『ルイ・ランベール』1832年・・・哲学的研究
『ルイ・ランベール』という作品を端的に要約すると、学生時代を共に過ごした友人が、ルイ・ランベールという青年の短い生涯を語る 物語で、ルイ・ランベールの伝記のような体裁をとっている。
ルイ・ランベールは、なめし皮職人の子として生れたが、学問好きな我が子を両親は僧にするべく、伯父に預ける。
伯父の膨大な蔵書を3年で読破した彼は、ある日、ふしぎな出会いを体験する。
スウェーデンボルグの『天国と地獄』を読んでいた少年、ルイ・ランベールは、パリを追放されていたスタール夫人と偶然に出会ったというのだ。
二言、三言言葉を交わしたあと、スタール夫人はこの少年の天分を素早く認め、ヴァンドーム学院に入学する手筈を整え、学費も出してやる。
ここで、スタール夫人が登場するのが面白い。バルザックは会うことがなかったであろうこのフランスの有名女流作家は、ナポレオンと対立することになり数奇な生涯を送った。
そのスタール夫人が、スウェーデンボルグを耽読する少年に偶然、出会うのだ。
両性具有をテーマとした幻想的なバルザックの作品 『セラフィタ』は、スウェーデンボルグの影響を多く受けた作品であるばかりか、『セラフィタ』は、スウェーデンボルグの熱心な弟子であった男爵とその妻との間に生まれた子どもであるという設定。
『セラフィタ』は『ルイ・ランベール』以後に書かれた作品だが、スウェーデンボルグにバルザックの好奇心がすでに窺える。
スタール夫人の援助を得て学院に入学したルイ・ランベールの人生に、それ以後、スタール夫人は現れない。彼女は気前よくルイ・ランベールの学費を払ってやり、ほどなく亡くなってしまう。
学院に入学して出会ったのが語り手となる友人で、彼らは親しくつきあい時を共にした。
学院を去って何年もたったある日、語り手は、ルイ・ランベールの伯父の司祭と乗合馬車で会い、ルイ・ランベールの消息を聞く。
伯父の元に戻ったルイ・ランベールは、ブロワ随一の財産家の跡取り娘のヴィルノワ嬢と結婚することになったが、結婚式の前の日、発狂したという。
その後、2年間、彼の世話をしているヴィルノワ嬢と住む場所に彼を訪ね、カタレプシーの友人と久しぶりの対面を果たす。
変わってしまった友人との再会は辛いもので、「天使は白い」と一言彼が呟いたのを聞き、ルイ・ランベールが時々口にした言葉をヴィルノワ嬢が書き留めた断片のような言葉を見て友人から立ち去った。
カタレプシーがこの時代にも見られたことは驚きに値しないが、その描写があまりにもリアルなので、バルザックもカタレプシーの患者をみたことがあると思える。
スウェーデンボルグの霊的影響と精神疾患における狂気をゆるやかに絡ませて神秘的な作品に仕上がっている印象を受けた。
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■小説89篇と総序を加えた90篇がバルザックの「人間喜劇」の著作とされる。
■分類
・風俗研究
(私生活情景、地方生活情景、パリ生活情景、政治生活情景、軍隊生活情景、田園生活情景)
・哲学的研究
・分析的研究
■真白読了
『ふくろう党』+『ゴリオ爺さん』+『谷間の百合』+『ウジェニー・グランデ』+『Z・マルカス』+『知られざる傑作』+『砂漠の灼熱』+『エル・ヴェルデュゴ』+『恐怖政治の一挿話』+『ことづて』+『柘榴屋敷』+『セザール・ビロトー』+『戦をやめたメルモット(神と和解したメルモス)』+『偽りの愛人』+『シャベール大佐』+『ソーの舞踏会』+『サラジーヌ』+『不老長寿の霊薬』+『追放者』+『あら皮』+『ゴプセック』+『名うてのゴディサール』+『ニュシンゲン銀行』+『赤い宿屋』+『ツールの司祭』+『コルネリュス卿』+『セラフィタ』+『フェラギュス』+『ランジェ公爵夫人』+『金色の眼の娘』+『ルイ・ランベール』+『総序』 計32篇