銀色の国

著者 :
  • 東京創元社
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本棚登録 : 365
感想 : 42
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488028091

作品紹介・あらすじ

浪人生のくるみは「病み垢」で死にたいとツイートすることでストレスを発散していた。ある日、フォロワーからネット上の自助グループ〈銀色の国〉に誘われる。巧妙な仕掛けに毎日ログインするうちに、くるみは〈銀色の国〉にのめりこんでいく。一方、NPO法人で自殺防止に奔走する晃佑のもとに、思い出深い相談者が自殺したと悲報が届く。調査の末、晃佑はある恐ろしい事実に辿り着く。横溝正史ミステリ大賞受賞作家が放つ、衝撃のミステリ!

感想・レビュー・書評

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  • 人の気持ちは複雑だ。相手がこういう状態だから、こういう言葉を投げかけなければ解決するというような、便利な公式はない。対話に失敗したときの無力感は、晃佑を引き潮のように迷いの沖につれていってしまう。(P.28)
    人の話を〈傾聴〉するには、話の裏を読み本音を探ることが必須だ。普通の人間はなかなか自分の気持ちを把握しきれないものだし、できても伝える表現力を持っていない。
    だが、〈傾聴〉しているから齟齬が起きているのではないか。
    表面的な情報以外を考えているから、話が噛み合わないのではないか。(P.128)
    大切にしていたものを捨てさせられたのだとしたら、感情のしこりが残っても仕方ない。しこりは成長して彼の中で腫瘍になってしまったのだろうか。(P.139)
    日常という名の方程式が、翔太という変数の登場で思いもよらない数値を叩きだしている。(P.139)
    死にたい。
    洪水のように死にたさが高まった。立っていられなくて、ベッドに倒れ込む。死にたい。死にたい。希死念慮が鼠の群れのように頭の中を走り回る。
    どうしてみんな嘘をつくんだろう。
    勝手にカウンセラーを呼ばれたときもそうだ。お前が心配なんだ。そういう善意を盾にすれば、騙し討ちをしてもいいと思っている。尾行していないと嘘をついて、ずかずかと土足で踏み込んでくる。(P.147)

  • 自殺をテーマした作品
    自死が隣り合わせになる瞬間なんて感じる事なんて出来ない。洗脳の怖さを思い知った。
    闇には逃げて逃げて逃げまくれ。

  • 最近のゲームの、グラフィックのすごさには、現実以上の陶酔感が呼び起こされる。

    オープンワールドというのだろうか、作り込まれた街並み、昼と夜で変わる色合いの中を走り回っていると、この世界にいたいなぁとふと思ってしまう。

    『銀色の国』。
    もしも、自分が現実世界にほとほと嫌気がさしていて、鮮やかな景色と、自分の気持ちを汲んでくれるキャラクターたちがいる国に招かれたなら。

    自殺にまで至らない、と言い切れただろうか。

    作中には、ブルーホエールという有名な自殺教唆ゲームも登場するものの、私がゾッとしたのは、このゲームの作り手が用いたある洗脳方法だった。
    北九州で起きた、一家が消された無残な事件を知っているだろうか。まさにその〈王様〉の姿が蘇る。

    人間の気持ちなんて、いともたやすく操られてしまうものなんだろうか。
    洗脳ではなく自分の意思だと言い切る登場人物たちを見ていると、どんなアプローチがあるのかなと考えてしまう。

    虚構を上手く現実に引っ張ってくる小説だった。

  • 現実にありそうで、結構怖い。

    読みやすくて一気に読んでしまった。

  • プロローグが面白かった
    結末が予想できちゃってたので
    欲を言えばもう少し驚きがほしかったな

  • こんなゲームがあったら確かに自殺まで引っ張れてしまう人続出しそう。
    おもしろかったけど、犯人の動機や、拉致して複数の人にゲームを作らせる課程がもっと掘り下げてあったらもっとはまったかも。

  • NPO法人<レーテ>代表、田宮晃佑が集団自殺を防ごうと駆け巡る…!晃佑と複数の登場人物の視点を交互に分けて進む物語。自殺したい人と自殺を止めたい人の切実な想いが伝わる。自分事として考えなければならない、胸突く現代の闇の一つ。

    印象的だった引用文が二つある。一つは、

    "止められない自殺は、どうしたって止められないよ。自殺を止めるのは、最終的に本人にしかできない。自死はその人の寿命なんだよ。どんな名医だって寿命は延ばせない。"

    この言葉には、頭をガツンと殴られた。自殺を止める側は、こういう割り切った考えを持ってやっているのかと思うと痛い。こう考えないとやっていけないと分かるからこそ、余計に痛い。それぐらい自殺は重いし闇は深い。

    一方で、

    "あなたも逃げていいんですよ。ーみんなもあなたという逃げ場あったからこそ、つらかった時期を凌げた。あなたも僕たちを逃げ場に使ってくれていいんです"

    この言葉には逆に救われた。自殺を逃げ場にとするのではなく、自分達を逃げ場として使ってほしい。
    一事が万事として程々に生きるこが分からない、そんな人間はどうしたって一人で殻に閉じ籠る。みんなと違う自分が恥ずかしいから、みっともないから…ぐちゃぐちゃな想いを背負って現実に立ち向かおうとする。

    生き辛いあなたへ、私も伝えたい。
    逃げてもいいんだよ。

    生きる辛さと温かさ、両方を教えてくれた
    社会派ミステリー。


  • 誰かの「悩み」「苦しみ」「痛み」を、「理解出来る」や「救える」と思うのはひどく傲慢なことなのかもしれないなと思いました。「寄り添う」や「話を聞く」が、他人に出来ることの精一杯なのかも。
    誰かの苦しみも、自分自身の苦しみも、本当に感じられるのは悩みや苦しみを持っている本人だけだし、誰かに「わかるよ〜」と言われた瞬間に、安心しつつも矮小化されてありふれたものになってしまう諦めも感じます。「わかるよ〜って、なんにもわかってないやん」、と。ゆくゆくは「あるあるかぁ」って悩みが小さくなっていくほうが良いのだろうけれど、一旦は、ただ聞いてほしいみたいな心理はわかります。わたしも、こう思いながらもわかるって言ってしまうので良くないなぁとつくづく思ったのを、読みながら思いました。
    『銀色の国』でのマインドコントロールも、そもそもの建国の経緯も方法も、とても恐ろしい。
    でも、「逃げ場」として救いには確かになっていた。何かに集中して、現実逃避しながら膨大な独り時間を過ごすのは、膨大な独り時間に自分を責め苛んでしまうよりはよい。『銀色の国』は、追い詰めるミッションさえなければ、穏やかな居場所みたいだから。問題は現実世界に上手く戻ってこられるかどうか、か。
    人の話を聞くって大事だし、大変なことなんだな。。信じるというのも。
    ここまでくると〈王様〉も関係者なんじゃ…と思ったけれどそうでなかったのが良かったです。王様は人の苦しみを聞くばかりで自分の苦しみを聞いてもらうことがなかったから、狂気を溜め込んでしまったのかな。逃げ続けた〈アンナ〉が、『銀色の国』で社会人としてコミュニケーション取れるようになるのもすごい転換でした。
    事件は伝えられるときには一方の面だけなのが殆なので、「ありえん」と思ってしまう。けれど、〈アンナ〉や〈なっつ〉みたいな事もあるのかも。「俺はお前たちの物語にはならない」となったらそれまでだけど(流行語です)。

    こう考えると、松永太ってもの凄いです。
    わたしあと10年もしないうちに半世紀生きてきた事になるけど、この間に起きた凶悪事件でも指折り。。「治安悪くなってきたな…」と思うことは増えても、「……え!?」みたいなのはそうそう無いし、無いのが一番なので。ほんとに。

  • 自殺したい人、止めたい人、バーチャル世界と現実世界、それぞれの感情がとてもリアルに感じられた。自殺をテーマにしたものだと、こちらまで気持ちが引きずられたりするのではと、不安もあったが、そういったことはなくて安心した。
    自殺をしたい人の気持ちがよく分かる。現実の世界から逃げたくて、バーチャル世界では幸せに穏やかに過ごせるなら、そちらの世界にずっといたいのも分かる。すごく共感した。逃げ癖がつくと、このまま現実に戻れない恐怖、どこまでだったらまだ間に合うのか、そういった危うい感じもよくわかる。

    それでも、自殺を止めたい人は一生懸命話を聞こうとする。人の話を聞くのってとてもとても大切なことなんだなって改めて思う。

  • 自殺対策のNPOの代表者が、ある事件の謎を追う。いままでの作品とはかなり違う色だったけど、面白かった。

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著者プロフィール

小説家。1980年、東京都生まれ。第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、2016年に『虹を待つ彼女』(KADOKAWA)でデビュー。2022年には、のちに『五つの季節に探偵は』(KADOKAWA)に収録された「スケーターズ・ワルツ」で第75回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した。このほか著作に、『少女は夜を綴らない』(KADOKAWA)、『電気じかけのクジラは歌う』(講談社)などがある。

「2023年 『世界の終わりのためのミステリ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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