足を取られて身動きとれなくなった犬を助け出した時、館を見つけた。敏腕刑事であるセイディには、当時のまま時を止めたかのように息をひそめた館には何か隠された秘密のあることが感じとれた。調べてみると過去の事件が明らかになる。

    館を相続しているのは次女のアリス。今ではA・C・エダヴェインという有名なミステリー作家だ。未解決事件の捜査のため家を調べる許可を求める手紙を書いたセイディに許可が与えられたのはしばらくしてからだった。アリスは、この年になって姉のデボラからとんでもない事実を知らされ、長年自分が思い込んでいたのとは全く異なる家族の秘密を知り、あらためて事件の真相を知りたくなったのだ。助手のピーターの勧めもあり、自身もコーンウォールに足を運んだアリスを待ち受けていたのは、思いもよらぬ結末だった。

    冒頭、ケンブリッジ出の学者肌の父、てきぱきと家事を取り仕切る美しい母、結婚が決まり社交界デビューも近い長女、物語作者を目指す次女、飛行機に夢中なお転婆の三女、愛らしい弟で構成される裕福な家族が、自然に囲まれた美しい湖畔の家で楽しく暮らす様子が英国風俗小説そのままにたっぷりと描かれる。十五歳になったアリスは、庭師募集の広告に応じて現れたジプシー風の若者ベンに夢中。完成したばかりの処女作をベンに捧げ、愛を告白する予定だった。ふだんは余人を避け、ひっそりと暮らす夫妻が年に一度、三百人の客を招いて行う夏至の前夜祭のパーティーの夜、事件は起きた。

    ミステリの要素は濃いが、読後感じるのはむしろ普遍的な主題である。これは母と子の物語であり、戦争の災禍の物語である。主人公の女性は十代で娘を産み、養子に出した過去を持つ。それについての罪悪感が災いして、幼児遺棄の事件に関して過度に反応し失職の危機に遭う。意志に反して子どもと別れなければならなくなった母親のあり方について深い考察がめぐらされている。また、人類が初めて遭遇した大量殺戮である第一次世界大戦時における兵士のPTSD、当時はシェルショックと呼ばれた戦争後遺症についても、その非人間性が静かに告発されている。

    ミステリ作家であるアリスの口を通じて、今は懐かしい「ノックスの十戒」が引き合いに出されているのも忘れ難い。犯人は最初から登場していなければならない、とか秘密の通路は一つに限る、とか作家としての自戒が、いちいち本作に用いられているのが律儀と言える。フーダニットからハウダニットに移行したあたりから小説が味わい深くなったとか、自作を語るアリスに作者その人を重ねたくなるのも無理はない。しかも、そのアリスの読みが肝心なところで外れていたのも皮肉と言えば皮肉で、このあたりのシニカルさはアメリカのミステリにはないものだ。

    家の相続、良家との縁組といった上流階級ならではの慣行が、母と子の間に確執を生み、物事が単純に進んでいくことを邪魔する。そんな階級にあって、エダヴェインの娘たちは自由奔放に生きようとする。エリナがそうであり、アリスもクレメンタインもまた同じだ。思春期の揺れる心をクレメンタインが、女ざかりの時代を母エリナが、そして独身の老人女性をアリスが代表している。生来奔放な女性が、戦争の時代に翻弄されながら、それでも自分らしく最後まで正直に生き抜いた姿が読後胸に迫る。すべてが明らかにされた場面、ミステリではおよそ覚えたことのない感情に支配される。至福の読書体験である。

  • ちょっとヤングアダルト風味が疲れる所もあるけど、久々になんというのかね、10代の若かりし頃に感じていた、文章への強い陶酔、メルヘンの力量(ファンタジーでもSFでもなくて)を思い出した。自分が知らないだけなのか、出会わないだけなのか、メルヘンを久々に感じた。女子は皆アリスの世界のようなメルヘンが好きなはずだが、何十年も忘れてた。別に年とっても、「少女」はいなくなるわけでなくて、変わらず自分の中にいるんだ、それをいつも忘れている。

  • イギリスの片田舎、コーンウォールの森深くにひっそりと佇む<ローアンネス>。
    謎めいた空気の漂うこの屋敷をモチーフに70年前に起きた幼児失踪の悲劇の真相を明らかにしていく物語。

    エリナ、アリス、セイディと3世代の女性達の視線を巧みに使い分けながらスリリングな展開を紡いでいく。
    セイディの青年期の過ちめいた事情や、片田舎で休息を要することとなった事件とオーバーラップする事件の謎。

    事件の重大な秘密を抱えるアリスが姉デボラからの追及を受ける覚悟を決め、話し合いに出向いたところ、思わぬ展開となる場面で下巻へと続く。

  • ミステリ作家の母親がアンチ・ホームズって面白い設定。エリナと娘達は本に浸って育ち、コールドケースに取り組む刑事セイディは、事件に取り掛かってから本に親しむようになった。モートンの小説は本当に文学への愛着を感じさせる。本作は、ナルニアと英国ミステリかな。上巻は長ぁい前振り。

  •  1930年代のイギリスで起こった幼児の失踪事件が、現代になって掘り起こされる。
     70年前、ロンドンの片田舎で幸せに暮らしていた一家に何が起こったのか、たまたま現地を訪れていたロンドン警視庁の刑事セイディは、打ち捨てられていた屋敷を発見したことから、過去の事件を独自に調べ始め、ある仮説にたどり着く。一方、事件の渦中にいた娘たちも70年間それぞれに秘密を抱えていた。屋敷の相続人でありミステリー作家になった次女のアリスは、使用人とのありし日の記憶を封印していたが、セイディからの手紙を読んで真相に向き合う決意を固める。

     過去と現代を行ったり来たりしながら、真相が徐々に見え隠れしつつ、予想していた展開が二転三転していくのは作者の真骨頂だが、今回は当時の人々だけでなく、現代で捜査を進める女性刑事セイディにも隠蔽しておきたい秘密を抱えていることがわかってくる。家族や子どもたちの幸せを単純に願う人々がどこで道を踏み誤ったのか、さまざまな思惑と推理が交錯し上巻は終了。

  • 70年前の乳幼児失踪事件の真相に迫るミステリー。

    モートン節全開で、時間や視点のパッチワークで読者を翻弄しつつ全体像を浮かび上がらせる腕はさすがです。
    物語の構成は、1910年代からの乳幼児の母のパート、1930年前半の事件パート、2003年の現代パートからなっており、現代パートは探偵役の女刑事と失踪した乳幼児の次姉の視点で真相究明されていきます。
    いつものように、前半は時代感覚や登場人物の関係や事件内容を把握するのに手間取りましたが、後半から一気に盛り上がりました。
    しかも、上巻のラストのすべてをひっくり返す長姉のセリフで引きになるとは・・・。
    思わず下巻に飛びつきました。

  • 登場人物一覧などがないにもかかわらず、登場人物は多いし、時代が行ったり来たりするので、最初は読みにくい。上巻の半分くらいまでは苦労するだろうが、慣れてくると裏に潜む真相が見え隠れして楽しくなってくる。とにかく最初を我慢して丁寧に登場人物を押さえられれば、この作品に勝ったもの同然。ただし、下巻では上巻で読者(私だけ?)が推理した真相を覆す真相になりそうで、どう展開していくか、とにかく心を踊らせながら次に進む。

  • 一瞬で終わるような場面も、描写がたいへん細かくて、ストップモーション見てるようです。実に濃密な文章で、これこそまさに外国文学の真髄。ミステリーとして読める幸せを実感しました。読み解いていくのにパワーいりますが、物語が動き出しているので、パワー持続し、下巻に突入します。

  • ケイト モートンの他の作品も面白く、これで4作品目。「湖畔荘」も情景や人物の描写が細かくて、引き込まれます。上巻の途中から話が動き出した感で下巻が楽しみです。

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著者プロフィール

1976年、南オーストラリア州ベリに三人姉妹の長女として生まれる。クイーンズランド大学で舞台芸術と英文学を修めた。現在は夫と三人の息子とともにロンドン在住。2006年に『リヴァトン館』で作家デビュー
『湖畔荘 下 創元推理文庫』より

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