たかが殺人じゃないか (昭和24年の推理小説)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488028107

作品紹介・あらすじ

昭和24年、去年までの旧制中学5年生の生活から一転、男女共学の新制高校3年生になった勝利少年。戸惑いの連続の高校生活を送る中、夏休みに不可解な二つの殺人事件に巻き込まれる――。勝利は、那珂一兵の助けを借りながら、その謎に挑む! 著者自らが経験した戦後日本の混乱期と、青春の日々をみずみずしく活写する、『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』に続くシリーズ第2弾。

感想・レビュー・書評

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  • 暗い時代背景の中でも爽やかな男女学生たちが大活躍! 戦後混乱期の本格ミステリー #たかが殺人じゃないか

    戦後すぐからのアニメ脚本や数々のドラマ脚本を手掛けてきた大御所作家の作品。御年80代後半で現役って、マジ凄すぎる。

    しかもこの年齢とは思えないほどポップで爽やかなでき映え、それでいて重厚感や作品としての存在感がキッチリあります。戦後独特の世界観や価値観の中でも、高校生たちやりとりが小気味よくて楽しいっ

    またその時代の文化や背景も良く伝わってきました。スマホ世代にはなかなか書けない小説ですよね。この時代ならではのお話、たびたび出てくるエピソードは、戦争を知らない世代には強烈な印象を残してくれます。タイトルも秀逸で読後感も素晴らしかったです。

    そして自分にとっては、時代は違えど青春を名古屋で過ごしてきたので、親しみのある地名や街並みがでてきて感慨深かった。自分の場合は平成ではありましたが、仲間達との思い出が頭をめぐり、自らの20代を懐かしむことができました。

    本作、謎解き要素は2つありますが、後半の2つ目は良くできた内容で、丁寧に考えれば糸口はつかむことができます。ただ1つ目は正直厳しいですね。できればもう少しロジカルで納得性のあるトリックだとさらに良かったです。

    まもなく本シリーズの最新作が出るようですが、まったくもってスゴイ。いつまでもお元気で、若い者には負けない迫力で、作品を届けてほしいです。

  • 読みたかった本。青春×本格ミステリと謳ってるが途中で犯人を予想でき意外性には欠けていたかも。だが語り手である「カツ丼」の淡い恋物語と絡めて描かれた戦後間もない街の様子や人々の思いが自伝的小説ということでリアルで読み応えあった。

  • 「深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説」に続く那珂一兵もの。正確に書くと那珂が登場する作品は他に「アリスの国の殺人」「残照」があるのだが、そちらは"ただ登場するだけ"なので、探偵・那珂一兵ものとしては第二作になる。

    副題を見れば分かるように前作から12年経っている。その間に戦争が激化し敗戦し、終戦後4年経ってもまだあらゆるところで混乱している。
    例えば主人公、推理小説家を目指す風早勝利は高校三年生だが、実は前年まで旧制中学の五年生で、六・三・三制に変わったために出来たばかりの高校に三年生として編入することになった。終戦直後の混乱期に一年だけ高校に行かせる余裕のある家庭は少ないと見えて、三年生だけ生徒数が極端に少ない。
    また男女共学に変わったばかりのため異性と勉強や部活をすることに戸惑いもある。それまでの日本は『男女七歳にて席を同じくせず』だったのだから、その混乱は想像出来る。
    一方で友人の大杉日出夫と薬師寺弥生のように公然と親しく出来る生徒も一定数いて、そんな彼らをやっかみなのか抵抗感からかあからさまに攻撃する天野のような卑屈なタイプもいる。勝利はどちらにも属さない、その他大勢と言ったところ。

    また前作は副題が「探偵小説」だが今作は「推理小説」となっているのも時代の変化による名称の変化。

    肝心の事件だが、推理小説研究会・映画研究会合同での修学旅行中に起きた密室殺人事件と、やはり両研究会合同での部活動中に起きたバラバラ殺人事件の二つ。
    被害者は両名とも嫌われ者だが、勝利ら高校生始め研究会関係者や居合わせた人々に動機があるのは一人しか思い付かない。だがこんな凶行がその人物に出来たかは疑問。逆に凶行自体は出来そうだか動機が思い付かない人物もいて、共犯だろうか、などとあれこれ考える。
    トリックについては、密室の方は放棄してしまったがバラバラの方は何となく思い付く。
    密室の方はかなりアクロバティック。しかしわざわざ密室にしたりバラバラにしたその理由の方に驚かされた。もう一つ、タイトルである「たかが殺人じゃないか」の意味もそこに通じていた。
    ここだけでもなるほど、と感心。

    相変わらず映画や推理小説談義が続いて思わず斜め読み。
    だがその中に那珂一兵が金田一耕助の助手をしていたという創作エピソードが入ってきて驚く。なるほど、そこで推理力を磨いてきたのか。

    この時期、仕方ないこととは言え年端もいかない少女たちが身を売らねばならなかったことに心が痛む。この作品に登場する少女のように良いパートナーに出会えた人はごく少数派で、大多数は辛い境遇のまま人生をやり過ごしたり、またはある登場人物の姉のような悲劇も多くあったのだろう。
    なのに多くの男や、同性である女までも彼女たちを蔑み弾き出す。
    勝利の戸惑いも心のゆれもなかなかリアルで、同級生や教師の一部のようにはっきり嫌悪感を剥き出しにすることはない代わりに、何だか自分だけが置いてきぼりなような疎外感を抱いたりもする。そんな世界を知らずにいるのは幸せではないかとも思うが、そんな勝利も死体を見慣れているという哀しさがある。

    那珂一兵の探偵振りは淡々としている。事件を目撃したわけではないのにサラッと解明してしまう辺り、金田一の助手をしていただけのことはある。
    しかしその心のうちを思うと切なくもなる。対して犯人の方が周囲を思いやっていて尚やりきれない。

    様々な経験と思いを込めてついに書き上げた勝利の小説は。最後の最後に「そういうことだったか!」と、思わず最初から読み直す。
    このシリーズでは一番印象深い作品となった。

  • あぁ!と声が出る一冊。

    昭和24年、高校三年生の男女が遭遇した密室殺人事件と首切り殺人事件。

    正直ものすごい意外性は感じられないけれど細かな伏線、回収作業は素直に面白い。

    そしてラストまで読むと、あぁ!と声が出るほど。これはインパクトがある。

    この戦後まもない混乱の時代、男女共学の戸惑い、思春期の少年少女の一喜一憂揺れる心、せつなさが丁寧に描かれ、ミステリと並行して味わえた時間も良かった。

    そして"たかが殺人じゃないか…"何よりもこの言葉の意味、言わしめた背景に、あぁ!と…。このタイトル、ギュッと心が苦しくなる。

  •  ミステリランキング3冠。88歳で史上最高齢での受賞作。バイデン大統領より10歳も年上! 
     作者の辻真先さんというと、私の年代だと鉄腕アトムなどのアニメの脚本家のイメージがある。1932年に名古屋生まれる。ということで、作中の高校生(新制)たちと同じ。当時の名古屋の様子とか新制高校の雰囲気などは、自身の体験を元に書いているのだろう。
     本書は那珂一兵が探偵役を務める<昭和ミステリー>シリーズの第2作なのだが、第1作の「深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説」を読みたくなった。登場人物が重複しているらしい。今月文庫版が出るとのこと。

  • このミステリーがすごい!2021年版第1位作品。

    旧制中学卒業後の、一年だけの男女共学の高校生活。修学旅行がわりの一泊合宿旅行。
    そこで巻き込まれた密室殺人事件…

    タイトルに込められた皮肉がよく効いているし、青春小説的要素もあり、こなれた内容だと思う。さすが御大!

    しかし、残念ながら、全体的には僕にはあいませんでした。

    最後の最後には大笑いした…なるほどね。

  • 物忘れがひどいんです

    年齢のせいではありません
    昔からです
    ならメモをしろ!と良く言われるんですがしません
    自己分析はできています

    覚える気がないんです

    覚える気がないからメモもしないんです
    暗記モノのテストの点数も悪くなかったので記憶力がないわけでもないんです

    覚える気がないんです

    だから買い物を頼まれても何を買いにきたかすぐ忘れます
    いや最初から聞いてないんですから忘れるもなにもありません
    怒られるのは分かっていますが奥さんに電話します
    何も買わずに帰ったらもっと怒られますからね
    「あれ?何を買ってくんだっけ?」

    『だからニンジンじゃがいも!』今日カレーかな?

    さて『たかが殺人じゃないか』です

    う〜ん、う〜ん
    まぁパロディだと思えば面白かったかな〜
    謎解きの感じもありがちすぎて逆に良かったです
    子ども騙し感がね
    それこそ漫画の原作に使われてそうなトリックがね
    逆に

    あと探偵小説と推理小説の違いについても知れて良かったです
    いやでも言われてみるとどっかで聞いたことあったかな

    う〜ん評価が難しい作品だな〜
    でもパロディだと思えば(それ最初に言ったやつ)

    (告白)
    忘れたのは実はニンジンとじゃがいもではありませんでした。全然別のものです。そんなに都合のいい話しありません。本当に忘れたのは…あれ?何だったっけ?

  • 昭和24年、今年から男女共学になった高校の推理小説&映画研究部の男女5人が顧問主導の旅行に行った先で密室殺人に、学園祭のスチールドラマ撮影の最中に首切り殺人事件に立て続けに遭遇する。推理作家を目指す勝利視点で生き生きとしていながらも戦前の闇をまだ色濃く残している復興期の名古屋の様子が存分に描かれていてとても興味深く、当時の青春の謳歌振りと理不尽に屈服せざるを得ない絶望とのコントラストも絶妙。時代がかっている台詞回しでテンポがずれて若干読みにくい箇所が。しかし密室成立条件ちょっと、いや大分無茶じゃ?だけどあっと驚く基本に忠実な真相と最後の仕掛けも綺麗に決まっていて良かった。ただ1作目読んでないのは失敗だった…。

  • 2022/03/13読了
    #このミス作品77冊目

    終戦直後が舞台の昭和ミステリ。
    推理小説研究会と映画研究会メンバーが
    密室殺人事件と首斬り殺人事件に
    巻き込まれる。
    戦後の混乱期を描くので重くなりそうな
    ところ青春要素もあって瑞々しい。
    意外と評価低いみたいだけど
    個人的には結構好きな作品だ。
    前作も読んでみたい。

  • 引率の先生含めた、推研と映研の五人の高校生たちが遭遇する、二つの殺人(密室殺人と解体殺人)の謎は、オーソドックスながら、丁寧なストーリー構成と巧みな伏線で、推理好きの方なら楽しめる作品だと思います。ちなみに私の場合、ベタすぎるオチも全く気付きませんでした。情けない。それでも、悔しいというよりは、痛快すぎて笑ってしまったが。

    また、戦後が舞台ということで、戦前と戦後の価値観が大きく変わろうという境目において、悩みながらも青春を謳歌する主人公たちの、爽やかな姿が印象的で、新たな価値観というのが、そもそも存在していない未知のものだと、なかなか理解することができないことを、改めて再実感しました。今を生きる自分にとっては当然なことでも。

    もう少し細かく書くと、最初から探偵役がいるわけではないので、物語の中で一緒に考えるというよりは、自ら読みながら伏線や気になるところを見つけていく感じで、青春要素がやや強いようにも思われました。しかし、探偵役が成長している一面も描写されていて、これが二作目なのだと実感。推理の要素は古典的な本格ものなので、一作目も読んでみたくなりました。犯人の動機や切ない胸中にも共感しましたし、表紙の絵が、あの切ない名シーンを描いていることも素朴な良さがあり、好きです。

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著者プロフィール

1932年、名古屋市生まれ。名古屋大学文学部卒業後、NHKに入社。テレビ初期のディレクター、プロデューサーをつとめたのち、脚本家に転身。『鉄腕アトム』、『エイトマン』、『ジャングル大帝』、『サザエさん』、『巨人の星』、『デビルマン』など、1500本超のアニメ脚本を執筆した。また、推理小説作家としても活躍しており、『仮題・中学殺人事件』、『迷犬ルパンの名推理』、『あじあ号、吼えろ!』、『完全恋愛』(牧薩次名義)など多数の著作がある。現在、デジタルハリウッド大学教授。国際アニメ研究所所長。本格ミステリ作家クラブ会長。

「2009年 『『鉄腕アトム』から『電脳コイル』へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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