執着 (海外文学セレクション)

  • 東京創元社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488016623

作品紹介・あらすじ

30代の編集者マリアが、毎朝カフェで見る仲のよい夫婦。その夫がホームレスにメッタ刺しにされて死亡。その後、親しくなった未亡人から、夫の親友だったという男を紹介されるが、未亡人仲の良いその男とマリアは関係を持つように……。ある日男の部屋でマリアは、客と男の驚くべき会話を耳にする!  事件は通り魔殺人ではなかったのか? 三角関係の精算? それとも嘱託殺人? 愛とは? 人間とは? 読者を知的妄想に引き寄せる。ミステリ仕立ての愛をめぐる考察。

感想・レビュー・書評

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  • 濃厚で、濃密で、くらくらする。改行なしに続く文章、言い換え、綿密な描写、多くの可能性の羅列。情熱も疑心も諦めも、その全てを丁寧にたどる。

    しっかり酔いたい大人の恋、しっかり酔ってこそ大人の小説。

  • むきになって1日で読んだわよ。いるじゃない、俺が俺が、って用もないのに人の会話に入ってきていきなり主役ヅラするやつ。ああいう、俺が俺がってやつ最高に嫌いなんだけど、そういう本だったわ。これが哲学小説って訳ですかい。しっかし女主人公のやな女っぷりときたら。私は受け身の女なの。とか言いながら、好きな人アゲ嫌いな人サゲは極端だし。自分が好きな人が思いを寄せてる人には「死んでくれ」たら私が後釜に座れるのにとか言う。そんな女の私が私が!とずーっと言ってる内容。この方なんとノーベル賞候補ですと。結構面白かったです。

  • ボブ・ディランがノーベル文学賞をとって話題になっているが、このハビエル・マリアスも候補に挙がっていた一人。ノーベル賞は政治的な意味合いが強いので、ボブ・ディランにいったのだろうが、今さらという気もする。それよりは、もっと読まれてしかるべきなのに、世界的にはあまり知られていない作家に光を当ててほしいものだ。オルハン・パムクもパトリック・モディアノもノーベル賞を受賞していなかったら、日本でこんなに翻訳されることはなかったろう。

    ハビエル・マリアスを読んでみようと思ったのは、候補に名が挙がっていることを知り、どんな小説を書くのだろうという興味を持ったからだ。なかなか個性的な作家で、特にその文体が特徴的だ。もっともこの一作しか読んでいないので、ほかの作品がどんなスタイルで書かれているのかは知らない。『執着』に関していえば、ページが黒々とした印象を持つほどに、改行が極端に少なく、会話であってさえ、まるで演説かと思えるほどながながと続く。

    主人公マリアは三十代の編集者。出勤前に立ち寄るカフェで、<完璧なカップル>と名づけた夫婦を眺めるのを楽しみにしていた。ある日その男性ミゲルが殺されたことを知る。何日かたち、カフェで妻ルイサにお悔やみを告げたことをきっかけに家に誘われ、そこでミゲルの友人ハビエルに紹介される。その後、街で偶然再会したハビエルとマリアはつき合うようになる、というお決まりの展開。ところが、ハビエルには秘密があった。

    自分と寝ていても、ハビエルが好きなのはルイサだとマリアは知っていた。そんなとき、寝ていたマリアは、隣室のハビエルと客との話を偶然耳にしてしまう。男はハビエルが誰かにミゲルを殺させるために選んだ仲介者だった。日頃シェイクスピアの『マクベス』やバルザックの『シャベール大佐』、デュマの『三銃士』を引用しながら、「不処罰の不条理」について語るハビエルの説は、自分がやったことについての婉曲的な告白だったわけだ。

    愛する男が、間接的にではあるが人を殺したかもしれない。自分はどうするべきか。凄いサスペンスだ。普通のミステリなら、ヒロインがこの難局をどう切り抜け、部屋から逃げ出して警察に駆けつけるか、男はそれをどう阻止するのかという展開になるのだろうが、そうはならない。こんな漠然とした話を警察が信じるかどうか疑問だし、憔悴しきっているルイサが真実を知ったらどう思うだろう。それに何よりマリアはまだハビエルを愛している。

    ここまで読んできたあなたは、これではネタバレではないか、と思うかも知れない。心配御無用。これはそんな簡単な話ではないのだ。先行する文学作品や辞書の例文まで使って、訳者の言を借りれば「恋愛と不処罰の不条理」という二大テーマを追った一種の思弁小説だからだ。ミゲルを刺した男は、娘に売春させているのはミゲルだと電話で何者かに使嗾されたという。しかし、寝起きする廃車に置かれた携帯に出るかどうか、ナイフで刺すかどうかは成り行き次第。殺人教唆にあたるかどうかすら疑わしい。

    「私はじっと時の過ぎるのに任せていた。うやむやに雲散霧消させるか粉々になるのかを待つかするのが、現実世界ではいちばん無難なのだ。頭と心の中では永遠に消えずに居座り、息が詰まりそうな腐臭を放ちつづけるのだとしても、それならなんとか耐えていくことができる。そういうものを抱えていない人がいるだろうか。」

    全編が「内的独白」を多用したマリアの一人称視点で語られている。「意識の流れ」に倣ったのか、主人公のモノローグは、しばしば脱線し、時には対話する相手に成り代わって、ハビエルの苦しい胸中も吐露すれば、ミゲルやルイサの口にするであろう言葉も自在に駆使する。もともとこのハビエル・マリアスは翻訳家で、ローレンス・スターンの『トリストラム・シャンディ』の翻訳ではスペイン国民翻訳賞を受賞している。『トリストラム・シャンディ』なら、脱線はお手の物である。

    すべて、マリアがハビエルから聞かされた話でしかない。マリアがそれをどうとるかで、これから先のマリアとハビエル、ハビエルとルイサの人生が左右されることになる。最後のどんでん返しである、ハビエルの語るところによる、ミゲルを死に至らしめた真実の理由も、伝聞である以上マリア同様、読者も疑わずにはいられない。ハビエルの言う通り、この世の中には処罰されない犯罪など、いくらでも転がっているのかもしれない。

    非常に知的で論理的。この目眩くような堂々巡りを、晦澁とまではいえないものの長広舌であることはまちがいない文体で読まされるのは、かなり被虐的快感であり、嫌いな人なら投げ出したくなるだろうが、好きな人にはくせになる。少なくとも評者は、はまった。近いうちにノーベル文学賞をとってもらいたい作家のひとりである。残る唯一の邦訳『白い心臓』もぜひ読んでみたくなった。

  • なぜマドリが舞台の小説本の表紙がシーレなのか?

    本編より、主人公がバルザックの「シャベール大佐」文中の一文、"最初の子にやがて命を落とすような性向を植え付けた女“ について考察するところが面白い…と思っていたら、ガッツリ本筋に絡んできた。
    ハビエルの殺人疑惑を盗み聞きしたマリア。こんな面倒臭く自己弁明する男と分かっていたら寝たふりしとけばよかったのにな〜と思ってたら、あら、そう来るか⁉︎
    でも結局、真実は解明されず。でもここ、ホントかどうかの調査になってたら結構白けてたかも。

    ググったら、ディグニタスが実在するのに驚いたわ〜

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ハビエル・マリアスの作品

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