- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488028497
作品紹介・あらすじ
蒲田署強行犯係の森垣里穂子は、殺人未遂事件の捜査中に無戸籍者が隠れ住む生活共同体を発見する。その共同体“ユートピア”のリーダーはリョウ、その妹のハナが事件の容疑者となっていた。彼らの置かれた状況を知った里穂子は、捜査が“ユートピア”を壊すのではないかと葛藤を抱くようになり……『十の輪をくぐる』の著者渾身の書き下ろし長編ミステリ。
感想・レビュー・書評
-
1996年5月森垣里穂子が6歳の時に起きた「鳥籠事件」。
名取宏子という母親が3歳の男の子と1歳の女の子の兄妹をペットの鳥と一緒に部屋に監禁容疑で逮捕された事件。
その二人の兄妹がさらに誘拐されるという事件が起きました。
2021年里穂子は結婚して一人娘を育てながら刑事として働いていました。
斎藤敏樹26歳が何者かにナイフで刺された事件を担当し、一度自白をしたけれど供述を翻した元恋人の叶内花26歳を追っていくと、無戸籍の者たちだけで集まって一緒に15人が暮らしている、皆が「ユートピア」と呼んでいる食品工場を発見します。
ハナ(花)にはリョウという兄がいて里穂子は年齢が一致することから推測して二人が鳥籠事件で誘拐された将太と桃花の兄妹ではないかと考えます。
そして特命捜査対策室の羽山圭司と一緒に捜査をすることになります。
果たして二人は誰なのか。本当に誘拐されたのか。
ユートピアの関係者が誘拐したのか…。
以下ネタバレありますので、お気をつけください。
斎藤敏樹を刺した犯人は捕まり、24年前の事件も解決します。
ハナの天真爛漫なキャラクターがこの物語を明るいものにしてずっと救っていたと思います。
「戸籍がない」なんて考えたこともなかったのですが、無戸籍で学校に通っていないとか健康保険証がないとか、あまりに当たり前のことができない人がいるということを初めて知りました。(よく読むと義務教育は受けられるらしいのですが)
無戸籍者支援を行っていた政治家でNPOの園村勝代や食品会社社長の叶内丈などの善意の人々の心があたたかく、ユートピアに暮らしていた人々のこれからの幸せを一緒に願いたいと思いました。
ミステリーとしてもよくできていて面白かったです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
初めて読む作家でした。
悲しく、残酷な話ではあるが女性刑事目線でサラッとか書かれていて読み易く、それでいて感情移入も出来るのは作家の力量なのだと思います。ミステリーとしても良かったし、終わり方も希望が持てるもので読後感も良かった。 -
殺人未遂事件を追う際に加害者の背景から浮かび上がった無戸籍者コミュニティ。
そのコニュニティと殺人未遂、そして過去の「鳥籠事件」との関連。
読むたびに切なく、苦しい気持ちになりました。
社会的弱者に対する人々の見方。
主人公を始めとした弱者を救おうとする者達。
辛さの中にも救いも見えた物語でした。
それぞれが幸せな未来を切り開けるような。
そんな世の中であってほしいと思いました。 -
【鳥籠事件】
1996年5月。幼い兄妹がアパートの一室に閉じ込められていたところを救出された。
兄妹はペットの鳥とともに監禁され、身体の発育も遅れていて、発見当時、鳥の鳴き真似や両腕を羽ばたかせる仕草しか出来なかった。
そんな2人が保護から1年後、何者かによって誘拐された。
それから24年。
刑事の里穂子は、痴話喧嘩の末に彼氏を切り付けた女性を逮捕した。初めは自分がやったと供述していた彼女は一転して容疑を否認。その女性(ハナ)は無国籍だった。
釈放されたハナの後を付けた里穂子は、ハナの住処を知って愕然とする。工場の敷地にあるそこは無国籍の人たちが住む『ユートピア』だった。
やがてそこに住むリョウとハナの兄妹をかつての鳥籠事件の被害者であると確信した里穂子は、本庁の刑事と調査を進めていくことになるがー。
私はこれまで恥ずかしながら、無国籍の問題を知らずに過ごしてきた。もし、無国籍の人の存在を知ったとしても、漠然と貧困とか怖いとか、そういうイメージがあったと思う。
どうして無国籍となったかという現状を知ることによって、そうした偏見も減っていくのではないかと思えた。本作はそういった意味でも価値のある一冊だ。 -
1996年、新宿区内のアパートの一室に育児放棄した母に閉じ込められいた3歳の男の子と1歳の女の子が救出された。
母親は、子ども二人を置き去りにして養育を放棄。
保護責任者遺棄の疑いで逮捕。
のちにこのニュースをTVで見ていた6歳の少女が刑事になる。
そして殺人未遂事件を捜査することになり、そこで無戸籍の容疑者を取り調べるうちに過去の事件に共通点を見つける。
この日本にも知らないだけで無戸籍の人が少なからずいるのだろう。
行政的に何が出来るのか、まったく知らないし考えることもなく生きてきた者としては情けない思いだ。
それでもすべては、親の責任では…と思ってしまう。
どういう事情であったとしても無戸籍にしてしまうのは身勝手だと。
無戸籍に焦点を当てたストーリーだが、過去の鳥籠事件と誘拐事件に殺人事件が絡み熱量ある一冊だった。
-
無戸籍者コミュニティ、子供を鳥と一緒に部屋に監禁していたという「鳥籠事件」、育休明けの刑事森垣里穂子。
丁寧に描かれていて、ハラハラしたり、胸が痛くなったり、ホッとしたり、引き込まれ感情移入した作品だった。
里穂子が仕事にのめり込み、家庭が大丈夫なのかも心配になったり…。
最後は明るい気持ちで読み終えた。
うまくまとまらないが、この社会の日向からこぼれ落ちてしまう人がいて(無戸籍に限らず)、私自身は声高に問題提起して行動することは苦手だが、こうやって様々な作品を通してそれらを知り、痛みを知り、心を寄せることを続けていきたい。 -
*
トリカゴ/辻堂ゆめ
読みました。
産休明けで刑事課に戻った森垣里穂子は、
当番日の深夜に起こった殺人未遂事件の容疑者を
現場で逮捕する。
ハナと名乗る彼女の取調べをする中で、
彼女が無戸籍者であることが分かるが
戸籍を持たないハナは身分を証明することも出来ず、生年月日や名前も分からない。
そして、一旦容疑を自白した筈のハナは後日、
一転して否認に転じてしまい事件は有耶無耶と
なってしまう。
証拠不十分で釈放されるハナを見送った里穂子は、
見知らぬ方向へ歩き出すハナを不審に思い後を追い
ある倉庫を発見する。
そこはユートピアと名付けられ、無戸籍者の男女と
幼い子供が集団生活をしていた。
戸籍を持たず社会から存在しないと見做されてる
彼らは、社会や福祉の恩恵を全く受けず排除され
虐げられ、ひっそりと息を殺し肩を寄せ合って
暮らしていた。
里穂子は刑事として殺人犯逮捕の職務に励む傍らで、彼らの助けになりたいと葛藤する。
民法第772条問題と無戸籍者の実情、
子どもへの虐待や育児放棄と言った社会問題が、
殺人未遂事件と過去に発生した鳥籠事件と
名付けられた虐待事件を軸にした語られる。
当たり前だと考えていた現実は、
社会のほんの一面でしかなかったことを
思いしらされて考えさせられる小説です。 -
無戸籍者が集団でひっそり暮らすユートピアがあった。
無戸籍になる理由の多くが離婚後300日問題であり、支援の手がのびているようなニュースを目にしたことはあったのだが。如何に自分が無知で浅はかだと思い知らされた内容だった。
貧困が原因で出生証明書を貰えず無戸籍になったタクロー。学校にも行けず14歳で親に捨てられ、戸籍取得のため何度も行政に助けを求めたが「日本人であることの証明」なんて出来ようもない。
また無戸籍のアツシとルミカの元に生まれた無戸籍二世のミライもまた…予防接種すら受けられない。
結末は、みんなに支援の手が差し伸べられた事にほっとしたが。これはハナとリョウの視点だったから救いがあったものの。
生まれて間もない頃から鳥籠に閉じ込められ鳥の餌を食べ言葉も喋れず歩き方もままならないまま育った幼い名取兄妹は…一年間だけ広い空に解き放たれたのち、また捕えられ鳥籠に閉じ込められ、保険金の為に殺された。こんな二人がいたなんて、非道過ぎて苦しかった。
----------
本書は無戸籍という主題だけではなく、多くの副題がありとても勉強になった。 -
無戸籍、今までこういう人が存在する事すらほぼ知らなかった。最近ニュースで離婚後300日問題で無戸籍の子供がいる事、法改正に動き出していることを知ったけど、どこか他人事というかリアルに感じた事がなかった。ネットで少し検索すると各自治体「無戸籍でお困りの方へ」というページがたくさん出て来て驚いた。
普通だと思っている事が、普通ではない人が世の中には自分が思ってる以上に存在しているのかもしれないことにショックを受けた。
かなり読み応えにある社会派ミステリーで、重い内容だったけど、最後は無戸籍の兄妹の前途多難ではあるかもしれないけど人として堂々と生きていこうとする姿に感動した。
辻堂さん、初めての作家さんだったけど、すごく重厚な作品で面白かった。